AIは英語教育を変えるのか。4技能5領域でAIを駆使する方法とは?
みなさん、こんにちは。今日は、英語教育について考えていきたいと思います。というのも、8月27日に文部科学省から『令和7年度の概算要求のポイント』が公開されました。
様々な部分で考えていきたい項目はあるのですが、個人的にその中でも目を引いた点として「英語教育」の部分でしたので、今日はその点をあげていきたいと思っています。
令和7年度の概算要求のポイント
まずは、概算要求で何が気になったのかという点については以下になります。
こちらの「小・中・高等学校を通じた英語教育教科事業」の1ページになります。
どのような点に興味を持ったかというと、とにかく「AI」というキーワードが頻出・強調されている点です。
例えば、
(1)グローバル人材育成のための英語教育抜本強化事業については、①~④のうち①~③まではAIについて言及されています。
また、アウトプット(活動目標)でも、「AIを英語等の授業で活用するモデルの構築」というような点が言及されており、かなりAIを英語教育の文脈で積極的に活用するようにしていくという意思表明が伝わってきます。
私個人としては前職がAIを活用したスピーキングやリスニングをトレーニングするスタートアップに勤めていた経験や現在の法人でも「Thinking Critically about SDGs」というSDGsを学習しながらクリティカルシンキング力を向上する英語教材を開発・提供をしているため、本事業についても非常に興味を持ちました。
本ブログでは、AIは英語教育を変えるのか、という内容をテーマにしながら、個人的にAIが日本の英語教育にもたらすインパクト、そして実際にどのような領域でAIを活用することができるのか、具体的な点にも言及しながら述べていきたいと思います。
AIは英語教育を変えるのか?
さて、本タイトルにもある点について単刀直入に自分なりの回答をしてみようと思います。
ズバリ、
「変えられる部分は多くあり、一方で変えられない部分もある」
という見解です。
なんだかモヤっとする意見ですし、またどっちつかずの回答だ、と思うかもしれませんが、どんな領域でもどんな新しいアイデアでも得られるものもあれば、失ったり変わらないものもあります。
では、どのような領域に関して変えられるのかを考えていきましょう。
AIで変えられる英語教育
教員の働き方改革でAIを使う
まず、「教員の働き方改革」の部分については生成系AIが非常に多くをもたらしてくれるでしょう。それはどの教科でも言えると思っています。
①【演習問題の作問】
例えば、演習問題の作問は生成系AIを使わない手はないのかなと思っています。
最終的には先生が確認をすることは必要ですが、それでも0から1を生み出すハードルは先生にとって大きな負担になっているため、ChatGPTやGemini等の生成系AIを活用すれば、叩き台を一瞬で出してくれます。
ChatGPT: https://openai.com/chatgpt/
Gemini:
英語教科に関して言えば、文法の問題や単語、イディオムの問題といったところでしょうか。
以下に実際に私がChatGPT-4oを活用した事例を紹介します。
だいぶ雑なプロンプトにはなりますが、生成系AIはこんな感じで作成してくれます。一から作るよりもよっぽど早いですよね。
②【ルーブリックの作成やTypoのチェック】
「先生の働き方改革」の観点で次に使えるのは「評価」の軸です。
最近では英語4技能5領域(読むこと、聞くこと、書くこと、話すこと)を網羅的に学習できる授業が求められています。
これまでは、英語学習といえば、単語の暗記やリーディング、またリスニングが中心でありました。(過去形で表現してますが、まだ過渡期ですので実情はまだまだ多くが従来型(一斉授業型)の授業スタイルであります)
しかしながら、令和7年度の概算要求のポイントでの説明でもあったように、「話すこと(Speaking)」「書くこと(Writing)」を強化していく流れにあります。
より実践的な英語を学んでいくことが求められますが、そこで問題になっているのは評価の部分です。
「話すこと」については、音声になりますからペーパーなどで4択で測るものと違って、音声を聞かなければならなかったり、教員側のスピーキング能力が問題視されています。
