PMF のために越えるべき壁とは?プロダクト責任者が語る、客室清掃管理システム「Jtas」の現在地。
本日の note は、執行役員 / Jtas 事業本部長を務める舞原さんに、ホテル客室清掃の現場を包括的にデジタル化する、客室清掃管理システム「Jtas」の現在と未来について語っていただきました。
PMF を目前に控え、市場シェア5%という野心的な目標に向かう「Jtas」のビジョンと戦略の理解が深まる note です。
ホテル客室清掃管理システム SaaS「Jtas」の現在地
ーー 「Jtas」はローンチから約2年が経過しましたね、プロダクトはどのような状態なのでしょうか?
基本機能は整いつつありますが、完成度に関してはまだ途上段階。
さらなる進化を目指して、日々開発に励んでいます。
ーー 「Jtas」の基本機能を教えてください。
客室清掃前:指示書作成
客室清掃中:メッセージのやり取り
客室清掃後:集計
これら3つの客室清掃業務・プロセスを効率化する機能を提供しています。
ーー 「1. 客室清掃前の指示書作成」はどのように効率化されているのでしょうか。
従来の客室清掃は、ホテルから清掃会社に大量の紙の指示書を作成し、清掃会社がそれをクリーナー向けに再度書き直していました。
「Jtas」導入後は、指示書を「Jtas」で一括管理。スマホやタブレットで閲覧可能になりました。
これにより紙で毎日2〜3時間かかっていた作業が大幅に削減され、10〜15分程度に短縮されています。ホテルごとにオペレーションは異なりますが、可能な限り共通性を持たせるように努めつつ、現段階では各ホテルの作業方法やフォーマットの違いに個別対応しています。
ーー お客様の要望には柔軟に対応しつつ、効率化も図っているんですね。
そうですね。
セールスやカスタマーサクセス(以下、CS )が詳細なヒアリングを行い、各ホテルのニーズに合わせたカスタマイズを実現しています。
ーー 「2. 客室清掃中の電話対応」についてお聞かせください。
従来は、紙の指示書を使用していたため、変更時には電話での連絡が不可欠でした。
「Jtas」導入後、指示書はクラウド管理され、内容変更はリアルタイムでタブレットやスマホに反映されます。結果、常に最新情報を「Jtas」上で共有できる環境が整い、ホテルと清掃会社間の電話による連絡を50〜60%ほど削減できました。
また、従来のホテル業務では、スタッフの移動が多く、電話での情報共有では混乱が生じやすかったんです。「Jtas」導入により、効率性のみならず正確性も大幅に向上しつつあります。
ーー 「3. 客室清掃後の集計作業」はいかがですか。
客室清掃はルームタイプごとに清掃料金が設定されています。清掃会社は各フロアのムールタイプごとに正確な清掃回数を集計し、請求書に反映させる必要があります。
従来は紙ベースの集計で、清掃会社とホテル双方で1時間ずつ、合計約2時間を要していました。
この集計作業も「Jtas」により、所要時間はほぼゼロに。人力作業で発生しやすかったミスも大幅に減らすことができています。
“1年で1万→5万室” を達成するために越えるべき壁
ーー 「Jtas」に対する市場からの反応はどうでしょうか?
市場からの反応は非常に良好です。
今年2月の展示会では、多くの地方旅館やホテル関係者から生の声を聞きました。驚くべきことに、ブース来訪者のほとんどが、客室清掃の3つのプロセス(指示書作成・電話対応・集計作業)に課題を感じていると回答。これにより、「Jtas」が市場ニーズに合致していることを確信できました。
また、展示会からの商談化率はなんと 44.6%と驚異的な数字でした。今年に入って「Jtas」のリード獲得数は前年度比10倍に急増しています。
ーー PMF (商品やサービスが市場に適切に受け入れられている状態)もいよいよ見えてきそうですね。
そうですね。
私たちがターゲットとする国内ホテルの部屋数は約100万室。「Jtas」の導入数は現在約1万室、今期中に5万室(全体の約5%)までシェア拡大を目指しています。
この目標達成時には、PMF したと自信を持って言えると考えています。
ーー “1年で5倍” の導入を目指すのですね。かなり挑戦的な目標ですね。
たしかに高い目標ですが、達成可能だと考えています。
鍵となるのが、大手ホテルチェーンの開拓です。
すでに西武・プリンスホテルズワールドワイド様、ホテルモントレ様、日本ビューホテル様、ホテル阪急インターナショナル様など、著名な大手ホテルチェーンでの導入実績も増えてきました。
今後も全国展開する大手ホテルチェーンへの提案を積極的に行い、さらなる受注拡大を目指します。
ーー 国内ホテル5万室導入を達成するために越えるべき壁は何ですか?
最大の壁は、ホテルの基幹システム*との連携です。
業界にはいくつかの大手基幹システムがあります。
うち1つとは2年以上の交渉の末、ついに連携を実現しました。
その他の基幹システムとも連携できれば、クライアントにとって「Jtas」導入のメリットはさらに増大し、導入も促進されていくはずです。
ーー 交渉はそんなに大変だったのですか…?
正直、簡単な道のりではありませんでしたが、2つの要因が決め手となり、導入に至りました。
該当の基幹システムを利用している複数のホテルから連携要望が上がったこと
EDEYANSがシステムの開発・提供だけでなく、客室清掃のオペレーションまで提供しているユニークさを評価いただけた
ーー EDEYANS の姿勢や実績を評価いただけたのは嬉しいですね。
本当に嬉しかったです。
ただし、これはまだ通過点に過ぎません。
“オンボーディング” と “仕組み作り” の同時進行はハードだからこそ面白い
ーー PMF を目指す上で、ほかに乗り越えるべき課題はありますか?
