参考文献・参考Webサイトの紹介 (グレゴリオ聖歌逐語訳シリーズ・はじめに・4)
更新履歴 (2023年1月10日以降)
2024年11月6日
「聖書」の部を「聖書 (コンコルダンス含む)」とし,Bonifatius FischerによるVulgataコンコルダンスをここに加えた。
2024年10月30日
「典礼書・聖歌書とその解説,典礼暦 (教会暦) 関係」の部に追加:HERMES, Michael, Das Versicularium des Codex 381 der Stiftsbibliothek Sankt Gallen. Verse zu den Introitus- und den Communioantiphonen, St. Ottilien (2)2010.
2024年5月29日
「典礼書・聖歌書とその解説,典礼暦 (教会暦) 関係」の部にOrdo Cantus Missae (1972年版) を加えた。
2024年4月24日
「聖書」の部にLaParola.Net中のギリシャ語新約聖書のページを加えた。
2024年2月27日 (日本時間28日)
「聖書」の部にシュトゥットガルト詩篇書を加えた。
2024年2月20日 (日本時間21日)
「ラテン語関係」の部に水谷智洋編『羅和辞典』改訂版を加えた。
2024年2月2日 (日本時間3日)
「聖書」の部にKnox Bibleを加えた。また,Douay-Rheims 1899 American Editionを無印のDouay-Rheimsと置き換えた。両者はまとめて説明する形にした (両者とVulgataとを並べて閲覧できるサイトがあるので。このサイトに載っているのが無印Douay-Rheimsであることが,上記の置き換えを行なった理由である)。
2024年1月27日 (日本時間28日)
「聖書」の部に "BibleBento" を加えた。
Patrologia Latinaのところに便利な索引・検索機能がついたオンライン版へのリンクを加えた。
2023年11月24日
1962年版ミサ典書について,PDFを無償ダウンロードできると記してリンクも置いていたが,このPDFは内容を見るに本当に1962年版であるか甚だ疑わしいので,当該記述とリンクとを削除した。
2023年3月8日 (日本時間9日)
「聖書ギリシャ語の辞書」の部を「聖書ギリシャ語・ヘブライ語の辞書」と改称し,ここにGesenius (聖書ヘブライ語・アラム語辞典) を加えた。
2023年2月2日
「典礼書・聖歌書とその解説,典礼暦 (教会暦) 関係」の部に,MISSALE ROMANUM (1474年版) および丸山桂介『バッハと教会 聖トーマス・聖ニコライ両教会のペリコーペとバッハのカンタータ』を加えた。
2023年1月10日 (日本時間11日)
「典礼書・聖歌書とその解説」の部を「典礼書・聖歌書とその解説,典礼暦 (教会暦) 関係」と改称し,ここに "Feiern im Rhythmus der Zeit" シリーズ2冊を加えた。
【典礼書・聖歌書とその解説,典礼暦 (教会暦) 関係】
Graduale Triplex […] (1979,ただし手元にあるものは1998年発行)
「グラドゥアーレ・トリプレクス」。本文のテキストはここから写している。全ローマ・カトリック教会の暦 (各地域の暦ではなく全教会の暦) ではどの日にどのグレゴリオ聖歌を歌うことになっているかの情報もここから得ることができる。
これの基本となっているのは1974年版のGraduale Romanum (「グラドゥアーレ・ローマーヌム」,ローマ・ミサ聖歌書) であり,楽譜の上下に2種のネウマが書かれている (古い写本から書き写されている) こと以外はページ番号も含めて同じ内容である。
実際に典礼の中で用いるにあたっては,比較的最近行われた変更 (私が今知っている限りでは,何人かの聖人の記念日の変更や称号の付加くらいだが) は反映されていないことがあるので,注意を要する。もっとも,手元の1998年発行の本では1982年に列聖されたコルベ神父の記念日が聖人の記念日として載っており,1979年より後に行われた変更でもどこかの時点までのものは反映されていることになる。しかしそれがどの時点までなのか (1998年というのはあくまで私の手元にある本の発行年にすぎず,増補・改訂年ではない),また1998年より後に発行されたものではさらに増補・改訂が行われているのかどうか,私は知らない。
また,地域によって運用が異なる点も少しあることにも気をつける必要がある (いくつかの祝祭日の日取り,地域の聖人の記念日など)。
以上のような細かい点については,どの入祭唱がいつ用いられるかのまとめの表に記しておいたので,必要あるいはご関心があればご利用いただきたい。
ところでタイトルの "Graduale" はここでは昇階唱のことではなく,一般にミサ用のグレゴリオ聖歌の本を指す語である。
この本に現れるさまざまな指示書き (前書きを除く) はすべてラテン語で書かれているが,その一部 (といっても主要なものはだいたいカバーできているかと思う) の訳はこちらの記事にある。
Graduale Novum […] (I, II, 注釈)
