予備知識なしでも映画作品として十分面白い 『【推しの子】The Final Act』
■あらすじ
地方病院に医師として勤務する雨宮吾郎は、担当患者の天童寺さりながアイドルグループ「B小町」の星野アイのファンだったことから、彼女の遺志を受け継ぐようにアイのファンになる。
だが吾郎の前に現れたのは、双子を妊娠したアイだった。「何があろうと推しを推し続ける!」と誓った吾郎は、アイが安心して子供を産めるよう献身的にサポート。だがアイが出産する直前、吾郎は彼女に付きまとうストーカーに殺されてしまった……。
吾郎はアイの産んだ双子の兄アクアとして生まれ変わる。妹のルビーもアイのファンだったようだ。アイは秘密出産後にアイドル活動に復帰し、数年後には国民的な人気アイドルになった。だが念願のドーム公演直前、アイはストーカーに殺されてしまう。
成長したアクアとルビーは芸能界に入る。ルビーは新生「B小町」のメンバーとしてアイドル活動。一方アクアは、自分たちの母アイの伝記映画『15年の嘘』を製作しはじめる。
■感想・レビュー
アニメにもなっている赤坂アカと横槍メンゴの人気マンガ「【推しの子】」を実写映画化した作品。ドラマ版はAmazon Prime Videoで2024年11月から配信されているが、この映画はその総集編と最終章を2時間ちょっとの時間にまとめている。
総集編パートがあるので、僕のように事前に原作マンガやアニメ、ドラマ版を観ていなくても映画は楽しめるはず。ただし物語の展開は非常にスピーディで駆け足に感じるのは諦めるしかない。
この映画でびっくりするのは、ドラマの総集編にあたる序盤部分とその後の新たなエピソード部分のスピード感が、ほとんど変わらないことだ。映画『15年の嘘』に関わる部分は映画のためのエピソードだと思うが、序盤にある総集編特有の駆け足ペースが、映画の中盤以降も継続しているのだ。
ドラマは全8話で以降を映画に引き継いでいるのだが、ひょっとすると映画で描かれた物語の完結部分は、今後ドラマの9話以降として新たに再編集されて完結編になるのではないだろうか。そんなことを考えさせるぐらい、映画のスピード感が落ちないまま最後まで持続している。
アイドルについての物語だが、歌唱シーンや芝居のシーンなども含め、登場人物たちの「芸能活動」が嘘に見えてしまえば、この映画はすべてが台無しになってしまう。だがその心配は、映画序盤にある「B小町」のステージシーンで吹き飛ばされる。その圧倒的な迫力はホンモノなのだ。
この映画で残念なところがあるとすれば、「B小町」や新生「B小町」のステージ場面が必要最小限しかないことだ。ここをもう少し分厚くすれば、新しいミュージカル映画として長く愛される作品になっただろう。
それにしても、二宮和也はすごかった。登場シーンは少ないが、物語を支配する正体不明の空虚を感じさせる悪役として、存在感たっぷりだった。上手いとか下手でない。たたずまいが、完全にカミキヒカルだった。
TOHOシネマズ日比谷(スクリーン2)にて
配給:東映
2024年|2時間9分|日本|カラー
公式HP:https://oshinoko-lapj.com/movie/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt31031808/