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教員だからこそ知っておくべき『行動経済学」』

昨日の記事では、10万部突破のベストセラー、相良奈美香さんの『行動経済学が最強の学問である』を通して、人が「つい」行動してしまう理由を行動経済学の視点から紹介しました。

「スマホをつい見てしまう」「勉強を後回しにしてしまう」など、私たちが非合理的な行動を取るのは、意思の弱さではなく、脳に備わった行動のクセが原因です。

行動経済学の知識は、ビジネスやマーケティングだけで使うと思われるかもしれませんが、実は教育や子育てにも応用することができます。

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【実は、すでにやっている先生がたくさんいる】

今回紹介する心理メカニズムを読んで、「あれ?これ、普段から自然とやっているかも」と感じる先生がいるかもしれません。

実は、それ大正解。

教育現場には、理論を知らなくても、経験的に効果的なアプローチを実践している先生がたくさんいます。

「問いを教室に掲示する」「友達同士で発見を共有する」など、行動経済学で有効とされる手法を、長年の経験から無意識に取り入れているのです。

今日の記事を読んで、「自分のやってきたことって、理論的にも正しかったんだ!」と気づいてもらえたら嬉しいです。

今日は、その具体的な活用法を10個ご紹介します。


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1.ナッジ理論で「自ら学びたくなる教室」をつくる

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ナッジ理論は、「人が自然と望ましい行動を選ぶように環境をデザインする」考え方です。

「手洗い習慣を増やすために洗面台のデザインを工夫する」など、海外の公共機関や企業でも活用されています。

【教育現場での具体例】

・問いの掲示板を教室に設置する。
→ 「この歴史的な出来事が現代に与えた影響は?」など問いを目立つ場所に貼る。

・「今週の発見」コーナーを設け、授業中の生徒の気づきを掲示する。
→ 自分の発言が教室の一部になることで、学びへの関心が高まる。

ポイントは、「やりなさい」ではなく、自然に「やってみたい」と感じる仕掛けをつくることです。

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2.アンカリング効果で積極的な活動を生み出す

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アンカリング効果とは、「最初に提示された数字や情報が、その後の判断基準になる」現象です。

スーパーで「通常5,000円→3,000円」と表示されると、3,000円が「安い!」と感じるのが典型例です。

【教育現場での具体例】

①「今日は30個の疑問を出そう!」と目標を数値で示す。
→ 「そんなに出せるかな?」

②「30個は難しいかな?そしたら10個はどう?」→「いけるー!」

最初に10個を提示すると、「多くて無理」となるところを「30個」→「10個」の順番で提示することで「頑張ってみよう!」という前向きな気持ちがが生まれやすいです。

ポイントは、「数値の伝え方を工夫すること」で生徒の思考を前向きにすることです。

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3.社会的証明で「学びの文化を育てる」

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社会的証明とは、「他の人がやっていると、自分もやってみようと思う心理」です。

「人気No.1メニュー」と表示されたものがより売れやすいのは、この効果によるものです。

【教育現場での具体例】

・「今月の読書チャレンジ参加者」を掲示
→ 「すでに15人が挑戦中!」と表示する。

・クラスでの発見共有スペースを設ける
→ 仲間の発見を読むことで刺激を受ける。

ポイントは、「学びがみんなの中で当たり前」という雰囲気を作ることです。

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4.選択のパラドックスで「迷いを減らす」

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選択のパラドックスとは、「選択肢が多すぎると、決断を先延ばしにしてしまう心理」です。

「Netflixで映画を選ぶのに時間がかかる」のもこの心理が関係しています。

【教育現場での具体例】

・「今日のテーマはこれ!」とあらかじめ3つの選択肢に絞る。
→ 迷う時間が減り、集中力が高まる。

・「学習プロジェクト候補」を3つ以内にする。
→ 意思決定がスムーズになる。

ポイントは、「選択肢を減らして迷いを防ぐ」ことです。

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5.フレーミング効果で「やる気を引き出す」

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フレーミング効果とは、「同じ内容でも、表現次第で受け取られ方が変わる心理」です。