音声を聞くのは、選択問題を採点するよりも時間がかかります。
一人の先生が40人の1分のスピーチを聞くだけでも聞き直しなども含めると40-80分を要するわけです。
こんな苦行のような作業を毎週のように評価をすることはかなり大変な労力になります。
それが生徒にとって必要なプロセスだったとしても。
また、「書くこと」についても同様で、例えば400字のパラグラフを先生が採点するのは一苦労です。語彙や文法の使い方、またパラグラフの内容の評価などを丁寧に見ながら採点をするとなると、1人のパラグラフをチェックするだけでも非常に時間がかかります。
さらには、ルーブリック評価になりますから、先生ごとに評価の厳しさによって点数にばらつきが生まれてしまいます。
ルーブリック自体を作ることも時間がかかります。
このような問題から「話すこと」「書くこと」が重要視されているのはわかってはいるものの、現場レベルではなかなか踏み出せていないという現状があります。
こうした課題に対して生成系AIは部分的に大きな役割を果たしてくれます。例えば、ルーブリック作成です。一例を以下に表示しましょう。
実際にChatGPT-4oが出してくれた表になります。
もちろん手を加えなければならない部分はありますが、一人で0から作るよりも体感として1/10くらいの労力で済むようになります。
こちらのルーブリック作成は一例ですが、他にも誤字脱字の検出、パラグラフのCEFRレベルの推定などもしてくれるので、ちょっとした賢い相棒として使い方を工夫すればいかようにでも効率的に生徒の学習を評価することができます。
続いて授業などや学習面でどのように生成系AIを活用していくのか、について共有していきます。
生徒の学習をアシストするために生成系AIを使う
さて、ここからは視点を先生ではなく、生徒に向けてみましょう。
授業や学習面で生成系AIは多方面で使うことができます。
膨大な量になってしまうので、全てを紹介することは今回はしませんが、英語4技能5領域ごとにいくつか共有していこうと思います。
① 【読むこと (Reading)】
読むことについては、いろいろと学習できそうですが、例えば先ほど紹介した文法のパタンプラクティス、また同様に単語の穴埋め問題はすぐに実践可能です。
また、ここで一つ紹介するならば、例えば英文の記事データから読解問題を作成してもらうなどは有効的です。
以下に紹介します。
こちらは弊団体が提供する教材の一部ですが、以下のようなパラグラフをどこかのインターネットで見つけるとします。BBCの記事やNewYorkTimesなどでもいいかもしれません。
これの読解問題を作成してもらうように指示します。
以下に実際にChatGPT-4oで試してみた内容を記載します。
そうすると以下のような問題を作ってくれました。
このクオリティが作成時間で言うと1分です。パラグラフさえあれば、作成してくれます。
また、どこかのニュース記事からとってくるのではなく、パラグラフ自体も生成系AIで作成してしまうと言うのもありです。
② 【聞くこと (Listening)】
聞くことについては、これまでCDプレイヤーで音源を流してスロー再生などをしていたと思います。
他方で、ALTやネイティブスピーカーの労力を使って音声の録音をする、やそもそもリスニング素材が少ないなどの問題がありました。
生成系AIを使えばその問題は概ね解決します。
ここでは、ChatGPTやGeminiとは少し別のサービスを紹介してみたいと思います。
このNatural Readerというサービスは、文章を打ち込むと自然なAI音声に変換し、mp3でダウンロードできるサービスです。
無料でもいくらかは使えますが、有償でも1ヶ月10ドル程度で使えるので、リーズナブルで活用できます。
私も使っていますが、本当にネイティブと遜色ないくらい自然な英語にしてくれるので、リスニングで聞かせたい文章をひたすらこのNaturalReaderに打ち込んで、音声化し、意味を問うような問題を続けるというのは有効的だと思います。
もちろんリスニングの問題についても例えばディクテーションの問題や聞き取り問題の作問についてはChatGPT-4oやGeminiに頼れば良いので、ほとんど全てAIによって作成することも可能です。
