「中学受験」か「高校受験」か、子どもに合った受験を選ぼう
2月10日頃に首都圏私立・国公立中高一貫校の合格発表が出揃い、小学6年生の多くは、進学する中学校が確定しました。
この時期は志望校に合格を果たして入学手続き・制服採寸を終え、4月の入学をワクワクして待つばかりのご家庭ばかりではなく、残念ながら不合格になり、公立中学校への進学が決まったご家庭もある事でしょう。
中学受験を経て中高一貫の私立・国公立中学に進学するメリットは、
・高校受験がないので中学生活を受験に縛られずに謳歌できる
・独自のカリキュラムや充実した施設など魅力的な学校が多い
・大学附属の場合は大学までエスカレーター式に進学できる
・教育内容のレベルが高く学力を高められ大学受験に有利になる
などが挙げられます。
このテーマは多くの場で語られ、強調されてきました。その結果、首都圏の中学受験率は年々上昇し、人気の受験塾は小4からは既に定員オーバーで入塾できない、というケースも少なくないようです。
しかし、中学受験を経験し「本当に中学受験すべきだったのか」と後悔したり、公立中学に進学することに不安を感じている家庭や、中学受験をするべきか悩んでいる方も多数いるのに対し
「公立中学に進んで高校受験をするメリット」
「あえて中学受験をせずに高校受験を選ぶメリット」
はあまり知られていません。
特に、首都圏にはクラスの半数以上が中学受験する公立小学校も存在し(※「中学受験する?しない? 住居エリアで変わる中学受験率」参照)、そういった地域では「中学受験して当然」の傾向があります。
しかし、子ども一人ひとり、合う学校や、受験の適齢期は違うもの。 「子どもの幸せな未来」を願うのであれば、我が子にふさわしい受験を考えてあげたいものです。
そこで、今回は、たとえ周りが中学受験をしても「あえて公立中学に進学し高校受験をする選択」のメリットや「中学受験を経て感じた中学受験の弊害」について紹介します。
1.中学受験と高校受験の大きな違いは?
中学受験と、高校受験の大きな違いはどこにあるのでしょうか。
■受験期を迎える年齢の違い
当然のことながら、中学受験と高校受験の一番の違いは受験期を迎える年齢にあります。
多くの中学受験生が小学校3年の2月に入塾を開始し、4年生の勉強をスタートします(中学受験塾では、中学入試の終了する2月が新学年の開始時)。塾によってはその時点から本格的な受験カリキュラムがスタート。
入塾を開始する時期は、子どもによって違い「早い学年から勉強習慣をつけたい」と、1年生からお稽古代わりに受験塾での勉強をスタートする子もいれば、小学校5年生から入塾し、難関校に軽々と合格していくような子どももいるのが事実です。 小学校4年次までは多くの塾が週2・3程度の授業を実施。5・6年生になるとそれが週4~5になります。
そして、個人差があるとは言え、5年生までには通塾を開始しなければ、ほとんどの子は中学受験に対応する力が付かないといわれています。
まれに、通塾をせず通信教育やいわゆる「親塾」で難関校に合格するような子どももいますが、中学受験の勉強はあまりに特殊なため、かなりのレアケース。中学受験に特化した塾で学ぶのがスタンダードです。
多くの受験生は、3,4年生から一人で公共交通機関を使って通塾を開始し、多くの仲間に揉まれ2~3年で学力・精神力ともに大きく成長し、中学受験本番を迎えます。
しかし、中学受験期の9歳~12歳は、「早生まれである」ことや、性別が肉体的・精神的成長に大きく影響を及ぼすため、受験時の子どもは個人差が大きく「中学受験が失敗だった」と考える家庭の中には、 「子どもが精神的に未熟なまま中学入試を迎えてしまった」と、中学受験そのものを後悔しているケースも多くあるようです。
一方で、高校受験期を迎える14~15歳は、性別や生まれ月による成長の差はほとんど見られなくなります。このころの子どもは、学校生活(部活動や友人関係)を通じて心身ともに大きく成長します。
そのため、中学受験が親の主導により、当人は自覚を持たないままに流され、塾や受験校も親の言うままに従うケースも多いのに対し、 高校受験では、子ども自身が情報収集して塾や志望校、受験勉強の開始時期や勉強法を決定します。
■入試内容の違い
一部の難関私立高校の入試では、中学の授業範囲以上の難問が出題されるため、受験する中学生は志望校の受験に対応した塾に通う必要がありますが、一般的な公立高校受験では、中学3年間の中学校での授業範囲が出題されるため、 普段の授業についていくことができ、教科書の内容を身につけておけば、特別な勉強をする必要はありません。
また、内申が大きく合否に影響するため、当日の入試自体がうまくいかなくても合格の可能性があり、中学校での学習に問題の無い生徒は、高校受験の際に通塾しないケースも多いようです。
一方で中学受験は小学校の成績はほぼ関係なく、特に私立中学の受験は学力試験の一発勝負(面接や成績表の提出が必要な場合も影響は参考程度)。
そのうえ、入試問題は小学校での学習内容では対応できない、特殊な出題が多いため、通塾して志望校の入試対策をする必要があります。 また、公立中高一貫校入試では、必ず「中高一貫校対策コース」のある塾で、作文小論文対策や面接対策を行う必要があるでしょう。
2.中学受験をする弊害はあるの?
