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SDGsとは一体何なのか。2030年後の世界線と果たすべき教育のあり方
はじめに
みなさんこんにちは。8月もあっという間に中旬ですね。お盆はいかがお過ごしでしょうか。
今日は、SDGsについて考えてみたいと思っています。私は、一般社団法人を経営し4年を経過したところですが、主に教育委員会や学校向けに教育サービスを提供しています。
その一つに「次世代コンテンツ事業」があります。本事業は教材を開発し、学校の授業で活用いただいております。そして、その軸となっている教材は、SDGsを題材にして批判的思考力を養う教材「Thinking Critically about SDGs(英語版)」「クリティカル(日本語版)」を約3年前から提供しています。
また、毎年夏休みにはSDGsサマーイベントを学生向けに開催しており、さまざまなSDGsゴールを取り扱いながら一緒に考えるリアルイベントも実施しています。
そんなわけで私たちはSDGsについて取り上げたコンテンツを一つの軸として事業運営をしているのですが、「SDGsはバズワードだからとか」、「SDGsを使えば多くの人に知ってもらえるから」、という理由で取り扱いをスタートしたわけではありません。
むしろその逆で正しく、本質的にSDGsを理解してほしいですし、場合によってはSDGsについて批判的に考えてみることの重要性について訴えていくために事業展開をしている側面もあります。
両方の視点から物事を考えることが本当の意味で持続可能な社会を見出していくことにつながってくると考えています。
今は2024年ですが、SDGsのタイムリミットは2030年です。残り5年半になりましたので、現状についてのサマリや今後の展望について現段階でわかっていることについて自分なりの視点で分析していこうと思っています。
SDGsとは?
さて、まずは簡単ですがSDGsについての基本情報について確認してみましょう。
外務省のHPによると以下のような記載があります。
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
みなさんもSDGsの17のカラフルなアイコンは一度は目にしたことはあるかもしれません。
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これ以上書くと長くなってしまうので、気になる方がいればぜひご自身で確認してみてください。
さて、ここから本題に移りましょう。
SDGsは一体どこまで達成されたのでしょうか。
↑の記事を確認するとかなりサマリーとして確認できますが、結論から言うと「停滞している」「達成は現実的に困難」であるということです。
そして、この現実にみなさんはどう感じるでしょうか?
そうなのか、まあそんなもんか、と思った方も少なくないのではないでしょうか。正直を言うと私もその一人です。
しかし、これだけSDGsが重要、とメディアでも各種報道され、企業のWebページに行っても、SDGsのロゴが大々的に掲載されていることを考えれば、SDGsの目標達成に対してどこまでコミットしているのか、その度合いは限りなく少ないように感じます。
On average, only 16 percent of the SDG targets are on track to be met globally by 2030, with the remaining 84 percent showing limited progress or a reversal of progress.
