自律神経とボディビルの可能性
〜競技の質を高めるための自律神経〜
1. はじめに
私たちの身体には、さまざまな神経が存在します。体の内側の情報を脳に届けたり、内臓の働きを調節してくれるのが「自律神経」です。自律神経は意識的には動かしづらい「不随意神経」の代表であり、体内の環境を一定に保つために休むことなく働いています。
さてもう難しい言葉が入ってきましたが、ここでは理解する必要はありません。
要所要所で筆者が解説をしていきますので、悪しからず!
最後までお楽しみください!
ボディビルやフィジーク、その他さまざまな競技に取り組む方々は、筋肥大や筋力アップに注目しがちですが、その「土台」となるのは、内臓機能・ホルモンバランス・体内の恒常性(ホメオスタシス)など、いわゆる“身体の中”の健康状態です。こうした内部環境の調整に深く関わっているのが自律神経です。
本記事では、自律神経の基本的な構造・機能を整理したうえで、トレーニングや栄養管理におけるヒントとなるような情報を皆様にお届けできればと思っています。
2. 神経の基礎知識
2-1. 神経とは何か
「神経を見たことがあるか」と聞かれると、多くの方はピンとこないかもしれません。しかし魚を捌くとき、背骨の中から出てくる白い紐のようなもの(脊髄から伸びる太い神経束)を見た方もいるでしょう。
太い神経は白い“紐”状に見えますが、さらに細かく見ると、それらは何千本もの細い神経繊維が束になったものがあります。それが神経です。
太い神経繊維:直径がおよそ1mmの100分の1程度
細い神経繊維:直径がおよそ1mmの1000分の1程度
非常に細いため、単独の神経繊維は肉眼では確認できないほどです。人体の神経は非常に柔らかく繊細で、触れると簡単に損傷してしまいます。
2-2. 神経の伝達速度とミエリン鞘
神経繊維には、ミエリン鞘(有髄繊維)という脂質・タンパク質からなるさやが巻き付いているものと、そうでないもの(無髄繊維)とがあります。有髄繊維はところどころに「ランビエの絞輪」という切れ目があり、この切れ目を“飛ぶように”電気信号が伝わります。そのため、有髄繊維は高速で情報を伝達できる仕組みになっています。
たとえば、太い有髄繊維はAα、Aβ、Aγ、Aδなどに分類されることがあります。一方、無髄繊維はC繊維と呼ばれ、情報伝達速度は遅いものの、痛みや温度、内臓感覚などの伝達を担っています。
筋トレでいえば、刺激を素早く伝える運動神経も“太い”有髄繊維が中心となるため、筋収縮の効率に関係してきます。
ここまで書いておいてですが、ここら辺まーったく覚える必要はありません笑
3. 自律神経の発見と神経伝達物質
3-1. 神経伝達物質のはじまり
1921年、オーストリアのオットー・レヴィはカエルの心臓を用いた実験で、初めて神経伝達物質を発見しました。刺激を与えた際、ある“物質”が迷走神経から放出され、それが別の心臓にも影響を及ぼす――この実験により、最初の神経伝達物質「アセチルコリン」が世に知られることになりました。
筆者はアセチルコリンは、サプリで摂取することをオススメしています。
アセチルコリンの主な作用
心臓:心拍数を下げる(副交感神経的作用)
脳 :血流を増やし、脳を活性化
運動機能:骨格筋の収縮を促進する。不足すると認知症リスクが高まる
3-2. 二番目の神経伝達物質:ノルアドレナリン
1946年、ウルフ・フォン・オイラーは交感神経から分泌される物質「ノルアドレナリン」を発見しました。
実は日本人研究者である高峰譲吉・上中敬三によって、1901年には牛の副腎から「アドレナリン」が結晶化されており、その構造や機能がノルアドレナリンに酷似していたため、交感神経の伝達物質はアドレナリンと推測されていました。
結果としてオイラーの発見でノルアドレナリンが正式に交感神経伝達物質と定義づけられたのです。
日本人の功績を、予備知識として知っておくと良いでしょう。かなり偉大な発見として広く知られている事実です。
3-3. さらに多彩な神経伝達物質
その後、日本人研究者の大塚正徳氏によって、GABA(γ-アミノ酪酸)やサブスタンスPが神経伝達物質として働くことが証明されました。
GABAは抑制性の伝達物質として有名で、脳や脊髄でのリラックス作用、興奮の抑制に寄与すると言われています。
ちなみにアセチルコリン同様に、筆者がオススメするサプリメントの一つです。
