「指名して」の響きだけでさらに貢げる気がしたよ

「こんなの初めて！」が多い８月。感想が新鮮なうちにあれもこれも書き残しておきたいのに、アウトプットが追いつかぬ…関心事が日替わりレベルで次から次へと移っていくタイプのわたしは、やはり毎日記録しないと消えてなくなってしまうらしい。

そんな中でも強い印象が残っているうちの一つが、先日二次会で連れて行ってもらった男の子たちとお酒を飲めるお店でのこと。いやー、社会勉強にしかならなかった。

お店のスタッフさんはやっと20歳になったくらいの、若くて可愛らしい男の子たち。彼らがおしゃべりをしたり、歌を歌ったり、お酒を出して一緒に飲んでくれたりする。

「この中だったら、どの子が好き？」と聞かれたから、あまり迷うことなくお店に入って最初から担当してくれていた子の名前を挙げた。好きなタイプなんて一貫して変わらないから、男の子を選ぶだけならもはや迷うこともなかった。彼がわたしのその晩の”推し”ということになった。

当たり障りのない会話を楽しんで、何杯かお酒を飲んで、と時間が過ぎていき、”推し”が言った。「〇円なので、指名してくれませんか～？そしたらずっとここにいます」と。ほう。決してその金額が高いお店ではなかったけれど、いろんなことがわっと頭をめぐった。

その日お店は混んでいなかったから、それまでの数時間もずっとわたしの目の前にいた。新しいお客さんが来店する様子もないので、指名しなかったとしても彼が行かなければいけない場所もなかった。

それよりも、もし指名するとして、わたしは彼の何にお金を支払うべきなのかが分からなかった。当然、お店にいる間もてなしをしてくれることに対してはしかるべきお金は出すべきだ。それが彼の労働の対価なんだから。でも、必要以上の金額を彼のために支払う理由を、わたしは持ち合わせていなかった。

男の子にお金を払うという点では、それはもう何年も前からわたしのライフワークになっている。この子！というアーティストやタレントには、チケット代やらグッズ代やら何やらかにやらと様々な形でいくら注いできたか知れない。

余談だけれど、小学生の頃は公文式に通っていてさんざん計算問題してきたはずなのに、大人になってから簡単な足し算・引き算にも自信がもてないほど暗算が苦手になった。これは、合計いくら使ったのかを自覚せずに楽しく生きていくための防衛本能による症状なのだと理解している。

そんなわたしなので、わざわざ「指名してください」と口に出す子にいくらか出してもいい気がするよと我ながら思う。けれどそれは似たようで、まったく別のことだった。結局わたしを、彼を指名なんてしなかった。

コンサートや舞台などのイベントでは、必要なグッズは公演前に必要な分だけ購入する。それでも、公演が終わって会場をあとにする前に再びグッズ売り場に立ち寄って、追加購入することがある。一緒に入った友達に不思議がられたこともあるが、あるときは予想よりもずっと素敵な時間をくれたことへの感謝の気持ちであり、またあるときは多く残ってしまいそうなグッズ在庫の引き取りである。

日常を生きる支えやモチベーションになっている子に対してだから、チケット代を上回るものをもらっている感覚があるから迷いなくとれる行動だ。

わたしは、ステージの上に立っている子たちに惹かれやすい。
どんな仕事でも、人間性が透けて見えるものだけれど、エンターテインメントが異様に人を惹きつけるのは、人生の貴重な時間つかって磨いてきたものが特に感じ取りやすい仕事だからだと思う。 ときに自由時間も削って身につけたものに惹かれるし、重ね続けた結果をばーんと見せてくれることにお金を払いたくなるんだよ。

お店の男の子たちは、お客であるわたしたちをもてなして、盛り上げるために強めのお酒をたくさん飲んだり、一緒にカラオケしてくれたりした。けれど、大学生みたいにやたらに強いお酒を人に飲ませたい欲はわたしにはないし、練習もトレーニングもした訳でもない素人の歌にお金を出している場合ではないんだ。

それなら、普段から心の支えになってくれている子にその分もいくようにしたい。それが彼の食費になって、身となって、さらに磨いた素敵なパフォーマンスをまた見せてくれるのなら有意義すぎるし。

わたしは自分自身を貢ぎ癖のある女だと自覚しているけれど、わたし自身が価値を感じられないものにはまったくお金を出す気がおきないことが分かっただけでも今回の件は学びになった。

同時に、一挙一動すべてが好きのかたまりでステージにいる間中夢中にさせてくれるアーティストの彼には、もっと支払ったっていいくらいなんだなと悟ってしまったものだから大変だ。人生賭けてコンスタントに磨いているものには、それだけしてもいいくらいの価値があるんだ。

仕事には、人間性が透けて見える。エンターテインメントが異様に人を惹きつけるのは、人生の貴重な時間つかって磨いてきたものが特に感じ取りやすい仕事だからだと思う。

ときに自由時間も削って身につけたものに惹かれるし、重ね続けた結果をばーんと見せてくれることにお金を払いたくなるんだよ。

— ゆこ｜インタビュアー・ライター (@eeyukoee) August 20, 2022