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三谷幸喜版『魅惑の巴里』 『スオミの話をしよう』

スオミの話をしよう
9月13日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 閑静な高級住宅街にある大邸宅に、二人の刑事が乗り込んでくる。そこは国民的な詩人・寒川しずおの自宅兼仕事場だが、先日から行方をくらませている寒川の妻・スオミのことを調べに来たのだ。これはひょっとすると、誘拐事件かもしれない……。

 刑事の一人・草野圭吾は、じつはスオミの前の夫だ。今でも彼女に未練がありありの草野は、事件性はないと言い張る寒川を横目に、誘拐と失踪の両面から調べ始める。だが寒川から聞かされるスオミの様子は、自分と結婚していた頃の彼女とは似ても似つかない。

 やがて寒川邸には、スオミの誘拐をほのめかす脅迫状が届く。ここに割り込んできたのが、寒川邸で下働きをしている魚山大吉。彼はスオミの最初の夫だった。さらに事件を聞きつけて、スオミの3番めの夫・宇賀神守も参入。彼はなぜか、彼女を中国人だと思っていた。スオミにはさらにもうひとり、別の夫もいた。一体全体、スオミはどこに姿を消したのだろう?

■感想・レビュー

 三谷幸喜が脚本と監督を兼ねたコメディ映画。今回が9本目の監督作だというが、僕はデビュー作の『ラヂオの時間』(1997)から4作目の『ザ・マジックアワー』(2008)まではリアルタイムで観ているが、それ以降は観ていない。今回は久しぶりの三谷作品の鑑賞となった。

 主演は長澤まさみだが、映画の大半で彼女は回想シーンにのみ登場し、終盤までは姿を見せない。彼女が演じるスオミについて夫や元夫たちが各人各様の思い出話をするのだが、その内容がチグハグで噛み合わないというのが映画の中心アイデアだ。

 これはたぶん、古い映画に似たような話があるのだと思う。僕は『魅惑の巴里』(1957)を連想したが、他にも同じような映画は1ダースぐらいありそうな気がする。

 物語の仕掛けを考えると、スオミは最後の最後まで映画に登場させない方法もあったと思う。あるいは『魅惑の巴里』のミッツィ・ゲイナーのように、最後にワンシーンだけ出して幕にしても良かった。もちろん三谷幸喜だってそのぐらいのことは検討したと思うが、そうしなかったのは監督なりに別のものを描きたかったからなのだろう。

 もっとも僕には、それが何なのかが良くわからなかった。スオミが登場しないまま男たちがドタバタを演じる終盤までの展開に比べると、スオミが登場してからの結末部分は説明過多でつまらないと思う。スオミは男たちを翻弄する魔性の女。それを白日のもとに引っ張り出してしまえば、見えないことで発揮されていた魔性の力は失せてしまう。

 この映画は全体として演劇的な匂いが強い。舞台は基本的には寒川邸をが中心で、回想シーンでそこから出たり入ったりするだけ。飛行機のシーンもセット撮影なので、カメラが屋敷外に出ていったという空気感には乏しい。こうしたミステリー仕立てのワンセットドラマも、映画にクラシックな雰囲気を生み出している。

 映画のあとはなぜか柿ピーが食べたくなった。

ユナイテッド・シネマ豊洲(4スクリーン)にて 
配給:東宝 
2024年|1時間54分|日本|カラー 
公式HP:https://suomi-movie.jp/
IMDb:https://www.imdb.com/title/

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