[記事による日本語訳引用]
2030年までに世界レベルで達成できる目標は1つもなく、進捗しているのはSDGsのターゲットのわずか16%に過ぎない
https://www.sustainablebrands.jp/sp/news/os/detail/1222602_2137.html
どうでしょうか。SDGsは2015年に示され、現在おおよそ3分の2が経過した今、進捗率は平均で16%とのことです。
日本のSDGs達成率について
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こちらが全体のサマリとなっています。日本は167カ国中18位という結果です。昨年は21位でしたので3つランクを上げています。
アイコンごとの色を確認してみると、SDG achieved (SDG達成)はGoal9の産業と技術革新の基盤を作ろう、です。それ以外は達成しておらず、特に赤のアイコンはMajor challenges (大きな課題)が残っていると表示されているのが5つあります。
Major challengesの主なゴール
Goal 5:ジェンダー平等を実現しよう
Goal 12:つくる責任 つかう責任
Goal 13:気候変動に具体的な対策を
Goal 14:海の豊かさを守ろう
Goal 15:陸の豊かさも守ろう
では、具体的にこれらのゴールのどの指標 (Indicator)が達成できていないのかを確認してみましょう。
SDGsには上記のゴール (Goals)に加えて、それらのゴールを達成するための指標(細分化されたもの)が提示されています。
「ジェンダー平等を実現しよう」というゴールがあったとしても、具体的には?ということになりますよね。そのためにさらに細かい指標(Indicator)が存在します。
その部分を確認してみましょう。
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全てを紹介してしまうとただの日本のSDGsの進捗を紹介するだけなので一つだけ例を提示すると、例えば先に上げたSDGs Goal 5のジェンダー平等を実現しよう、については以下のような指標があります。
5.1 あらゆる場所における全ての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。
End all forms of discrimination against all women and girls everywhere
5.2 人身売買や性的、その他の種類の搾取など、全ての女性及び女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する。
Eliminate all forms of violence against all women and girls in the public and private spheres, including trafficking and sexual and other types of exploitation
5.3 未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚及び女性器切除など、あらゆる有害な慣行を撤廃する。
Eliminate all harmful practices, such as child, early and forced marriage and female genital mutilation
5.4 公共のサービス、インフラ及び社会保障政策の提供、並びに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。
Recognize and value unpaid care and domestic work through the provision of public services, infrastructure and social protection policies and the promotion of shared responsibility within the household and the family as nationally appropriate
5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。
Ensure women’s full and effective participation and equal opportunities for leadership at all levels of decision-making in political, economic and public life
5.6 国際人口・開発会議(ICPD)の行動計画及び北京行動綱領、並びにこれらの検証会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康及び権利への普遍的アクセスを確保する。
Ensure universal access to sexual and reproductive health and reproductive rights as agreed in accordance with the Programme of Action of the International Conference on Population and Development and the Beijing Platform for Action and the outcome documents of their review conferences
5.a 女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、並びに各国法に従い、オーナーシップ及び土地その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源に対するアクセスを与えるための改革に着手する。