メリットばかりが強調されがちな中学受験ですが、実際に中学受験を経験した子どもや保護者は、金銭面以外での「中学受験をする弊害」をどのように感じているのでしょうか。
■受験期を迎える年齢の早さ
多くの親は「大学受験を考えるならば早い時期から学習習慣をつけることが必要」と考えるため、本格的な受験勉強が10歳頃から開始する中学受験は、その点有利といえるかもしれません。
しかし、前述のとおりその年ごろの子どもの成長は個人差が大きく、子どもが精神的に幼い場合には、「中学受験の自覚さえ芽生える前に受験が終了してしまった」というケースも少なくないようです。 我が子を成長の早い周りの受験生と比べては、幼くのんきな子どもの様子にいらだち、怒鳴ってしまって親子関係にひびが入ってしまった、という家庭も。
また、中学受験は親が関わる割合があまりにも大きく、子どもの主体性が幼いままに育たないこともあるようです。 特に志望校選びの際に「子どもがどんな学校にいきたいかが定まっておらず、結局親が選んだ学校を受験した」という家庭も多く、結局最後まで子どものモチベーションも成績も上がらずに不合格になってしまったというケースや、 たとえその学校に合格して進学しても、自分が選んで受験した学校でないことから、学校生活に少しでも躓くとその学校を受験させた親のせいにしてみたり、学校自体が嫌いになってしまう可能性も高くなります。
■中だるみが起こる可能性がある
「せっかく頑張って志望校に入ったのに、中高一貫校生になってから勉強時間が少なくなってしまった」と悩むご家庭は多いもの。
そればかりか「学校を休みがちになっている」「学校生活を楽しめてないようだ」といった、心配の声も聞こえてきます。 実際、多くの受験生が憧れるような人気の学校であってもクラスに一人は不登校気味になってしまう生徒がいる傾向にあります。
多くの中高一貫性は、高校入試の緊張感がないことから、学校生活や勉強に脱力する「中だるみ」の状態になってしまいます。 中高一貫校生が中学入学後に燃え尽きてしまう理由として、
①「私立中学校に入ること」自体が目標になっていたこと
②実力以上の学校に合格して授業についていけずに落ちこぼれてしまった
③親が選んだ不本意な学校に入学し、入学してからも納得がいかずにモチベーションが上がらず、学びの質が下がってしまった
④中学に入学してから思春期を迎え、親や先生などの大人の言うことを訊く気が一切なくなってしまった
などが挙げられます。
高校入試の心配のない学校に入ったとたんに、気がゆるんでしまうのは当然なのかもしれませんが、 高校受験勉強を経て高校に入学した公立中学生徒と6年後の大学入試で戦うためには、なるべく早いうちに中だるみから脱する必要があります。
中だるみをこじらせたまま大学受験を迎えてしまった場合、自己肯定感を失い、将来の展望もなく暗いトンネルを進むことになりかねません。 特に中学受験期に、精神的に幼いまま親のいうなりに勉強し、親の決めた学校に入学した場合、中学に入ってからの思春期や反抗期は他の子どもよりも一層激しくなる傾向にあります。
「いったい何のために授業料の高い進学塾に通わせ、小学校生活を犠牲にしてまで親子で必死に中学受験を乗り越えたの?」 と頭を抱えないためには、親が中学受験を独断で決めて「志望校合格」だけに突き進む前に、 「子どもがある程度主体的に学校選びや学習方法の選択ができるようになりそうかどうか」を見極める必要がありそうです。
3.高校受験を選ぶメリット
「親の受験」ともいわれる中学受験とは違い、高校受験は子ども自身が自分の意見や意思を持ち行動するようになり、主体的に受験に取り組むようになります。 我が子が中学受験の小4~6年生時にはまだまだ精神的に幼く、「子どもがある程度主体となるような受験は難しいだろう」と感じるならば、12歳で中学受験するよりも高校受験の方が力を発揮できるかもしれません。
