フランスの作曲家ラヴェルの伝記映画 『ボレロ 永遠の旋律』
■あらすじ
1928年。作曲家のモーリス・ラヴェルは、有名なバレエダンサーのイダ・ルビンシュタインに、新作バレエ音楽の作曲を依頼される。だがこの時点で、ラヴェルには何のアイデアもない。イダからはその後もあれこれ曲についての問い合わせがあるが、のらくらと明確な返事を引き伸ばしたまま、ラヴェルは米国への演奏旅行に出かけてしまった。
アメリカにはヨーロッパにない風景があり音楽がある。それに刺激されて新たな曲想を得られることを期待していたラヴェルだったが、残念ながらイダの依頼に応えられるような収穫はなかった。そうこうしているうちに、イダのバレエ団は劇場を押さえ、公演のスケジュールを組んでしまった。公演の目玉はラヴェルの新作バレエだ。
一度は他の作曲家のピアノ曲を管弦楽版に編曲することで話がついたが、選んだ曲は他の作曲家が管弦楽版の権利を取得していると知って、作業を放棄せざるを得なくなる。いよいよ万事休すだ。
■感想・レビュー
フランスの作曲家ラヴェルの伝記映画。彼の代表作である「ボレロ」の誕生にまつわる物語を軸に、若き日の成功と挫折から、病に苦しめられた晩年と死までを描いている。
若い日から順を追った編年体の伝記ではないため、映画を観ていても少々わかりにくいところがある。映画の序盤に出てくるローマ賞の落選エピソードなどがその代表だし、「ボレロ」を作曲した頃のラヴェルが、作曲家としてはほとんど仕事をしていなかったことも映画だけではよくわからない。
じつはラヴェルの作品のほとんどは1890年代から1910年代に集中していて作られており、1920年代以降の作品は「ボレロ」を含めて数えるほどしかない。彼は1937年に亡くなっているが、その10年ほど前から記憶障害に悩まされていたという。ちょうど「ボレロ」を作曲した頃で、その様子は映画にも少し描かれている。だがひょっとすると、作曲意欲の減退も含めて1920年代以降には何か大きな変調があったのかもしれない。
映画はこの病の真相究明には深入りせず、作曲家ラヴェルがのたうち回りながら曲を作っていく様子を克明に描いていく。出ないアイデアを絞り出そうと苦しむラヴェルの周囲で、様々な「音」が、有名な「ボレロ」のリズムやメロディを微かに、断片的に奏でているのがわかる。それらが積もり積もって、最後にあの曲へと結実していくのだ。
作曲家の伝記映画としては、同時代のアメリカの作曲家ガーシュウィンの伝記『アメリカ交響楽』に似ていると思う。おそらく映画の作りてもそれは多少意識していて、ラヴェルのアメリカ演奏旅行中のエピソードとして、ハーレムのジャズクラブで黒人歌手が歌う「The Man I Love」を聴くシーンを入れている。
バレエ音楽としての「ボレロ」はモーリス・ベジャール振り付けのものが有名なのだが、映画ではイダ・ルビンシュタインの初演版演出を再現しているのが見どころだ。
(原題:Bolero)
TOHOシネマズシャンテ(スクリーン3)にて
配給:ギャガ
2024年|2時間1分|フランス|カラー
公式HP:https://gaga.ne.jp/bolero/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt26656821/