世界観の作り方「ごぜほたる」から学ぶヒント
書くのは小説が好きですが、読むのはマンガが好きです。
学べること多いですね。
何を説明して何をぼかすか、そのお手本って小説の外にけっこうあるんですよ。
最近見つけた芯のある作品はこれです。
「ごぜほたるは」すげぇ良い感じで"調律"されてる
ざっくりいうと、
江戸時代っぽい世界(の田舎)で盲目の少女が三味線弾きに弟子入りして父親を探す旅をする話です。
ファンタジーフィクションのお手本みたいな作品です。
「泥臭さ or センチメンタル」バランスが丁度いい
まず上のような設定でフィクション描く人ってここのチューニングでほぼしくじります。
少女+障害者 = 可哀そう
ていうイメージに捉われて距離感を見誤るんです。
ところが主人公のホタルは、自分の意思をもつ気丈な少女にすぐ成長していくんですよ。
自分と同じ片親の子がいじめられてるのを見て健常者に食ってかかったり、指の感覚のみで三味線の糸を何時間も確かめつづけたり、とにかく意地を張ります。
他方、父親を慕う気持ち、親方の三味線に憧れる純粋さ、村の外に出ることへの不安や寂しさ、少女らしい感覚もたくさん持ってます。
福祉も医療もない時代で絶望にさらされながら、きちんと充実して生きてるんです。結果として人に好かれます。
広い層から共感を得られる"弱さ"と"強さ"を備えた理想的なキャラクターですよこれ。
「リアル or ファンタジー」バランスが丁度いい
冒頭から人外ぽい女が出てきて幼いホタルに語りかけたり、父親が幻の霊薬を探す旅に出たっきり帰ってこないとか、民間伝承のようなファンタジー要素が盛り込まれてます。
ただこれは物語全体の暗示だったり、父親の勇敢さを示すエピソードだったりで、起こる出来事はいたって現実的です。
音楽の神の啓示を受けて天才的な三味線を弾くとか、そういうのは一切ないです。
ロックの世界に、天才は27歳で命を落とすっていうジンクスがありますけど、そんなのより遥かに"ありそうな"エピソードが展開されていくんです。
不思議な出来事は隠し味程度にしか使われません。
それがストーリーに共感できる大きな理由です。
「天才 or 努力家」バランスが丁度いい
ホタルは親方に耳や感覚の鋭さを見出されますが、「ガラスの仮面」の北島マヤみたいに天才としては扱われません。
(あのマンガが流行ってた頃って「他と違う特別な主人公」を求められてました。)
ホタルの三味線がお客を魅了するのは、絶え間ない努力の結果として描かれます。
しかも頑張る理由は「私にはこれしかないから」っていうネガティヴさではなく「三味線を弾くことで人の中で生きていける」っていうポジティブなものです。
これって自らフィクションを書く人の心にも訴えかけてきますね。
アーティストものって実はここが一番難しくて、天才すぎても先の展開が読めちゃうし、凡人すぎても「左利きのエレン」みたいにグチっぽくなってしまう。
この作者、人としても魅力的なんじゃないかって思います。
「史実 or 創作」バランスが丁度いい
「ゴゼ」と呼ばれる女性の盲人による音楽バンドって実在したみたいです。琵琶法師みたいなもんです。
あとは業界用語、歌の名前だったり、三味線の形だったり、糸の種類が少し出てきます。
その辺調べてないので実際のものか分からないですが、それぞれの名称がさもありなん、て感じなんです。
あと、ゴゼという職業ギルドの掟だったり礼儀作法だったり、よく知らない人間にもリアルに感じられます。
ホタルの方言の扱いも同様です。
リアリティの正体って、イコール事実であることではなくて、大概の知らない読者にそれっぽく思わせる設定や名称のことだと思ってます。
たとえば人を殺す話を書くとして、実際殺した事のある人なんてかなり少数派です。だからそれが必要なんです。
今後の展開:侍は登場するのか?
今のとこ山の中の村落をめぐる話に留まっているので、気になるのは都市部に赴く展開です。
時代背景的に武士の存在をどうしても意識してしまうので、作品テーマの対局にある「強者」との関わりをどう描いていくのか気になってます。
こういう気持ちって作者に直に伝えてみたいですね。
"江戸時代の盲人"作品紹介
井上ひさしの舞台「薮原検校」が最高に面白いです。
狂言回しとしてかつての師が出演してるのでDVDで見ました。
主演は古田新太、演出は蜷川幸雄です。
こっちは盲人の悪党が人を殺しまくって成り上がる話なんですが、めっちゃオススメです。
ぜひ観てみてください。
ちな「シグルイ」は僕としてはちょっと気持ち悪いです😓
面白んですけどね。
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