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就業不能保険の各社比較からみる生命保険業界の思惑

保険商品名の内包するイメージと、実際のギャップ

就業不能保険、という商品名を聞いてあなたは何を思い浮かべるだろうか。働けなくなった時に備える保険というのは分かる。

しかし、ここでいう「働けなくなった」とはどんな状態のことか。境目は各社それぞれだが、入院保障、身体障害状態、それに相当する自宅療養あたりが保障範囲になることが多い。なぜかといえば、公的な認定が受けられて支払基準が定めやすいからである。

ここでいう「〇〇に相当する自宅療養」が曲者で、この内容は各社によって異なる。重症な部分だけを相手にしているのか、それとも軽めの症状までカバーしているのか。これによって「働けない状態」の意味合いが変わる。

このように就業不能保険は、入院保障・障害保障・疾病保障をベースにプラスアルファの部分で各社が差別化をしていく傾向が強い。ほんのちょっとのチューニングが差別化要因となる、思いっきり玄人な世界なのである。そのため、商品名が示すイメージと保障内容に乖離を感じる人も少なくない。

最近は少額短期保険の会社が斬新な支払事由の商品を売り出しているが、この傾向が進めば商品名は同じでも内実に各社ごとの開きがあるケースはどんどん増えそうだ。

生命保険は「不要なもの」を定義しにくい商品

「高い化粧品が良いものとは限らない。いろんな無駄な成分を加えて値段を上げているが、むしろそのような成分が入っていないほうが肌に良かったりする」といった話を最近複数のルートから聞いた。

「化粧品は肌に良いか悪いか」という基準が明確なので、無用なものをハッキリと定義づけることが可能だが、生命保険は一筋縄ではいかない。

これは生命保険が「不安に値段をつける」ものだからだ。

保障範囲が広ければ使える場面は増えるが、その分保険料が高くなる。多くの人は保険金の支払いを受けずに日々を過ごしてゆくので、「この保障ならばこの保険料は満足がいく水準だ」という絶対的な正解はない。

ファッションブランドと同じように、生命保険は比較不可能性をテーマに歴史を刻んでいる。生命保険は約款という法律文書の塊なので、ファッションよりもロジカルで直感的に理解しづらい。

情報化社会が進み、乗合代理店も増えることで保険の比較がしやすい環境が整いつつあるが、業界はさらにその先の「ネット上の情報収集だけでは比較できないぐらいの複雑さ」を作り出しつつあるようだ。

複雑さの増幅ではなく、機能性の追求でもない、顧客のホスピタリティに繋がる競争軸の創出はできないものだろうか?

保険市場の創出

この本のあと書きには大変感銘を受けた。一部抜粋してみよう。

私的な感想ではあるが、アフラックが日本に進出した際、日本でほとんど認知のなかった「がん保険」について法人会への情報提供等の営業努力を通じて「ニーズを叩き起こした」という印象がある。
(中略)
良くも悪くも保険業界は近視眼な営業スタイルに思われ、時間のかかる営業がなかなか続かない(続けさせてもらえない)。
現場の代理店も、メーカーのソリシターも、ニーズ喚起からクロージングまでの時間を許容できないことが多いように感じる。よって、顕在ニーズ化されてない商品のマーケティングは、なおのこと難しいことになる。

「働けないって具体的にどんな場合があるんだろう?」のところを丁寧に掘り下げていない状態で、保険商品だけポンと出されたらどうなるだろうか。

えっ、ちょっとまって理解がフワフワした状態だし、なんか騙されてるかもしれない。ここはネットで検索してちゃんと調べないと・・・え、種類多すぎ。比較の軸もよくわからない。

プロの人に相談しないと分からないかも。でも、プロの人は保険進めてくるだろうなぁ。となると2,3人に相談して比較しないと・・・うわあ、面倒くさい。

この辺りが消費者心理ではないだろうか。ここでの問題の根本は、生命保険業界が時間をかけて情報を掘り下げるルートを持たないことだ。

CMは15〜30秒ほどなので伝えられる情報に限りがある。会社のホームページは販売の思惑を感じて要件以外の情報はスルーする。

興味を惹くように面白おかしく語りつつ、商売っ気を排除し、ちゃんと相手の啓蒙にもなる語りの場を作るのが重要で、これはハッキリいうと会社の公式な媒体では作れないだろう。

生命保険の仕事を「仕事」としてしか捉えないと、未来は創れないのだ。

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