「グラドゥアーレ・ノヴム」。グレゴリオ聖歌の旋律の本来の姿を再現しようというここ数十年の研究の成果として作られた, 「新しいGraduale (=新・ミサ聖歌書)」。I (2011年出版) には主日と主要な祝祭日の聖歌,II (2018年出版) にはそれ以外 (週日,ほとんどの聖人の祝日や記念日など) の聖歌が収められている。
同じようなものがオンライン・無償で利用できる (Anton Stingl jun.氏の "Gregor & Taube",後述)。
Graduale Romanum […] (1961年版)
第2バチカン公会議 (1962–1965年) の直前に出版された「ローマ・ミサ聖歌書」だが,内容は1961年時点での最新の典礼規定に沿っていない部分がある。発行年が1961年だというだけで,もっと前のものをそのまま刷り直したのかもしれない。
改革後の典礼でも引き続き用いられている聖歌 (多くはそうである) の四線譜については,今のGraduale Romanum/Triplexと全く同じである。もとはといえば1908年に出たバチカン版の四線譜がずっと用いられているもので,そこからの変更点はイクトゥスの付加と譜割りのみだと思う (きちんと比較したことはないが)。
無償でダウンロードできる。
Liber Usualis Missae et Officii […] (1957年版)
「リベル・ウーズアーリス」。第2バチカン公会議後の典礼大改革 (1969年のアドヴェントから順次導入された) まで用いられていた,主要な日のミサと聖務日課の式文を記した本で,聖歌には楽譜 (四線譜) もついている。何といっても聖務日課の式文も入っているというのが便利。
典礼改革前のものなので,当然それに応じた内容・構成になっている。
最初の版が出たのは1896年だが,私の手元にあるのは1957年版。1961年版がオンラインで無償で手に入る。ページ番号は57年版でも61年版でもたぶん変わらないと思われる (おそらくその調整のため,ときどき1つのページ番号が何ページにもわたって割り当てられている [261A, 261B, 261C…のように] のが見られるので)。
HESBERT, René-Jean (ed.), Antiphonale Missarum Sextuplex (AMS), Roma 1935
「6欄対照のミサ用アンティフォナーレ」。AMSと略される。9世紀 (一部8世紀の可能性あり) のミサ用聖歌書6つの内容を横に並べて活字にしたものである。ネウマなど旋律の情報はなくテキストのみ (この本にまとめられるとき割愛されたのではなく,どの聖歌書にももともとテキストしか記されていない)。PDFを無償でダウンロードできる。
収録されている6つの聖歌書は次の通り。
モンツァ (Monza) のグラドゥアーレ (M)
ライナウ (Rheinau) のアンティフォナーレ (R)
モン=ブランダン (Mont-Blandin) のアンティフォナーレ (B)
コンピエーニュ (Compiègne) のアンティフォナーレ (C)
コルビ (Corbie) のアンティフォナーレ (K)
サンリス (Senlis) のアンティフォナーレ (S)
Graduale Triplexでそれぞれの聖歌の楽譜のはじめに手書きで書かれているアルファベット ("RBCKS" など) は,これら6聖歌書のうちどれにその歌が含まれているかを示すものである。
なお,ここでは「グラドゥアーレ (Graduale)」「アンティフォナーレ (Antiphonale)」は現在と異なる用語法で用いられている。現在であれば「グラドゥアーレ」はミサ用の聖歌書,「アンティフォナーレ」は聖務日課用の聖歌書を指すが,この6つの聖歌書はすべてミサ用であるか,少なくともミサ用聖歌の部分を含む。また唯一「グラドゥアーレ」と称される「モンツァのグラドゥアーレ」の内容は独唱者用の聖歌書 (昇階唱,アレルヤ唱,詠唱を収録) であって,このようなものを特に指す場合,少なくとも現在なら「カンタトリウム (Cantatorium)」という語を用いるところである。Graduale Triplexの前書き (3言語で書かれている部分) では6つの聖歌書が現在の用語法で呼ばれている (まず「モンツァのカンタトリウム」,あと5つはすべて「グラドゥアーレ」)。
HERMES, Michael, Das Versicularium des Codex 381 der Stiftsbibliothek Sankt Gallen. Verse zu den Introitus- und den Communioantiphonen, St. Ottilien (2)2010
Cod. Sang. 381 (ザンクト・ガレン修道院図書館所蔵の第381番の写本) の研究書だが,そこに含まれている入祭唱・拝領唱の詩篇唱のテキストと旋律 (詩篇唱定式) を活字化・四線譜化して刊行してくれているのがたいへんありがたい。詩篇唱定式の四線譜は,音高非明示ネウマからの著者による再構成である。
Ordo Cantus Missae (1972年版)