「SaaS プロダクトを現場でいかに使ってもらうか」
これは継続的に取り組むべき課題です。
特に、客室清掃クリーナーは60~70代の方々もご活躍されている領域であり、スマホを持っていない/使ったことがないという方もいらっしゃいます。国籍も年齢層も幅広いクリーナーの方々にもこれなら簡単に使えると思っていただけるような UI/UX を実現することが PMF を達成するための1つの鍵になると考えています。
ーー 高齢のクリーナーの方々に向けて、どのような取り組みをされていますか?
CS が現場に赴き、時には一緒に客室清掃に入りながら、関係性を構築し、一方的に使ってもらおうとするのではなく、自分たちのことやJtasのことを少しずつ知ってもらい、1人でも利用できる状態にしていくようにしたりもします。ホテルの規模に応じて対応しますが、基本的には1人の CS が1ホテルを担当します。
ーー 地道な取り組みですね。
現場での地道な実践こそが、イノベーションの源だと前向きに捉えています。
ハイタッチのサポートは貴重な学びの機会であり、将来的にはテックタッチでの効率的な解決策や、遠隔でのサポート機能の開発へと繋げていきたいです。
ーー 自ら課題を発見し、事業をスケールさせる仕組みづくりができるのは、PMF 後では得られない経験。いまのフェーズだからこその大きなやりがいがありそうです。
私もそう思います。
現場でのオンボーディングと仕組みづくりを並行して進めるのは大きなチャレンジです。
全国を飛び回る機会はさらに増えるでしょうし、効果的な仕組みを生み出すには経験値も必要です。
しかし、ハードな分だけ大きな成長があるのも事実。SaaS と現場オペレーションの両輪で進む EDEYANS ならではの面白さは、いまだからこそ存分に味わえると思います。
「Jtas」のこれから:AI 活用 と グローバル展開
ーー 「Jtas」の今後の成長可能性についてお聞かせください。
先ほどお伝えした「シェア拡大」に加え、次の2つの展開も考えています。
AI 活用
グローバル展開
ーー 「1. AI 活用」は具体的にどんなことを考えられていますか。
直近では、忘れ物管理の AI 化を進めており、今月中にオンボード予定です。
長期的には、
次に清掃すべき部屋の自動指示
各部屋の最適な客室清掃方法の提案
清掃品質の自動分析と改善点の指摘
など、AI が客室清掃のあらゆる面をサポートし、人間の判断を減らすことで作業効率と清掃品質、両面での向上を目指します。
ーー EDEYANS が客室清掃業界のイノベーターになるのは夢ではないですね。
客室清掃現場の “人手不足“ は既に顕在化しつつありますが、近い将来「20XX年問題」のように社会課題として注目される日がくるかもしれません。
そのとき、テクノロジーを駆使した解決策を提供できる会社になっていきたいですね。
ーー 「2. グローバル展開」についてもお聞かせください。
中長期で「Jtas」の海外展開を計画しています。
海外旅行での実体験や、海外で実際に客室清掃に携わっていたメンバーから海外の事情を見聞きしますが、現場のオペレーションは日本と同じ。紙と電話を使ったアナログ運用が主流です。
様々なアプリケーションはあるものの、私の知る限り、現場に最適なソリューションは見当たりません。
この状況は EDEYANS にとって大きなチャンスです。
2024年7月に変更した新ミッション「世界中の宿泊を支え、感動を生む」にも思いを込めましたが、グローバル市場でも「Jtas」が広く採用される日が来ると期待しています。
さいごに:ゲストの "感動" を生み出すプロダクトを目指して
ーー 舞原さんが EDEYANS に携わり続ける最大のモチベーションは何ですか?
「客室清掃をより魅力的な事業・業務に変えていきたい」という願いです。
私自身が客室清掃業務に入ったとき、あまりの大変さとアナログさに衝撃を受けました。
日常的にデジタルデバイスやアプリケーションを使いこなす私たちが、なぜ業務では突然紙と電話なのか。この疑問が原動力です。
デジタル化を通じて客室清掃業務を日常の延長線上に置けば、業界の間口は広がり、客室清掃に携わる人が増えると信じています。
ーー 改めて、舞原さんは「Jtas」をどのようなプロダクトにしていきたいですか。
ホテルに宿泊するゲストの "感動" を演出する「Jtas」を目指していきたいです。
これまで機能面やグローバル展開について話してきましたが、その先にある目的こそが重要です。
新ミッション「世界中の宿泊を支え、感動を生む」にも表現したように、私たちの究極の目的はゲストの "感動" を生み出すこと。「Jtas」の機能やサービス向上を通じて、ホテル業界全体の顧客体験を革新し、ミッション達成に貢献するプロダクトに育てていきたいです。
ーー ゲストの “感動” とは?
“ゲストの感動” の定義はまだ明確ではありませんが、とあるクライアントのホテルでは、
客室に関するリクエストを確実に聞き届けてもらえる
リピーターが前回滞在時と同じ客室体験ができる
ホテルチェーンにおいて、ある店舗で依頼した客室に関する要望が別店舗でも自動反映される
このような「気が利いている」と感じる小さな驚きや、要望が確実に実現される安心感の積み重ねが、これらがゲストの “感動” につながると考えられています。
具体的な形はまだ見えていませんが、クライアントの姿勢に学び、客室清掃を通してゲストの期待値を超える “感動” を生み出す機能を「Jtas」に実装したいと考えています。
取材企画・協力 / 世界線株式会社