中学受験ではなく、高校受験を選ぶメリットにはどういった点があるのでしょうか。
■高校受験のSTEPを活かして大学受験に臨める
高校受験がない中高一貫校の場合、一度学習に躓いてしまっても分からないまま放置し、そのまま大学受験に対応する学力が身に付かない可能性があります。 高校生になっても中学時代の中だるみの状態が継続してしまうと、エンジンがかからないまま大学受験を迎えることも。
しかし高校受験の場合、中学3年生の受験勉強の短期間で、中学3年間の学習内容を総ざらいする必要があります。そのため集中力がつきやすく、勢いを保ったまま高校入学から3年後の大学受験に臨むことができます。 大学受験は中学校の勉強も出題範囲となるため、高校受験で中学の学習範囲を盤石にしておくことで、大学受験にも有利に働く可能性があります。
■中学校で多様な価値観を学べる
中高一貫校では、学力や価値観が似通ったクラスメイトと6年間を過ごすことになります。そのため、学校生活から多様な価値観を学ぶ機会はあまりなく、視野が狭まってしまうという可能性があります。
公立中学には異なる学力・家庭環境の子どもが集まるため、様々な価値観を知る事になります。思春期の段階に自分とは異なる価値観の友達と付き合うことで、問題意識や正義感が芽生え、人間的に飛躍的に成長できるばかりでなく、 大学入試改革により大学入試で問われるようになる「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を培うきっかけにもなります。
また、地元の公立中学に進学すれば、小学校時代の友人とそのまま過ごすことができるという安心感もあります。
■自分に合った学校を、自分で選ぶことができる
私立高校はもちろん、最近は公立高校でも各校が独自のカリキュラムや特徴を打ち出しているため、学校の偏差値や進路実績からだけではなく、自分の将来を見据えた学校選びが可能です。
中学時代に「自分は将来どうなっていたいのか」を念頭に置いて自分の進学先を決定し、そこに向かって努力することはその後の人生設計においても大きな意味を持ちます。
高校受験は中学受験と違い、子どもが主体となって志望校を選び、学習方法を決定します。自分の決めた進路に向かって高校受験を乗り越えることができれば、自信や達成感だけでなく「子ども自身が納得のいく未来」にもつながりますね。
4.まとめ
子どもの成長スピードは一人ひとり異なります。そのため、受験の適齢期ももちろん一人ひとり違います。
もし中学受験を考え始めたら、親のひとりよがりの受験になってしまわないために、子どもをしっかりとみつめその時点の子どものポテンシャルや性質だけでなく、2、3年後の子どもの姿を想像することと、 自分たち(父・母)のタイプ(暴走しないか、子どもを尊重してあげられるかなど)、親子関係などを俯瞰することが必要です。
過酷な受験の時期をいつ迎えるかによって、子どもの学校生活だけでなく子どもの将来も大きく変わってきます。
まずは、子ども本人の声にしっかりと耳を傾けてみましょう。
親が子どもに中学受験をさせたいと考えるならば、これからどんな生活が待っているのか中学受験のデメリット(友達との時間は減り、通塾して他の友達が遊んでいる時間に勉強しなければならないことなど)、 そして自分たち親が、我が子にどんな学校生活、どんな未来を望んでいるのかを説明して私立中学に行くメリットも伝え、それに対する子供の意見を引き出してあげてください。 そういった親子の対話からも「我が子の受験適齢期がどこにあるのか」がわかるのではないでしょうか。