③ 【書くこと (Writing)】
いよいよ書くこと、話すことへと移っていくわけですが、書くことについては、先にも述べたように評価に時間がかかる、採点が大変という点があります。
そのため、ここでは評価について述べます。
書くことへの評価は主に大きく2つの観点で評価をすることになると思います。
1つが単語やイディオム、文法など英語そのものの正しさ、
2つ目が、文章自体がライティング課題への適切な答えになっているか、や論理性など内容に関する評価です。
この2つはしっかりと分けて評価をしていく必要があります。
まず生成系AIが得意なのはどちらかというと、1つ目の「英語そのものの正しさ」です。
具体例として、先ほども紹介した弊団体の教材を勝手に間違った文法や単語にアレンジした文章を作成し、その内容をChatGPT-4oで添削してもらうように指示しました。
このように即座に添削をしてくれるわけです。
このような使い方は一番ベーシックではありますが、授業実践アイデアとして、あえてまずは生徒自身ががパラグラフのエラーチェックをして、洗い出した後、生成AIを使って正しい添削例を確認する、という活用方法も効果的だと思います。
続いて、論理性など内容についての添削についてみていきましょう。
こちらは少し生成AIだけを信じてはいけない部分なども出てきます。なぜならファクトチェックについては怪しい部分があり、それについては一定数教員による確認が必要でしょう。
内容についての評価は、
①ルーブリックを作成する
②ルーブリックを基準に従って生成AIが評価するように指示をする
という2段階での準備が必要になると考えます。
ChatGPT-4oは資料を添付することができるため、ルーブリックのエクセルファイルをChatGPT上に添付をし、この基準に基づいて評価をしてください。というような形で評価してみると良いでしょう。
④ 【話すこと:やりとり (Speaking)】
最後に話すことになります。まずは「やりとり」についてですが、最近リリースされたChatGPT-4oの会話モードを活用することができます。
かなりナチュラルに返答をしてくれるので、何度でも会話をする練習にはもってこいです。
しかしながら、フリーカンバセーションになりますので、英語学習を始めたばかりの生徒、あるいは英語のスピーキングに自信のない生徒は、ある程度の定型フレーズを最初に授業等で学んでからスタートすると良いでしょう。
例えば、以下のフレーズをAIに先に伝えておくとゆっくり話してくれたり、丁寧に受け答えをしてくれるようになります。
また、授業では例えば、必ずこのフレーズを使って会話をする、など目標を決めておくといいでしょう。
教科書対応や英語学習を始められたばかりの学年や生徒については、外部のサービスを利用することをお勧めします。
以下のELSA SpeakやLANGX Speaking, TerraTalkなどは教育機関向けのサービスになっています。
⑤ 【話すこと:発表 (Speaking)】
発表については、プレゼンテーションやグループワークのアウトプットなど様々なシーンでの発表を指しますが、ChatGPTなどを活用する場合は、先ほどの会話モードを使い、以下の文章をまず言います。
その後、おそらくAI側は、もちろん、どうぞという風に言われますので、その後自分が練習しているスピーチやプレゼンテーションを行います。
最後に以下の文章を言います。
そうすると会話モードが終了します。
会話モードが終了すると、チャット画面に会話文や認識された自分の英語が文字化されて記録として残ります。
このチャットデータをコピーすることができますので、Google ClassroomやTeams, ロイロノートなどの授業支援ツールで先生に共有するような課題を出すと良いと思います。
他にもシンプルな音読についての練習は、MicrosoftのTeamsでAIを活用した音読練習ができます。こちらも非常に便利なツールになっているので、もしGIGA端末でMicrosoftのサービスを使っている学校は積極的に使ってみると良いと思います。
AIで変えられない英語教育
さて、ここまではAIで変えられる英語教育について確認していきました。ここまで述べていくと結構変えられるポイントは多くないですか?