さらにボディビルダーみんな大好き一酸化窒素(NO)のように、ガス状の神経伝達物質もあることがわかっています。NOは血流調整や免疫機能にも関与し、ニトログリセリンのような薬剤もNOに関連した作用をもつことが確認されています。(実はNOも神経伝達物質だったんですね〜)
4. 自律神経とは何か
4-1. 体性神経系と自律神経系
神経系は大きく2つに分けられます。
中枢神経系:脳と脊髄
末梢神経系:脳と脊髄から出ている神経
末梢神経系はさらに、外側の環境に働きかける体性神経系(運動神経や感覚神経)と、内側の環境を調節する自律神経系に分けられます。
体性神経系:感覚神経(求心性神経)+運動神経(遠心性神経)
自律神経系:交感神経+副交感神経(いずれも遠心性神経の一種だが不随意筋・内臓を支配)
4-2. 自律神経の役割
自律神経は内臓や血管、腺などにつながっており、意識してコントロールできない部分(不随意筋=平滑筋や心筋)を動かしています。
例えば、心拍数や消化液の分泌、血管の収縮・拡張などは自律神経が司っています。
交感神経:活動時・緊張時に優位になる。心拍上昇、血圧上昇、血糖値上昇など“戦う・逃げる”モードを作る。
副交感神経:休息・リラックス時に優位になる。心拍数低下、消化促進、エネルギー回復を助ける。
5. 自律神経と内部環境の恒常性(ホメオスタシス)
5-1. 内部環境を一定に保つとは
人間の身体には約37兆個の細胞があり、細胞と細胞の間を埋めているのが細胞外液です。この細胞外液には栄養分、酸素、ミネラル、老廃物などが含まれており、生きていく上で必要な成分をやり取りしています。
内部環境が極端に乱れれば、細胞レベルでの活動が滞り、健康やパフォーマンスに悪影響が出ます。
これにはボディビル競技の中では、絶対的に使われる言葉「恒常性(ホメオスタシス)」が関係してきます。では実際にホメオスタシスとはなんなのでしょうか?
生理学者ウォルター・キャノンが提唱した「恒常性(ホメオスタシス)」とは、体温や血圧、血糖値、ミネラルバランスなどが一定の範囲に収まるように調整する働きのことです。自律神経は、このホメオスタシスを保つための“制御装置”といえます。
5-2. ホメオスタシスの例
体温:日中は高く、夜間は低めに推移するリズムをもつが、36~37℃付近をキープ。
心拍数:日中や運動中は上がり、睡眠中は下がる。
ホルモン:副腎皮質ホルモンは早朝に多く分泌され、カテコールアミン(ノルアドレナリンやアドレナリン)は日中に多いなど、それぞれリズムをもって変動する。
これらのリズム変動があるなかで、「一定範囲」を守り続ける力がホメオスタシスです。
6. 交感神経・副交感神経の働きとその構造
6-1. 遠心性神経(運動神経)と自律神経
体性神経系の運動神経は、脳・脊髄(中枢神経)から直接骨格筋に達しており、アセチルコリンが神経筋接合部で放出されることで筋肉が収縮します。一方の交感神経や副交感神経(自律神経)は、中枢神経からすぐ内臓や血管に行くのではなく、自律神経節という中継点を挟み、そこから節後線維が平滑筋や心筋へ指令を送るのが大きな特徴です。(こんがらがるので、覚える必要はありません笑)
節前線維(中枢から出て自律神経節まで)
節後線維(自律神経節から臓器へ)
交感神経
節前線維:比較的短い
節後線維:脊髄近くにある交感神経幹から多数に分岐(発散) → 全身を広範囲に刺激
副交感神経
節前線維:脳幹や仙髄から出ているためかなり長い
節後線維:各臓器の近くで短い経路をとる → 比較的局所的に作用
【ここがポイント☝️】
交感神経の刺激が全身的な強い反応(血圧上昇、血糖値上昇、瞳孔散大など)を引き起こすのは、節前線維が短く、節後線維へ多数同時に接続する“発散”が大きいからです。
逆に、副交感神経の刺激は特定の臓器(例えば胃腸)に集中しやすく、リラックスして消化を促進するなどの働きを示します。
7. 自律神経を味方につける:ボディビル・筋トレとの関係
7-1. トレーニングと交感神経
高負荷トレーニングやインターバルの短いレジスタンストレーニングなど、強度の高い運動を行うと交感神経が優位になります。
筋力を発揮するとき、交感神経が優位になることでアドレナリンやノルアドレナリンが放出され、心拍数の増加、血圧の上昇、エネルギー動員(グリコーゲン分解や脂肪分解)の加速が起こります。
利点:瞬発力や集中力が高まり、筋力・パワー発揮に有利
注意点:交感神経が過度に高まり続けると疲労回復を阻害し、オーバートレーニングのリスクにつながる
7-2. 回復と副交感神経
