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バブル崩壊を予見した預言的作品 『機動警察パトレイバー the Movie』 

機動警察パトレイバー the Movie
9月20日(金)公開 全国リバイバル上映

■あらすじ

 1999年の東京。東京湾干拓事業「バビロンプロジェクト」のための海上施設「方舟」から、一人の男が投身自殺した。

 同じ頃、都内各地でレイバーの暴走事故が頻発していた。すべては乗務員の人的ミスとして処理されているが、どのレイバーも篠原重工の新OS「HOS」を搭載しているという共通点がある。

 じつは方舟から投身自殺した男こそ、HOSの開発責任者・帆場暎一だった。天才的プログラマーの帆場はHOSをほぼ単独で開発しており、内部にどんな不具合があるのかわからない。

 だがこれは本当にプログラムの不具合なのか? 帆場は意図的にHOSに何かを仕込んだのではないか? これが意図的な破壊的プログラムだとすれば、何かをきっかけに、HOSがインストールしてあるすべてのレイバーが暴走する可能性がある。

 レイバー暴走のトリガーになるのは、風速40メートルの強風。だがこの時、東京には超大型の台風が接近しつつあった……。

■感想・レビュー

 「機動警察パトレイバー」は1980年代後半から90年代にかけて作られた、かなり大きなメディアミックス型コンテンツだ。しかし僕はOVAやマンガ版、テレビアニメ版などは見ておらず、劇場版の2作目と3作目を観ているだけ。じつは劇場版第1作の本作も、今回公開から35年たっての初鑑賞だった。

 映画の公開は1989年だった。物語はそれから10年後、20世紀末の東京を舞台にした近未来SFだが、描かれている「世相」は映画が作られた1980年代の終わりそのものだと思う。

 この年の1月に、昭和が終わって元号が平成になった。日本は後に「バブル」と呼ばれる好景気のピークで浮かれていたが、そのバブル景気は翌年には崩壊し、株価も地価も大きく値を下げていくことになる。

 この映画では「バビロンプロジェクト」に関わる開発熱を旧約聖書の「バベルの塔」になぞらえ、天才プログラマーの帆場(留学中のあだ名はエホバ)がそこに鉄槌を下してプロジェクトを崩壊させようとする。この目論見は第2小隊の活躍もあって間一髪未然に阻止された。「バベル」は崩壊しなかったのだ。

 しかし映画の中に描かれた「バブル」は、映画の翌年に崩壊する。この映画はそれを予見した作品として、今も観る者に衝撃を与えるのではないだろうか。

 それにしても、帆場はなぜバベル(バブル)を崩壊させたかったのか? この映画には、地上げや再開発によって姿を変えていく東京の街並みが丁寧に描かれている。だがバブルによる地価高騰は、それを片っ端から暴力的に破壊していったのだ。

 バベルの塔の破壊で、人々は共通の言葉を失い四方八方に散らされたという。だが現実に都市から人を散らしたのは、大規模な都市開発だったのではないか。バベルの建設はそれ自体で、人々から共通の言葉を奪い、人を散らしていく。それはバブルが崩壊して30年以上たった今も、現在進行中の出来事として我々の前にある現実だ。

丸の内TOEI(スクリーン1)にて 
配給:松竹(今回は特別興行) 
1989年|1時間40分|日本|カラー 
公式HP:https://patlabor.tokyo/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt0100339/

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