「正答率80%」と「間違い率20%」では、前者の方がポジティブに感じるのが典型例です。

【教育現場での具体例】

・「学習課題」を「探究ミッション」という名前にしてみる
→ ワクワクする雰囲気が生まれる。

・「覚えるべきこと」を「未来を予測するための知識」に表現変更
→ おぼえることをおもしろがれるかも。

ポイントは、「言葉の選び方を変えて学びを楽しくする」ことです。


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6.ザイオンス効果(単純接触効果)で「学びの定着を促す」

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ザイオンス効果(単純接触効果)とは、「何度も接触することで、その対象への好感度が上がる心理」です。

企業がCMを繰り返すのは、何度も目にすることで商品への好意を高めるためです。

【教育現場での具体例】

・教室に「数学の大事な公式」を掲示する。
→ 毎日見るうちに公式が自然と定着する。

・朝のホームルームで「今日のことわざ」を発表する。
→ 名言やことわざを繰り返し聞くことで自然と身につく。

ポイントは、「何度も接触させる仕掛け」をつくることで、学びが定着します。

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7.コントラスト効果で「気づきを深める問いをつくる」

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コントラスト効果とは、「異なるものを比較したとき、その差が強調されて認識される心理」です。

例えば、温水に手をつけた後で常温の水に触ると冷たく感じる現象がその例です。


【教育現場での具体例】

・歴史の授業で「昔と今の生活」を比較する。
→ 江戸時代と現代を比較して理解を深める。

・作文指導で「友達の文章」と比べる時間をつくる。
→ 他者の作品と比べることで、自分の文章の改善点に気づく。

ポイント:比較を取り入れると、理解が立体的になります。


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8.ハロー効果で「生徒の興味を引き出す」

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ハロー効果とは、「第一印象がその後の評価に強く影響する心理」です。

例えば、「ノーベル賞受賞者が推薦する本」と聞くと、その本が価値あるように感じる現象がこれにあたります。


【教育現場での具体例】

・授業の冒頭で「へぇーそうなんだー!!」と思えるような事実を紹介する。
→「世界で最も読まれた本は何か知ってる?」など、興味を引く問いかけ。

・「学びのヒーロー」として偉人の驚くようなエピソードを紹介する。
→ 「エジソンは、子どもの頃、学校に行かなくなったんだ!」と驚きを生む

ポイント:最初の印象が、生徒の学習意欲を左右します。やはり授業は最初の場の作り方が大切です。

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9.コンコルド効果(サンクコスト効果)で「継続力を引き出す」

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コンコルド効果とは、「これまで費やした時間や労力を無駄にしたくない」と感じる心理です。

映画をしばらく見ていると「途中からおもしろくないと思っても最後まで見てしまう」ことがあるのもこの効果です。

【教育現場での具体例】

・「学びのスタンプカード」を導入する。
→ 授業で発言するたびにスタンプを押し、スタンプの数を定期的に数えてみる。継続的な学習意欲を育む。

・「探究ジャーナル」を作成し、学びの軌跡を記録する。
→「ここまで書いたんだから、最後までやろう」とやる気が出る。

ポイント:積み上げてきた努力を可視化することで、継続力が伸びます。


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10.バンドワゴン効果で「学びの流れをつくる」

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バンドワゴン効果とは、「多数派に流されやすい心理」です。

「みんなが使っているSNS」と聞くと、自分もやってみたくなるのはこの効果です。


【教育現場での具体例】

・教室に「人気の本ランキング」を掲示する。
→「あの本、友達が読んでるから自分も読もう」となる。

・「クラスの3分の2が発表に挑戦中」と示す。
→「自分も発表してみようかな」という気持ちを引き出す。

ポイント:仲間の行動が見えると、行動の後押しになります。

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終わりに

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教育の現場には、理論を知らなくても、経験から「生徒が動きたくなる教室」をつくっている先生がたくさんいます。

今日の記事で、「あ、これ私の教室でやってる!」と感じた先生がいたのではないのでしょうか。

その経験は、世界的な学問である行動経済学でも効果が認められているアプローチです。

そんな経験を理論として知っておき、その知識をさらに活用してみてください。

生徒が「やらされる学び」から「自分で学びたくなる学び」に変わる瞬間が、きっともっと増えるはずです。