筋肉を成長させるうえで欠かせないのが休息と栄養補給です。副交感神経が優位になる睡眠時やリラックスタイムには、消化・吸収が促され、血流が内臓側に集まって修復・合成が進みます。
【ここがポイント☝️】
ボディビルなど筋肥大を目指す競技者にとって、筋トレと同じくらい重要なのが、副交感神経をうまく働かせるための質の高い休息です。
7-3. ホメオスタシスと栄養管理
減量期や増量期には、水分や電解質、糖質などの摂取量を調整しますが、極端なコントロールは体内環境のバランスを崩す可能性があります。
自律神経は体内の塩分濃度や血糖値などの情報をキャッチし、必要に応じて交感神経・副交感神経のバランスを変化させますが、あまりに極端な方法(急激な糖質カット・極端な脱水など)をとると、パフォーマンス低下や疲労感増大、さらにはホルモンバランスの乱れにつながる恐れがあります。
8. 実践的なアドバイスとして:自律神経をうまくコントロールするために
睡眠の質を高める
寝る前にスマホやPC画面を長時間見ない(ブルーライトが日光と酷似しているため)
就寝前に軽いストレッチや呼吸法で副交感神経を刺激(呼吸を整えることで副交感神経の向上を図ります)
部屋の温度や湿度、環境を整えてしっかり休む
呼吸を意識する
トレーニング中は息を止めすぎない(血圧が極端に上がりすぎるのを防ぐ)
ゆっくりとした腹式呼吸で副交感神経を優位にし、クールダウンを行う
栄養バランスのとれた食事
減量期でもタンパク質・ミネラル・ビタミン・適度な糖質をバランスよく摂取
カフェインやアルコールの摂取量をコントロールし、自律神経のバランスを保つ(筆者は17時以降は、カフェインの摂取は控えています)
コンディションの見直し(疲労度やストレスチェック)
週に1度はトレーニング量や強度を調整して、副交感神経がしっかり働く時間を確保(筆者は前の記事にも書いた「ピリオダイゼーション(Periodization)と筋トレの関係性」ピリオダイゼーションでコンディション調整をしています。)※下記参照
心拍変動(HRV)アプリなどで自律神経バランスを測定するのも有効(※ガジェット類も活用)
9. まとめ
自律神経は私たちの身体の内部環境を絶えずモニターし、必要に応じて交感神経と副交感神経の切り替えを行っています。
この自律神経がうまく機能することで、体温や血圧、ホルモン分泌、筋肉の修復や合成などがスムーズに行われます。
ボディビルや筋トレにおいては、交感神経が高まりすぎると疲労回復が遅れる一方で、副交感神経が優位になりすぎるとトレーニングへの集中力や闘争心が出にくいなどの可能性もあります。
カフェインやサプリメントなどを使い、しっかりとコントロールすることが大切です。
大切なのは、交感神経と副交感神経のバランスをいかに整えるかということです。十分な休息(質の高い睡眠)や計画的な栄養管理、過度な減量を避けるなど、身体が本来持っているホメオスタシスのリズムを乱さない工夫が、結果としてパフォーマンス向上とケガのリスク軽減につながるでしょう。
参考文献・資料
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上記の文献をはじめとした数々の研究からもわかるように、筋力トレーニングは交感神経を高め、体内のエネルギー代謝を促す一方、十分な副交感神経優位の時間がないと身体はうまく回復しません。
結果を出すためには、自律神経とホメオスタシスのリズムを崩しすぎないように気をつけることが大切ではないかと筆者は考えています。
日々のトレーニングやライフスタイルの中で、睡眠・栄養・呼吸などを見直し、自律神経を味方につけ、より効率的なボディメイクや競技パフォーマンス向上を目指していきましょう。
長文を最後まで、閉じずにお読みくださりありがとうございます。体の内側(内部環境)を整えることは、競技力の向上や健康維持にとって非常に重要です。皆様のトレーニングや日々の生活に少しでもお役立ていただければ幸いです。
最後まで、読んでいただいた方に、大変恐縮なお願いですが、ぜひいいね。やシェアなどしていただけたら大変励みになります。
今後とも競技につながるような記事を発信させていただきます。
懲りずに一読していただけましたら、大変幸甚にございます。
最後に、皆様がこの記事を読んで日々のトレーニングに活かしていっていただけることが、筆者の切なる願いでございます。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。