うまく活用すればこれまでよりもはるかに多くの実践が短い時間で可能になったり、これまでできなかった実践ができるようになります。
他方で、AIでは変えられないものもあることを忘れてはいけません。今回は2つ記載したいと思います。
① 英語を使いたいと思う動機づけや英語学習を好きになるということ
これは英語教育における一番のポイントだと考えます。いくら生成AIを使ったとて英語を好きになるわけではありません。確かに、徐々にできるようになることで自信をつく生徒もいるでしょうが、根本的に英語が好きになり、将来海外で仕事をしたり、外国籍の方とお付き合いをしたり、グローバルにコミュニケーションを取りたい、と思えるようになるには、やはり授業そのものの面白さ、そして英語学習への動機づけが必要になります。
あくまでAIはツールです。活かすも殺すも扱う人次第なわけです。以下のブログでも紹介しましたが、結局は人が指示をしないと始まりませんし、どのような指示をするかどうかでその後の英語学習の質が大きく変わります。
②厳密なレベル別(学習進度ごと)での学習
これについては特に中学校や高校で気にされるポイントかもしれません。
通常、どの教科の授業も検定教科書を軸に授業を展開されていると思います。
そしてその検定教科書の単元ごとに習っているところと習っていないところを明確に分けて、使用単語や使用文法を限定しながら演習問題などを作成したり、授業を進めていると思います。
これをAIで実現しようとするとかなり綿密な条件をAIに投げかける必要があります。もしかすると皆さんが求めるレベルの厳格さは実現されないかもしれません。
例えば、「一般動詞を中心とした100字程度のダイアログを作成して」と命令すると、もちろん一般動詞を中心には取り扱うものの、まだ習っていない助動詞などが出現したり、あるいは習っていない単語なども出てくるでしょう。
その辺りの微調整が必要になります。
ですので、あくまで実践的な内容を学ぶ、という観点で生成系AIを使ったほうがより活用しやすいというのは間違いありません。
習っていない単語や文法は前後の流れで理解するようにする、やその場で新しい単語や文法として共有する、などの措置が必要でしょう。
まとめ : 英語を扱えることへの追求はやめない方がいい
いかがでしたでしょうか。
これまでのポイントからAIはかなり英語教育において活用場面が多くあり、それらを駆使することによって、これまでなかなか実現することが難しかった「読むこと」「聞くこと」「書くこと」「話すこと」の4つの技能を網羅的に学習することができるようになるわけです。
つまり、何が言いたいかというと、授業自体の設計も変わる、ということです。
これまでは先生が一斉に授業をしてきましたが、生成系AIの活用をはじめとするテクノロジーをフルに活用することで、複線型の授業が実現します。
(複線型の授業については以下の高橋純先生の記事をご覧ください。)
このような授業形態が、AIでは変えられない英語教育を補完する部分にあたると考え、またAIで変えられるところはとことん変えることができます。
大事なのは、その教育を経て、生徒は何を得られるのか、ということです。
日本は言うまでもなく少子化の一途を辿っています。また、テクノロジーの発達により、いつでもどこでも世界の裏側にいる人と繋がれたり、コミュニケーションをとることができる時代になりました。
それらが相まって、鎖国政策をしない限りは、これからはさらにインターナショナルな社会になることは容易に想像できます。
これは国内の都市部でも、そうでない地域でも変わりません。
むしろ地方の方が人口減少に伴い、世界に開かれた街にしていく必要があります。
となると、やはりインターナショナルな日本でも生き抜く力が必要になり、その入り口となるのはやはり英語なのだろうと思います。
AI時代に英語を学ぶことは必要ないのではないか、人は言います。
しかし、元サッカー日本代表の中田英寿は、イタリアに活躍の地を移した時のインタビューでこう言いました。
私もベルギーのブリュッセルのクラブチームでサッカーをしていましたが、現地の言葉(フランス語)を話さないとやはり一員になれない、ということを実際に経験しました。
同じことだと思います。
メンバーの一員として相互にリスペクトされるのは、やはりある程度の英語力、自分の意思を自分で伝えられる力が必要なのだと思います。
そう言う意味では、私自身はまだまだ英語学習は必要になると確信していますし、日本教育における英語学習は極めて重要な立ち位置であると考えます。
ですので、使えるテクノロジーは使いつつ、これから必要な英語力についてはしっかりと身につくような英語教育になってほしいと切に願っています。
弊団体はこれまでICT研修を300自治体に向けて実施してきました。
生成系AIの研修についても今後増えていくことが予想されます。
もし何か研修や相談等のご要望があればぜひご連絡ください。
ぜひAIを活用する英語教育に向けて一緒に進んでいきましょう。