第2バチカン公会議 (1962–65) 後の典礼大改革の中で,教会の暦やそれぞれの日の聖書朗読箇所などにも大きく手が加えられた。それに対応し,新しい典礼ではどの日にどのグレゴリオ聖歌を歌うかを定めたものがこれである。Graduale Romanum (1974) / Triplex / Novumにおける聖歌の割り当ては,だいたいこの1972年版に従っている。なおその後1988年に第2版が出ているが,そういうわけで本シリーズでは1972年版を参照する (あと,正式な版として出たのかどうか知らないが,1970年版のPDFを見たことがある。中身は1972年版と若干異なり,上記諸聖歌書に対応しているのはあくまで1972年版である)。
Schott-Messbuch für die Sonn- und Festtage (1982–1983) /
同 (2018–) /
Schott-Messbuch für die Wochentage (1984)
一般信徒が気軽に手元に置けるミサ典書 (載っていない事項も多少ある)。ドイツ語。
カトリック教会が用いているドイツ語聖書 "Einheitsübersetzung" が2016年に改訂されたことに伴い,Schott-Messbuchも2018年から改訂版が順次出版されている。主日と主要な祝祭日のためのものについては,2019年11月20日現在,A年用のものとC年用のものが出ている。2020年中にB年用が出る予定である。
Missale Romanum 1962;
RAMM, Martin / Priesterbruderschaft St. Petrus (ed.), Volksmissale. Das vollständige römische Messbuch nach der Ordnung von 1962, lateinisch/deutsch, Thalwil (2)2017
第2バチカン公会議後の典礼大改革 (1969年のアドヴェントから順次導入された) より前の形のローマ典礼は,今でも「特別形式」の典礼として一部で続けられているが,その際にミサで用いることになっているのがこの1962年版MISSALE ROMANUM (ローマ・ミサ典書) である。オンラインでPDFが手に入る。
これ (すべてラテン語で書かれている) をドイツ語話者の一般の人々向けに対訳・解説つきにしたものがVolksmissaleであるが,この解説を読んで目を開かれることは多い。
ところで,個人的に,探すのにけっこう苦労したのでここにメモしておく:四季の斎日は,アドヴェント第3主日の次,四旬節第1主日後の火曜日の次,聖霊降臨祭の週の火曜日の次,聖霊降臨祭後第17主日の次のところに載っている。
Outline of the 1962 Missale Romanum (Archconfraternity St. Stephenによる)
トリエント公会議から1962年までのミサの規定の歴史と,1962年版ミサ典書の各項目の解説。英語,4ページのPDF。
Missale Romanum 1474
グレゴリオ聖歌が置かれた本来の文脈にいっそう近づくべく,第2バチカン公会議だけでなくトリエント公会議 (16世紀) よりも前までさかのぼりたいときにはこの版のミサ典書を見る。だいたいはトリエント・ミサ (1570年~) と同じなのだが,割り当てられている聖書朗読箇所が異なることがある (少なくとも,アドヴェント第1主日と第2主日の福音書朗読箇所が異なる)。ちなみに,トリエント公会議の影響を受けなかったルター派教会は,この古い朗読箇所の割り当てをカトリック教会よりも長く保存することになった。
オンラインで閲覧できる。
AUF DER MAUR, Hansjörg, Feiern im Rhythmus der Zeit I (Herrenfeste in Woche und Jahr), Regensburg 1983
HARNONCOURT, Philipp / AUF DER MAUR, Hansjörg, Feiern im Rhythmus der Zeit II/1 (Der Kalender / Feste und Gedenktage der Heiligen), Regensburg 1994
典礼暦の原理と歴史についての詳しい解説書。
丸山桂介『バッハと教会 聖トーマス・聖ニコライ両教会のペリコーペとバッハのカンタータ』東京 (音楽之友社), 1989年
中世からバッハ時代までのカトリック教会とルター派教会においてどの日のミサ/礼拝でどの聖書箇所が朗読されるよう定められていたかをまとめた,たいへん貴重かつ興味深い表を含んでいる。
【聖書 (コンコルダンス含む)】
Vulgata
昔のラテン語聖書。グレゴリオ聖歌研究のためには,ヘブライ語やギリシャ語の原語聖書よりこちらのほうが重要である。一口にVulgataといっても,実は数世紀にわたる筆写や校訂を経てテキストは変化を蒙っている。
