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「仕事だから、行けません」を言わないためにあみ出した裏技

何を言うかより、何を言わないかに、その人らしさは宿るらしい。分かりにくいけど、確かにね。

わたしにも使わないようにしている言葉はいくつかあって、その中のひとつが「仕事だから、行けません」だ。正直に言えば、自分が口にしないのはもちろん、耳にするのも目にするのも、できる限り避けたい言葉。直接的に言ってしまえば、嫌いな言葉だ。

なのに、この言葉に触れない日はない気がする。ファン活動に重きをおいて生活しているわたしたちのような人間には、どうにも避けきれないワードなのかもしれない。

地方で残業が多く土日出勤あたりまえのフルタイムでお仕事していた頃は、このフレーズのせいでいつも心が沈んでいた。やはりライブや舞台は東京とかその近郊ばかりで行われていて、わたしはすぐには駆けつけられない。近くに住んでいる友人たちは、しょっちゅう通ってはわたしの好きな子の分までライブレポートしてくれたり、友達同士で会って感想戦をしょっちゅうしては、わたしが会えない間にどんどん仲を深めていった。

そういうのを、うらやましいな、ずるいな、と思ってしまう、自分自身がいやだった。

解消するために、異動を願い出た。詳しい理由こそ述べなかったけれど、「東京に一番近いところに引越したいんです!」という、都会に憧れる学生みたいな理由で希望を叶えてくれた当時の管理職には感謝しかない。その節は、たいっへんお世話になりました。

それでも飽きたらず、転職して東京都内に引越し、それでも行けない公演があるのが悔しくて、時間に縛られることのないフリーランスとして今生きている。

理由はこれだけではないけれど、「行きたい公演に行きやすいかどうか」はずっと、わたしのキャリア選択の軸のひとつになっている。


そーんな自由なフリーランスのわたしでも、先日、これはどうしても行けないやーという公演があった。何か月も先にわたしが必要だと言ってスケジュールを押さえてくれた、たくさんお世話になっている企業からの取材依頼だった。うっ…と苦しくなって、迷う気持ちもあったけれど、仕事の内容自体もわたし自身がいつか実現したいと思っていたものだった。なんどかんがえてみても、こちらをキャンセルするなんてわたしにはできないなぁと思わされた。

理屈では理解しても、気持ちを抑えきれないところが人間の性であり、愛すべきところなんだと思う。これはしょうがないよ、今回ばかりはライブ行けないね、と何度も自分に言い聞かせる。わかる、わかる、わかってる。それでも、当日公演時間になったらやっぱり寂しくなって、仕事を選んだ自分をちょっと憎んでしまうだろう。そんなのはいやだ。


そんな欲ばりなわたしが、あれこれ考えた末に出した結論。それは「行けない公演の分の幸せも先取りしてしまう」だった。
ライブ後にアーティストさんとお話できる機会を増やして、仕事で参加できない翌公演分も先にお話してしまおう。

さすがに自分を甘やかしすぎてはいけないと、普段は1公演につきおしゃべりは1回までよ、と自分に制限をかけている。ほらわたし、好きなものには歯止めがきかないタイプじゃない。決めておかないとたーいへんなことになるって事くらい、さすがに心得ているんですよ。今のところ、例外は自分への誕生日プレゼントにした分だけ。ちゃんと守れてえらいぞわたし。

それを、その日は特別に2回いいよと許可をした。だって、絶対にあのフレーズを自分が使いたくなかったし、大切な仕事を恨んだりもしたくなかった。

2周目のわたしを「おかえり」と迎えてくれたその子に向けて、「ううん、これは、次の分だから」とだけ告げる。全部は伝わらなかったはずだけど、理解してくれたなと思えた。そゆとこが好き。


「仕事だから、行けません」
わたしもらちょっと気を抜けば口にしてしまいそうになる。忘れないようにしたいのは、どんな状況でも公演に行かないことを決めたのは、いつだって自分自身だってこと。ライブより舞台より、仕事に行くことを選び取ったのは、他の誰でもない自分だってこと。

仕事があるから。締め切りが立て込んでいて。会場が遠いもん。
並べ出したら、いけない理由なんてありすぎる。

それでも、何とかしてそれらの「行けない」をすべてクリアして、来てねと言ってくれた日に会場にいて、見届けたい。それだけの気持ちで人生の都合にあれこれ折り合いをつけ、今日もライブ会場に向かっている。

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ゆこ|日めくり偏愛
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