【読書感想文】フリードリヒ・シラー『群盗』
二つの版で読んだ。一つは、初版及び再版に基づいている、久保栄訳の岩波文庫、もう一つは、マンハイム宮廷劇場での初演時の上演台本に基づいている、内垣啓一訳の白水社「シラー名作集」の一部。かなり中身も違っていたし、訳者による文体の違いも大きかった。ただ、かつてはゲーテと並び称され、今では埋もれがちな、シラーの天才が良くわかる、大変ドラマチックな、シュトルム・ウント・ドラングの傑作だった。弟の姦計によって、父親と切り離され、絶望から盗賊に身を落としたカール・モールの勇猛さと絶望とが、鬼気迫る表現で表現されていた。ネタバレになるが、最愛の許嫁を自ら殺すに至る悲劇が、大変文学的な表現で、格調高く謳いあげられていた。シラーは天才だと思った。反逆の精神というよりは、人格の悲劇というように、私は読んだ。ゲーテばかり読んで、シラーは初めて読んだので、感激した次第である。シラーもいい。もっとたくさん作品集が出ていたらいいのにと思う。