これはもともとはヒエロニュムスを中心とする人々が訳したり既存訳を改訂したりしてできた (4~5世紀) ものだが,その時点でのテキストを完全に再現することは困難だし,しかも,この時点でVulgata (当時はまだそうは呼ばれていなかった) には最高の権威が与えられていたわけではなく,いくつもあるラテン語訳聖書テキストの一つにすぎなかった。しかし8世紀にアルクィンによる校訂が行われ,これによってできたテキストは規範的なものとなった。
その後16世紀にVulgataはカトリック教会の公式聖書と宣言され,同世紀末に教皇シクストゥス5世とクレメンス8世のもとで改訂版が発行されたが,この改訂による変更は古写本に基づいてではなく,文学的理由あるいは教義上の理由から行われたものであった。20世紀後半に新Vulgata (Nova Vulgata) が出るまでこれが教会公式版だったが,そういうわけであるから,グレゴリオ聖歌研究にあたってはこの版に基づいて考えるのはよくないということになる (が,本シリーズの第41回 [2020年1月9日] まで私はそれを行なってしまっていた。後述)。(以上,de Gruyter社発行の羅独対訳Vulgataの第3巻 [後述] の最初にある解説文を参考にした。)
本シリーズの第41回(2020年1月9日投稿)まで私が利用していたVulgataのテキストは,BibleGatewayというサイトで利用することのできるものである。あまり深く考えず,手軽なのでそうしてきたが,ここに載っているテキストは16世紀改訂版(シクストゥス・クレメンス版)のものであり,これは前述の通りグレゴリオ聖歌研究にはふさわしくない。
ドイツ聖書協会から発行されているWeber/Gryson版は,古写本に基づき,ヒエロニュムスのときのテキストをなるべく再現しようと試みた校訂版である。テキストのみ (注釈なし) ならばオンラインでも利用できる。しかしこのオンライン版は,詩篇については残念ながら用いることができない。Weber/Gryson版は2種類の詩篇テキストを収めており,1つはヒエロニュムスの全3回の仕事のうち2回目のもの,もう1つは3回目のものであり,グレゴリオ聖歌に関係あるのは前者なのだが (このあたりについて詳しくは後述),オンラインで利用できるのは後者のみだからである。
HIERONYMUS, BIBLIA SACRA VULGATA. Lateinisch-Deutsch, Band III, Psalmi – Proverbia – Ecclesiastes – Canticum canticorum – Sapientia – Iesus Sirach (ed. by Andreas Beriger / Widu-Wolfgang Ehlers / Michael Fieger), Berlin/Boston 2018
これはそのWeber/Grysonの2007年第5版にドイツ語訳 (既存のドイツ語聖書のテキストではなく,Vulgataテキストから訳したもの) をつけたもの (全5巻) の第3巻であり,詩篇などが収められている。これを入手して以降 (2020年1月27日~) は,Vulgataの (=ガリア詩篇書の。これについては後述) 詩篇テキストとしては常にこれを参照している。
ローマ詩篇書 (Psalterium Romanum) / ガリア詩篇書 (Psalterium Gallicanum)
グレゴリオ聖歌にとって特に重要な文書である詩篇については,以上述べたVulgata全体の歴史とはまた別の点で事情が込み入っている。
Vulgataのテキストの大部分に改訂者または翻訳者として関わったヒエロニュムスは,詩篇については3度にわたる仕事をした。まずローマにいたときに,七十人訳ギリシャ語聖書を参照しつつ,古いラテン語訳詩篇の改訂を行なった (ローマ詩篇書 [Psalterium Romanum])。次にベツレヘムに移ってからそのテキストをさらに改訂したが,これはオリゲネスによって改訂された七十人訳 (彼の『ヘクサプラ』に含まれる) を参照しつつ行われた。この2度目の作業でできあがったラテン語詩篇は,後に特にガリア地方の典礼で用いられるようになったため,ガリア詩篇書 (Psalterium Gallicanum) と呼ばれる。そして彼は最後に,ヘブライ語原典から直接詩篇を訳した (Psalterium iuxta Hebraeos)。しかし,Vulgataに取り入れられたのはこの3番目のテキストではなく,2番目の仕事でできたガリア詩篇書である。本シリーズにはほぼ毎回「Vulgata=ガリア詩篇書」というのが出てくるが,これは以上のような事情によるものである。
ローマ詩篇書については,現在残っているテキストがヒエロニュムスの改訂を経たものなのか,それとも改訂前のものなのか (つまりヒエロニュムス改訂版は失われたのか) は分かっていないらしい。(ここまで,加藤哲平『ヒエロニュムスの聖書翻訳』〔2018年初版〕pp. 142–151による。)
ともかく,グレゴリオ聖歌のテキストのうち詩篇をもととするものは,基本的にローマ詩篇書またはガリア詩篇書からの引用である (どちらでもないところから取られているケースもあるかもしれない。しかしいずれにせよ,ヒエロニュムスの最後の仕事,つまりヘブライ語から直接訳されたものがもとになっていることはない)。
