坂本龍一がフルオーケストラで奏でる自作自演集 『Ryuichi Sakamoto | Playing the Orchestra 2014』
■あらすじ
2014年4月4日。東京サントリーホールで行われた、坂本龍一と東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートを収録したWOWOW製作のドキュメンタリー映画。
中央にヤマハのグランドピアノを設置し、その周囲をオーケストラが取り囲むようなステージセッティングの中で、坂本龍一が自作の曲をピアノ演奏し、時には立ち上がって指揮をする。
取り上げられているのはYMO時代の楽曲から、初期ソロアルバムの収録曲、映画やドラマなど映像作品のための楽曲、さらに最新の曲まで多彩。数曲演奏しては坂本がマイクを取って楽曲の説明をするというシンプルな進行スタイルで、オープニングからアンコール曲まで全17曲を演奏する。
オープニングから演奏終了まで、2時間のコンサートをほぼリアルタイムに切り取った内容。すべての演奏終了後、観客の拍手と歓声に応えてステージに現れた坂本は、コンサートマスターの手を取ってステージ脇へと引き上げる。
■感想・レビュー
2023年に亡くなった坂本龍一が、その9年前に行ったコンサートの様子だ。ビデオソフトも発売されているし、音源はネットで配信もされている。ファンにとっては「なにを今さら」という内容かもしれないが、僕はこれを今年最初に劇場で観る映画に選んだ。
あらゆる映画には、その映画が作られた時代が封印されている。『Playing the Orchestra 2014』に記録されているのは、東日本大震災の記憶だ。これは楽曲だけを収録した音源版(CDや音楽配信)にはない、映像版だけに記された刻印だと思う。
坂本は楽曲の合間に近況を語るのだが、そこではコンサートの3年前に起きた東日本大震災についての言及が多かったように思う。音楽で人と人をつなぎたい。人と人の橋渡しをしたい。それが当時の坂本龍一の思いであり、切実な願いだったのではないだろうか。
コンサートのセットリストでは、序盤を「Kizuna」や「Kizuna World」などの曲で始め、終盤に「Yae no Sakura」を持って来ている。「Yae no Sakura」は大河ドラマ「八重の桜」のテーマ曲で、これは会津(福島)出身のヒロインが活躍する物語だった。
「皆さんもそうだったかもしれないが」と言いながら、「震災直後は1ヶ月ぐらい仕事が手に付かなかった」と語る坂本龍一の言葉を聞きながら、そういえば自分もそうだったなぁ……と思い出したりする。
良いか悪いか、健全か不健全かは別にして、人は共通する「負の記憶」「痛みの記憶」によって結びつけられることがある。NHKの朝ドラが幾度も戦争の時代を取り上げるのは、それがその時代を生きた人々を結びつける「負の記憶」や『痛みの記憶」だったからだろう。
そして我々の時代にとっては、東日本大震災がそうした記憶になっているのだ。共通の痛みの上にある、鎮魂の祈り。この映画から感じ取れるのは、そんなものだと思う。
(原題:Ryuichi Sakamoto: Playing the Orchestra 2014)
109シネマズ木場(シアター6)にて
配給:WOWOW
2024年|1時間59分|日本|カラー
公式HP:https://www.wowow.co.jp/film/ryuichi-sakamoto/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt10162564/