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日本語タイトルほど甘くない驚愕の実話 『パリ・ブレスト 〜夢をかなえたスイーツ〜』

3月29日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

■あらすじ

 児童養護施設で暮らしているヤジッドは、施設の中でも札付きだった。既に十代後半の彼はあと数年で施設から出て行かなければならないのに、素行が悪くていつも問題ばかり起こしている。

 だがヤジッドには、ひとつの夢があった。それはパティシエ(菓子職人)になって、世界選手権で優勝すること。施設には黙ってパリの有名レストランでの職を手に入れたヤジッドだが、運悪く警察の一斉検挙に引っかかった彼を、施設はパリから遠く離れた別の施設に移そうとする。

 ヤジッドは施設から脱走して、あちこちの店で武者修行のように腕を磨いていくことにした。職人の世界は才能と腕がものを言う。寝食を忘れて菓子作りに没頭する彼はめきめきと腕を上げ、ほんの数年で、南仏コートダジュールのリゾートホテルでシェフの右腕とも言える重要なポジションに付いていた。

 だがヤジッドはここで、彼の才能をやっかむ同僚からの卑劣な罠に足をすくわれるのだった……。

■感想・レビュー

 たった22歳でパティスリー世界選手権のチャンピオンになり、世界的な脚光を浴びたヤジッド・イシュムラエンの自伝を映画化した青春サクセスストーリー。主演はアルジェリア出身のインフルエンサー、リアド・ベライシェ。

 どちらも知らない僕のような人にとっては、まったく知らない人物が、まったく知らない人物の実話を演じるいささか地味な話でしかない。しかし描かれている内容は、現代フランスのリアルな一断面。これはこれで、なかなか興味深い映画になっている。

 主人公のヤジッドは両親がモロッコからの移民でアラブ系。それがフランスで一番の菓子職人を目指そうとするわけだが、コートダジュールのレストランで菓子部門のトップを務めている女性シェフは、どうやら日本人らしい(演じているのはリカ・ミナモトで、役名はクミコ)。

 仕事ができれば外国人であれ非白人であれ、平気で仕事を任せてしまうのが移民社会フランスの流儀で、それに誰も何の疑問も持っていないようだ。映画の中では主人公がアラブ系であることには触れられているが、人種や出身によって主人公が悪し様に言われたり差別を受けるエピソードは皆無だ。多人種・多民族共生は、もはやフランスの前提になっているらしい。

 もっともこれは映画ゆえの「きれい事」で、実際には映画に描くこともはばかられるような差別が今なおあることを隠しているだけなのかもしれない。この映画だけを取り上げて、「フランスには人種差別がありません!」と言うつもりはない。

 しかし間違いのない事実は、この映画のモデルになったヤジッド・イシュムラエンが実際にパティスリーの世界大会で優勝し、職人としてもビジネスマンとしても成功し、本を書き、それが映画化されていることなのだ。

 映画に描かれている物語が事実かどうかは別として、今ここにこの映画があること自体は紛れもない事実。他のことはどうでも、少なくともそこに差別は一切ない。

(原題:À la belle étoile)

ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)にて 
配給:ハーク 
2023年|1時間50分|フランス|カラー   
公式HP:https://hark3.com/parisbrest/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt19815386/

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