以上のようにさまざまあるラテン語詩篇のテキストには,こちらからアクセスすることができる。
詩篇以外をもとにした聖歌においても,Vulgataでなくもっと前のラテン語訳聖書テキスト (Vetus Latinaと総称される) からの引用が行われていることがあるらしい。
SABATIER, Pierre (ed.), Bibliorum Sacrorum latinae versiones antiquae […], 1743
ヒエロニュムスの第2回と第3回の詩篇ラテン語訳と「ヒエロニュムス以前に用いられていたテキスト」とを並べてある。「ヒエロニュムス以前に用いられていたテキスト」として記されているのはサン=ジェルマンの詩篇書や教父の著作などから集めてきたもの。オンラインで閲覧できる。
シュトゥットガルト詩篇書
820~830年のどこかで成立したとされる,挿絵入りの詩篇書。シュトゥットガルトは成立地ではなく,この詩篇書を所蔵している図書館の所在地である (成立地はパリ近郊のサン=ジェルマン=デ=プレ修道院とされる)。挿絵は,グレゴリオ聖歌の主要部分が成立したころの人々が詩篇をどう解釈していたかを推測するための一つの手がかりになる。
オンラインで閲覧でき,PDFのダウンロードもできる。こちらにアクセス後,閲覧するだけなら "DFG-Viewer" を,PDF (約92MB) をダウンロードしたいなら "Ganzes Werk herunterladen" をクリックすればよい。
Douay-Rheims Bible
Knox Bible (The Holy Bible: A Translation From the Latin Vulgate in the Light of the Hebrew and Greek Originals, 1945/1949)
原語からではなくVulgata (シクストゥス=クレメンス版) から訳された英語聖書2つ。CatholicBible.OnlineでVulgataと並べて閲覧できる (Douay-Rheimsにはいろいろな版があるが,どれを使っているのか不明)。
光明社旧約聖書とラゲ訳新約聖書
同じくVulgataから訳された日本語聖書。植田真理子さんがPDFにして公開してくださったものが利用できる。
なおこの真理子さんのサイトには,ほかの実にさまざまな言語の聖書・キリスト教関連書などなど (関口存男の絶版ドイツ語教本のいくつかがあるのが個人的には特に貴重) が公開されているページもある。
Young's Literal Translation (YLT) (直訳聖書) /
Interlinear Bible (逐語訳聖書)
それぞれ,聖書の原文がどうなっているかを推測するのに役に立つ。
七十人訳ギリシャ語聖書
上述の通り,ローマ詩篇書やガリア詩篇書はヘブライ語原典ではなく七十人訳ギリシャ語聖書から翻訳されたものであるから,グレゴリオ聖歌のテキストを読んでいて「このラテン語で意図されていることは何か」ということを考えたいとき第一に参照すべきものは七十人訳である。異読情報などの註を見るには本を買う必要があるが (秦剛平氏が手頃な版として薦めているものはこちら),とりあえず本文を見たいときにはオンライン版もある。
SEPTUAGINTA DEUTSCH. Das griechische Alte Testament in deutscher Übersetzung (ed. by Wolfgang Kraus / Martin Karrer), Stuttgart 2009
七十人訳ギリシャ語聖書のドイツ語訳。
七十人訳聖書は秦剛平氏の訳により一部を日本語で読むこともできるが,グレゴリオ聖歌に最も関係が深い文書である詩篇については,2018年11月19日現在まだ出ていないようである。 →2022年7月下旬に発売される。
BibleBento
私が今まで見た中では最も便利なinterlinear bibleで,ヘブライ語やギリシャ語の聖書の逐語訳・文法解説が提供されている。特に便利だと思う点は2つあり,それは語の基本形 (辞書に見出し語として出ている形) を書いてくれていること,文法的説明が略号で示されるだけでなくそこにマウスポインタを当てると略さずに表示されることである。
Interlinear Study Bible
"StudyLight.org" というサイト内で提供されている,ヘブライ語聖書とギリシャ語聖書 (七十人訳と新約) の逐語訳・逐語的な文法解説 (英語)。
Perseus Collection (Perseus Digital Library), Greek and Roman Materials
Vulgataと新約聖書ギリシャ語原典の逐語的な文法的解説がある。
FISCHER, Bonifatius, Novae Concordantiae Bibliorum Sacrorum iuxta Vulgatam Versionem critice editam, 5 vols., Stuttgart 1977
Vulgataのコンコルダンス。ドイツ聖書協会1975年第2版のテキストに基づいており,本文に採用されたテキストだけでなく諸写本における異読も拾っている。カトリック教会の正典に含まれていない文書も対象にしている。頻出の22語を除くすべての語をカバーしている。