Undertake reforms to give women equal rights to economic resources, as well as access to ownership and control over land and other forms of property, financial services, inheritance and natural resources, in accordance with national laws
5.b 女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する。
Enhance the use of enabling technology, in particular information and communications technology, to promote the empowerment of women
5.c ジェンダー平等の促進、並びに全ての女性及び女子のあらゆるレベルでの能力強化のための適正な政策及び拘束力のある法規を導入・強化する。
Adopt and strengthen sound policies and enforceable legislation for the promotion of gender equality and the empowerment of all women and girls at all levels
このように多くの指標が存在するわけです。そして、調査対象としてレポートに上がっているのは、この中でも主に以下の2点なのではないかと推測できます。
・Demand for family planning satisfied by modern methods (% of females aged 15 to 49)
・Ratio of female-to-male mean years of education received (%) ・Ratio of female-to-male labor force participation rate (%)
・Seats held by women in national parliament (%)
・Gender wage gap (% of male median wage)
<対応する指標>
5.1 あらゆる場所における全ての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。
5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。
5.a 女性に対し、経済的資源に対する同等の権利、並びに各国法に従い、オーナーシップ及び土地その他の財産、金融サービス、相続財産、天然資源に対するアクセスを与えるための改革に着手する。
このようにして、指標を細かく数値化し、その数値に対して昨年と比べてどうなのかというのを調査しているわけです。
ここまでのことを認知して初めてSDGsについて何かを知っていると言えるのではないかと思います。
ぜひ発端や背景については、蟹江憲史先生の『SDGs』について読んでみるとより内容がわかると思います。
SDGsの世界的な認知度
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Globe Scanが2023年に調査した「What the World Thinks About The Sustainable Development Goals」によると、SDGsについての意識度が"高い"と"ある程度"と回答した割合について上記に表されています。(母数は各国約1000サンプル)
これをみると、日本は57%と回答があります。調査対象だった31カ国の平均は50%ですので、平均以上という結果でした。そのほか、ベトナムやインド、タイ、ナイジェリア、ケニアなど東南アジア、そしてアフリカ諸国は比較的高い数値が出ています。
他方で、確認すべき部分は、アメリカ、フランス、イギリス、そしてオランダあたりでしょうか。
国連本部があるアメリカは39%、また国連の主要な司法機関が存在するオランダは25%とかなり低い数値を示しています。
なぜこのような実態になっているのか、このあたりはまだまだリサーチは必要そうではあります。
この辺りを確認していると、そもそもアメリカではキャンペーン自体を積極的に行っていない様子が伺え、また以下の動画を拝聴した時にもアメリカについては政治的な側面で過度なプロパガンダは控えていると考えられます。
これは 経済のリーダーとしてSDGsを牽引することで経済成長への影響があるということを示唆している可能性もあります。
2030年の世界線について
国連におけるSDGs策定の構想段階からです。2012年にブラジルで開催された「国連持続可能な開発会議」(リオプラス20)の中で、MDGsに変わる「SDGs」という言葉を聞いたのが始まり。「SDGsがグローバル・ガバナンスを変えていくかもしれない」と感じました。
上述した蟹江先生の『SDGs(持続可能な開発目標)』でも記述がありましたが、SDGsという言葉自体は、2012年から議論をスタートさせています。つまり、2015年に国連サミットで加盟国の全会一致される3年前になります。
ということは、おそらく2027年ごろには、SDGsの後継となる言葉や概念が議論されることと思われます。残り3年程度になりますね。
これから3年でどこまでSDGsの進捗があるのか、この点が2030年以降の命運を握っていると考えられます。
そこに向けて私たちは何ができるのであろうか、真剣に考える必要があります。
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そして、2015年にMDGsの反省としてSDGsが登場したように、2030年にはSDGsの反省として次の開発目標が提示されることでしょう。ちなみにChatGPTにどの点を反省すべきかを尋ねたところ以下のような回答がありました。
SDGsの反省点として、2030年以降に新しい開発目標を設定する際に考慮すべき点はいくつかあります。
1. 不平等の更なる解消:
