【中3/Aさん】作品タイトル「頼み事」
私はよく人からこう言われることが多い。
「〇〇してくれる?」
特に深い意味はなく、言葉の通り単なる頼み事だ。
小さい頃からなにかを頼まれることが多かった。そして、私はそれが嬉しかった。だって、頼まれたことを達成すると褒めてもらえるから。
「頼るっていうのは、信頼している人にしかしない。だから、私はたくさんの人に信頼されているんだろうな」
口に出してしまうほど自惚れていた。
七月二十五日金曜日
一学期最後の登校日。
「らいむ、お願いがあるんだけど……」小学生の頃から親友の茄子の声だ。
(うわ、またお願いお願い言ってるんだけど)
とぼやきながら、内心頼ってくれる茄子のことがしょうがなく可愛くて、急いで駆け寄った。
「なに?」
周りから見たら冷たい返事かもしれないが、十年の仲になるとこんなもんだ。
「あのさ、夏休みの宿題多いよね」
このあと茄子が口にすることはなんとなくわかる。
「で、宿題やってくれない? 私たち親友だよね!」
若干脅迫なような言葉が飛んできたが、親友という言葉を使われたら断る理由も思いつかなかった。
「まぁしょうがないか。やってあげるよ」
なぜ引き受けてしまったのか自分ではわかっていた。
結局、言われた通り、茄子の宿題をやってしまった。
「はい、頼まれた通りやってきたよ」
「ん」
やってあげたのに期待していた返事が返ってこない。褒めてもらえない。とても気に食わない。
その日は自分でもわかるくらい腹が立っていた。
それから二ヶ月後
「らいむ」
「ん?」
「ねぇ」
休日にゆっくりお買い物をしているとこに、どこからか私の名前を呼ぶ女の人の声がした。
「後ろだよ」
私の後ろには茄子が立っていた。 その声が茄子だと気づけなかったのは、あれから私が一方的に茄子を避けていたから。
毎日聞いていた茄子の声を忘れるくらい茄子のことが気に入らなかった。
というか、忘れたかった。
「二人で話したいと思って」
この言葉にゾッとした。
友達と遊ぶ約束をしているだとか、急いでいるだとか、雑な理由をつけてその場を去ろうとしたけれど、話しかけられた以上それは難しい。
「少しだけなら」
私は冷たい言葉を返した。
「じぁ行こうか」
茄子は不気味な笑顔を私に向けながら返事をした。
二人が中学生の頃、行きつけだったカフェに着き、コーヒーを注文した。
「私のこと避けてる?」
茄子の言葉がストレートすぎて頭に入ってこない。
「あ、ごめん。もう一回言ってくれる?」
「いや、だから、私のこと避ける?」
「いや……」
「よかった! 避けられてなくて。避けられてるかと思ってずっと悲しかったの」
私の言葉を遮って。
「この後お母さんとお買い物行く予定あるから先に帰るね。お会計済ましておいてくれる?」
「ねぇ茄子」
「じぁまた学校で」
めちゃくちゃだ。
翌日、学校で茄子と会った。
「らいむ、おはよう」
話を遮って、会計も全投げしてきた「あの」茄子から。
気づいていないふりをして教室に入った。
気づいていないふりをしたのがバレたのか、本当に聞こえていないと感じたのか、茄子は私に近寄ってきた。
「おはよう」
目の前で言ってくるなんて予想もしていなかった。「おはよう」を言うためだけにそこまでする必要があるのか。考える必要もないことが脳内をぐるぐると歩き回っていた。
「うん」
おはようと返すことが無難だけど、昨日の情景を思い浮かべるとそんな爽やかに「おはよう」と言えるような相手ではない。
「普通はおはようって言うよねー?」
「なに変な返事しちゃってんの」
「周り見てみなよ」
数ヶ月前まで仲が良かった友達が私を囲むように並んでいた。
そして、他のクラスメイトからも煙たがられている。それでも、あんまり気にならない。私を囲んでいる人たちは私にとって大切ではなくなっていたから。
確かに昔は仲が良かった。
ただ、それは昔の話だ。茄子が私に頼むべきではないことを頼み始めた頃からみんなは私を自分たちが都合のいいときにだけ話しかけ、頼み事をしてくるようになった。
「らいむは頼み事したら絶対それに応えてくれるよね。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
(このタイミングで頼み事なんて、たぶんこの人たちってばかなんだろう)と内心目の前の人たちを貶しながら返事をした。
「らいむのこと気に入らないんだよね。本当は避けてるのも知ってるよ、だからさ」
「茄子の言うとおり、避けてる。ちなみにわたしも茄子のこと気に入ってないから」
「わたしの話遮らないでよ」
(こんな人は相手にしてはいけない)
耳を塞いで無視を続けたのに……。
「じぁ、最後の頼み事だけ聞いて」
「なに」
「気に入らないならわたしのこと殺してくれる……?」