LaParola.Net中のギリシャ語新約聖書のページ
新約聖書のギリシャ語原文の全文検索をすることができる。語ごとの文法的説明もある。
【聖書関係の研究書・解説サイト】
加藤哲平『ヒエロニュムスの聖書翻訳』(2018年初版)
銘形秀則牧師のWebサイト「牧師の書斎」
【教父神学など】
アウグスティヌス『詩篇講解』(Enarrationes in Psalmos)
グレゴリオ聖歌のテキストおよび旋律に大きな影響を与えているのが教父たちの聖書解釈であるが,その中でも特に重要なもの。原文(ラテン語),英訳,仏訳をオンラインで無料で読むことができる。日本語訳は教文館から出版されている (『アウグスティヌス著作集』18~20。こちらでは「詩編注解」という題になっている)。
カッシオドルス『詩篇講解』(Expositio Psalmorum)
上記のアウグスティヌスのものとともに,グレゴリオ聖歌の成立基盤を考えるときに重要とされている。私が持っているのは英訳版 (Cassiodorus: Explanation of the Psalms, translated and annoted by P. G. Walsh, Mahwah 1990–1991. 全3巻)。
MIGNE, Jacques-Paul (ed.), Patrologia Latina
教皇イノチェンツィウス (インノケンティウス) 3世時代 (13世紀初め) までにラテン語で書かれたキリスト教的著作をまとめた叢書で,19世紀に刊行された。PLと略される。オンラインで読むことができる。著者名・タイトルの索引や検索機能があって便利なのはこのサイト,巻別になっているのはこのサイト。
教父などの著作の英訳や独訳を読むことができるサイト
New Advent (英訳) 上で紹介した『詩篇講解』英訳はここから。
Documenta Catholica Omnia より,ヒエロニュムス,アウグスティヌス,ヌルシアのベネディクトゥス,セビーヤのイシドールス,尊者ベーダ,ラバーヌス・マウルス (原文メインだが,英訳があることもある)
【グレゴリオ聖歌 (あるいはその成立背景) の研究書・研究サイト】
gregorien.info
ドイツ語・英語・フランス語。各聖歌のページから,さまざまな古写本の該当箇所にクリックひとつで飛ぶことができる。ただし,2022年9月4日現在,重要写本の一つであるLaon 239 (Graduale Triplex/Novumの上段に書き写されているもの) にはこのページからはアクセスできなくなっており,この写本を利用したいときには下のMMMO Databaseから行くことになる (紹介文の中に直リンクも置いておいた)。
現行の「通常形式」の典礼の暦と8~9世紀時点の典礼暦 (Antiphonale Missarum Sextuplexにまとめられている6写本による) で,各聖歌がいつ歌われるのかも知ることができる。ほかにも関連文献表など,さまざまな情報が手に入る。
MMMO Database (Medieval Music Manuscripts Online Database)
中世から16世紀までの音楽史料のデータベースで,グレゴリオ聖歌の古写本のオンライン版へもここからアクセスできる。上述の通りgregorien.infoからはLaon 239に飛べない (2022年9月4日現在) ので,こちらを利用することになる。直接Laon 239に飛びたい方はこちら (フォリオ番号をgregorien.infoで調べ,それに3を足したものを右下の欄に入力すると目当てのページを閲覧できる)。
Register zum Graduale Triplex
Graduale Triplex (Romanum) に載っている聖歌をテキストの出典別に並べた索引。
Antiphonale Synopticum / Graduale Synopticum
グレゴリオ聖歌の諸写本を聖歌ごとに一目で比較できるサイト。ミサ用だけでなく聖務日課用の聖歌も。見やすいテキスト比較表があるほか,それぞれの写本に従うとどんな旋律になるかも四線譜で示されている。
KLÖCKNER, Stefan, Handbuch Gregorianik. Einführung in Geschichte, Theorie und Praxis des Gregorianischen Chorals, Regensburg (2)2010
グレゴリオ聖歌の成立史・研究史,ネウマの読み方,さまざまな聖歌書についてなどなど,基本的な知識全般が1冊にまとめられたもの。手元にあるのは2010年第2版だが,今 (2024年10月30日) のところ最新版は2018年第4版である。
KOHLHAAS, Emmanuela,Musik und Sprache im Gregorianischen Gesang, Stuttgart 2001
西脇純「グレゴリオ聖歌研究 (1)」『南山神学』第32号 (2009年),pp. 209–228 /
