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いつも評価が甘くなる映画作りの映画だが 『チネチッタで会いましょう』
![チネチッタで会いましょう](https://assets.st-note.com/img/1732957722-2k0wcxairpYLqHIUju6EB8FD.jpg)
■あらすじ
ジョヴァンニはイタリアの有名な映画監督。プロデューサーである妻パオラとのコンビで、これまで何本もの映画を作ってきた。作品の国際的な評価も高い。そんな彼が、今まさにチネチッタ撮影所で新作の撮影に入っている。だがどんな映画もそうであるように、今回の映画撮影もトラブル続きだ。
新作は戦後のイタリア共産党の歴史をモチーフにしている。ソ連を手本に共産主義の理想社会を追い求めた共産党員たちが、1956年のハンガリー動乱のニュースに動揺するという物語だ。
ところが脚本の読み合わせに現れたスタッフのひとりは、「イタリアに共産党なんてあったんですか?」と基本的な質問をしてくる。主演女優の履いているミュールは気に食わないし、彼女は役作りや物語の解釈においてもしばしば監督に食ってかかる。撮影資金も枯渇する。
だが映画にとって最大の難問は、妻のパオラがジョヴァンニに愛想を尽かし家を出て行ってしまったことだった。
■感想・レビュー
ナンニ・モレッティ監督の新作は、映画撮影所を舞台に、映画作りの裏側を描いたコメディ映画。
映画作りの裏話はコメディ映画の素材に事欠かないようで、これまでも何本もの「バックスクリーンもの」が作られてきた。MGMミュージカルの『雨に唄えば』(1952)やトリュフォーの『映画に愛をこめて アメリカの夜』(1973)はこのジャンルの古典だし、日本映画の『カメラを止めるな!』(2017)や『侍タイムスリッパー』(2024)も同じジャンルの作品だ。
映画作りは映画作家たちにとってもっとも身近な世界であり、映画ファンにとっては興味のある憧れの世界でもある。映画の世界を舞台にすれば、映画監督はそれを嘘のないリアルなドラマとして描くことができるし、観客はいかに荒唐無稽な筋立てであってもそれを本当にありそうなエピソードだと信じるだろう。
そんなわけで、「映画作りを題材にした映画」はどうしても観客の採点が甘くなる傾向がある。個人的な感覚ではあるが、少なくとも1割か2割ぐらいは点数を高く見積もるのではないだろうか。
しかしそうやって甘く見積もっても、この『チネチッタで会いましょう』はさほど面白いとは思えない映画だった。どのエピソードも、どこかの二番煎じのように感じてしまうのだ。主人公が妻や娘の問題で動揺し右往左往するエピソードは、ウディ・アレンの方が上手く描くに違いない。劇中劇のイタリア共産党秘話は、ケン・ローチやタヴィアーニ兄弟あたりが好みそうな話かもしれない。サーカスの映画には、フェリーニに素晴らしい映画があった。
もちろんどんな映画モチーフにも、多くの場合は前例があり、二番煎じや三番煎じなのだ。だがそれを食いちぎり、噛み砕き、飲み込んで、消化していくのが、映画作家の力量ではないだろうか。この映画には、映画製作裏話という素材を消化しきった気配が感じられない。点が甘くてもそう思ってしまうのだ。
(原題:Il sol dell'avvenire)
ヒューマントラストシネマ有楽町にて
配給:チャイルド・フィルム
2023年|1時間36分|イタリア、フランス|カラー
公式HP:https://child-film.com/cinecitta/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt16731908/