SDGsは不平等に焦点を当てていますが、特に格差が広がっている地域や、性別、人種、経済的地位に基づく不平等の解消が進んでいない点があります。今後は、より細かな不平等の原因に取り組む具体的な戦略が求められます。
2. 環境目標の達成不十分:
気候変動や生物多様性の喪失に対する取り組みは依然として十分ではありません。これらの問題は持続可能な発展にとって極めて重要であり、次の開発目標では環境問題に対するもっと強力な対策が必要です。
3. 実施と進捗のモニタリング:
各国によるSDGsの実施と進捗のモニタリングが一貫していないことが指摘されています。次の目標では、より明確なモニタリング・評価のフレームワークを構築し、国際的な協力を強化する必要があります。
4. 開発資金の確保:
SDGsを達成するためには膨大な資金が必要ですが、資金の不足が目標達成を妨げている現状があります。次の目標設定時には、資金調達の仕組みやその管理の透明性をさらに向上させることが重要です。
5. 地方への配慮:
SDGsは国単位での達成状況が重視されがちですが、地方自治体レベルやコミュニティレベルでの取り組みも不可欠です。今後は、より地域密着型の目標や支援が必要かもしれません。
6. インクルージョンの強化:
特に障害者や高齢者、移民など、社会の中で疎外されがちなグループへのインクルージョンが不足しています。次の目標には、これらのグループがより積極的に参加できる仕組みが求められるでしょう。
これらの反省点を踏まえ、より実効性が高く、全ての人々に利益をもたらす開発目標を策定することが、2030年以降の重要な課題となります。
これに加えてテクノロジーの発展についても無視できないかと思われます。特に次の15年ではいよいよ2045年を迎えます。そうです。レイ・カーツワイル氏が提唱する「シンギュラリティ(技術特異点)」に到達します。
この現実に対して我々たどのように向き合っていくのか。そして気候変動や私たちの人権、社会構造がどうなっているのか、を考えなければなりません。
最近ではVUCA時代などといわれ、不確実性、複雑性が高い世の中と言われますが、断片的(領域を限定して)に物事を見ることによって未来を予想することはできます。(100%正確ではありませんが)
SDGsが掲げられている文書(持続可能な開発のための2030アジェンダ)の正式なタイトルは「Transforming Our World」です。このトランスフォーメーション、大きく変えないといけないという点が非常に大事だと思います。
いかに、私たちの世界を持続可能な形にトランスフォームしていくべきなのか、そして一人一人がどのような意識を持ち、行動していくのか、それを真剣に考えなければ、22世紀は果たして本当に迎えられるのでしょうか。
果たすべき教育のあり方
さて、ここまでSDGsについて様々な点から述べてきました。
いつも以上に重めの文章量になってしまっていますが、それでもまだ様々な観点から物事を考えていく必要があります。
それだけ「Sustainability (持続性)」という言葉の裏には複雑な要素が絡み合っています。真剣に本質を見ようと努力しなければなりません。
そして、未来を生きる子どもたちにどのような教育環境を整えてあげることが良いのでしょうか。
ぜひみなさんと一緒に考えていきたいと思っています。
たくさんのことを教育課程でやらなければならないとは思いつつ、あえて複数だけ言うならば、個人的には以下の2つを教育の領域で強化する必要があると考えます。
全員で乗り越えるための世代間コミュニケーション力
時代を正しく読み取る力
1. 全員で乗り越えるための世代間コミュニケーション力
SDGsは私たち地球の問題への解決指標であり、全世界の全世代の人々が解決しなければならないものです。
つまり、子どもたちだけが意識を持ち、行動しても大きなインパクトを持ちません。2世代(約100年程度)にわたって意識改革をしていけば変わるかもしれませんが、今のままの経済活動や社会情勢を維持すると、きっとその頃まで地球の体力は持つとは思えません。
となると、お金や権力を持っている世代(主に1つか2つ上の世代)と今の若者が協働して、大きなムーブメントを起こす必要があります。そこで大事になるのが、世代間でのコミュニケーション力なのではないかと思います。
最近では、Z世代とマネージャーレベルに当たる40-50代の上司とうまく連携が取れない事例をよく耳にします。
もちろん40-50代へ若い世代とのコミュニケーションの仕方、ナラティブを理解してもらう必要は多分にありますが、Z世代に対しても彼らの世代との付き合い方を学ぶ必要があります。
そのために、学校教育において、学年や世代、学校、国、を超えて様々越境し、コミュニケーションをとる機会を提供する必要があるでしょう。
正面からお互いの言い分を言っていても何も解決しません。相手のナラティブを理解しようと努力し、歩み寄ることが重要になりますし、そのプラクティスを重ねる必要があるでしょう。
2. 時代を正しく読み取る力
これはこれまで述べてきたのである程度理解していただけるのではないかと思いますが、正しく現状を認識すること、そして次に行うべき行動を見極めることが重要になります。
とてもふわっとした話で具体性がないのですが、VUCA時代でどんな変化球が来るかわからないのが現代社会です。その瞬間に物事は変わっています。
よって、今、何が起こっているのかを正しく理解する力こそが非常に重要になるわけです。
そこで言われているのが「批判的思考力」や「論理的思考力」になるのだと考えます。
まとめ
ここまで取り留めのない長文を読んでいただきありがとうございます。
時は今日も進んでいます。
早くも進まないし、止まることも、戻ることもありません。
だからこそ一人一人が今、できることは何かを考え、実行します。
私については、やはり教育事業をやっていますので、現時点ではSDGsの教材を提供しながら、SDGsへの正しい理解、そして必要な力を身につけてもらうためのサポートを必死になってやるしかないのです。
ぜひここまで読んでいただいた皆さん、
何か一緒にできることはないでしょうか。
学校関係者の皆さん、教材連携や実際に教材を活用したプロジェクト一緒にやりませんか。
その一歩が何かの変化を生むかもしれません。