同「グレゴリオ聖歌研究 (2)」『南山神学』第33号 (2010年),pp. 237–258 /
同「グレゴリオ聖歌研究 (3)」『南山神学』第34号 (2011年), pp. 229–253
グレゴリオ聖歌がどのように成立していったか,またどのように書き留められていったかと,それを考える上で不可欠の背景であるカロリング朝における典礼改革史とが詳しく述べられている。
同「グレゴリオ聖歌研究 (4)」『南山神学』第35号 (2012年), pp. 111–133
グレゴリオ聖歌成立期 (カロリング朝における典礼改革期),聖歌を歌う者にはどのような資質や心構えが求められたかを当時の文書から読み取り考察している。
同「グレゴリオ聖歌研究 (5) ――「主の降誕 日中のミサ」の入祭唱「Puer natus est」の理解に寄せて――」『南山神学』第36号 (2013年), pp. 79–100
入祭唱 "Puer natus est nobis" のテキストをVulgata,Vulgata以前のさまざまなラテン語訳聖書テキスト (Vetus Latina),アンブロジウスの著作中での聖書引用と比較し,さらに当該箇所をアンブロジウスがどのように解釈しているかについても述べられている。
PfEIFFER, Bernhard, "Analyse Gregorianischer Gesänge mithilfe textkritischer Ausgaben der 'Vetus Latina'", in: Beiträge zur Gregorianik 71 (2021), pp. 59–75
古ラテン語訳聖書テキストとの比較によるグレゴリオ聖歌研究をする上で役に立つ道具・重要文献・方法の親切な案内・提案。
ジャン・ルクレール著,神崎忠昭・矢内義顕訳『修道院文化入門 学問への愛と神への希求』東京 (知泉書館), 2004年
タイトルは単に「修道院文化入門」となっているが,実際に扱われているのは12世紀までの西方教会の修道院のみ。全3部に分かれており,第1部では修道院文化の形成過程について,第2部では修道院文化の根底にあった生き方や読書 (天への希求,[あくまで修道者らしい読み方で読まれた] 聖書,教父,自由学芸) について,第3部ではこのようにして形成された修道院文化がどのような花を咲かせたか (文学,神学,典礼) について述べられている。
グレゴリオ聖歌が成立していった場,また日々の生活の中で歌われていた場がどのようなものだったのか知る上で大いに助けとなる内容を含んでいるが,その点に限らずたいへん魅力的な書物である。
なお,amazonなどで品切れになっていたりプレミア価格がついていたりする場合でも,出版社 (知泉書館) のサイトに行くと定価で買えることがある。
JOPPICH, Godehard, "Einige Gedanken zur Gregorianik", in: Cantate canticum novum. Gesammelte Studien anlässlich des 80. Geburtstages von Godehard Joppich, Münsterschwarzach 2013, pp. 11–13
【ラテン語関係】
STOWASSER. Lateinisch-deutsches Schulwörterbuch (1994年版)
2015年に受けたラテン語夏期集中講座で薦められて買った,学校用の羅独辞典。巻頭のラテン語史概説も役に立つ。
SLEUMER, Albert, Kirchenlateinisches Wörterbuch, Limburg a. d. Lahn (2)1926
教会ラテン語辞典。聖人名も載っている。手元にあるのは1926年第2版の再版 (2015年)。
BLAISE, Albert, Dictionnaire latin-français des auteurs chrétiens, Turnhout 1954
キリスト教徒の著作に特化したラテン語 (羅仏) 辞典。
Logeion
Lewis & Short (Wikipediaによると,Oxford Latin Dictionaryが出るまではスタンダードだった,そして中世以降のラテン語については今もスタンダードであるラテン語辞典),DMLBS (イギリスで書かれたテキストに基づく中世ラテン語辞典) などの辞書をオンラインで引くことができる。
Wiktionary
さっと辞書を引きたいときに便利だが,それだけではなく語源を知りたいときにも使える。ラテン語に関しては英語版が優れている。
Navigium
無償でオンラインで利用できる羅独辞典・ラテン語学習ツール。ダウンロードも可能 (この場合は有償)。
2020年1月にEssenでグレゴリオ聖歌セミオロジーの講習 (集中講義形式のゼミナール) を受講した際,講師が「オンライン辞書には信用できないものも多いが,このNavigiumは信頼でき,質が高く,便利である」と薦めていた。
水谷智洋編『羅和辞典』改訂版 (2009年)
PCやスマートフォンでも使うことができ便利である。私はスマートフォン版を使っている。
ホアン・カトレット編『教会の羅和辞典』名古屋 (新世社), 2008年 (第2版)
小辞典。巻末に文法の簡単な解説もある。発音は教会ラテン語式のみ記されている。
HABEL, E. / GRÖBEL, F. (ed.), Mittellateinisches Glossar, Paderborn 1989
中世ラテン語小辞典。
Cactus2000, Latin Conjugation tables
動詞の活用を調べたいときに使える。
小林標『独習者のための楽しく学ぶラテン語』東京 (大学書林), 2005年 (第8版)
STOCK, Leo, Langenscheidt Lern- und Übungsgrammatik Latein
文法上分からない・自信がないことがあるときには,主にこれら2冊を参照している。いずれも古典ラテン語中心。
國原吉之助編著『新版 中世ラテン語入門』東京 (大学書林), 2007年 (第2版)
グレゴリオ聖歌のラテン語は古典ラテン語より何世紀か後のものなので,古典ラテン語の文法・語法に合わないと思われる例にぶつかったらこのような本を繙くことになる。
BLASE, Heinrich, Historische Grammatik der lateinischen Sprache, Leipzig 1894
タイトルからすると,さまざまな時代のラテン語の文法を解説している本。古典ラテン語とはどうも違うと考えられる現象に出会ったときに使える。オンラインで閲覧でき,PDFをダウンロードすることもできる。PDFだと,調べたい事項をブラウザのページ内検索機能で探せるので便利。
BENNETT, Charles E., New Latin Grammar, 1918
どなたかが日本語に訳してくださったものが公開されている。
山下太郎氏のWebサイト「山下太郎のラテン語入門」
ラテン語コンテンツ予定地
どなたが作ってくださっているのか分からないが,しっかりしていて参考になるサイトである。
三ヶ尻正『ミサ曲・ラテン語・教会音楽 ハンドブック』東京 (ショパン), 2002年 (第4版)
特に教会ラテン語の発音について参考になる。
【聖書ギリシャ語・ヘブライ語の辞書】
Greek-English Lexicon of the Septuagint (ed. by J. Lust / E. Eynikel / K. Hauspie), Stuttgart (3)2015
七十人訳に特化したギリシャ語辞書。手元にあるのは2015年第3版。
BAUER, Walter, Griechisch-deutsches Wörterbuch zu den Schriften des Neuen Testaments und der frühchristlichen Literatur (ed. by Kurt Aland / Barbara Aland), Berlin / New York (6)1988
新約聖書と初期キリスト教徒の著作に特化したギリシャ語辞書。大学の新約聖書ギリシャ語講座で薦められていた。手元にあるのは1988年第6版。
GESENIUS, Wilhelm, Hebräisches und Aramäisches Handwörterbuch über das Alte Textament, Heidelberg [et al.] (18)2013
ドイツ語の聖書ヘブライ語・アラム語辞典のスタンダード。書名よりも最初の編纂者の名 (Gesenius) で呼ばれるのが一般的だと思う。少なくとも私が2021年8~9月に大学で受講した聖書ヘブライ語集中講座ではそうだった (この講座で指定されて購入した)。たいへん詳しいが,Hištaf'elには対応していない。
【既存のグレゴリオ聖歌逐語訳 (ドイツ語)】
Choralbuch für die Messfeier (ed. by Abtei Münsterschwarzach), Münsterschwarzach (3)2006
グレゴリオ聖歌の楽譜に逐語訳 (ドイツ語) が書き込まれている。ただし逐語訳されているのは入祭唱と拝領唱のみで,あとは全体訳のみ。
Anton Stingl jun. 氏のWebサイト „Gregor & Taube“
主日と主要な祝祭日のミサの固有文のグレゴリオ聖歌の楽譜があり,その楽譜の中に逐語訳も書かれている。
しかし逐語訳より何より重要なのは,この楽譜に記されている旋律が,古写本の研究に基づいて本来の旋律を復元しようと試みたものである (Graduale Novumがそうしているように) ということである。基づく写本によってだいぶ異なる結果になる場合には両方のバージョンを記しているのもよい。ともかく,復元旋律に興味があるけれどGraduale Novumを入手するのは何らかの事情で難しいという方は,是非このサイトに行ってみていただきたい。
あと,各Communio (拝領唱) のところにその詩篇唱のテキストと旋律も載っているのは貴重。そういうわけで,Graduale Novumを持っていても時々お世話になることがある。
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