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【Her Odyssey】27日目
『ダイヤの7』
ボクは改めて鯨の怪我と向き合う。応急ではなくちゃんとした処置をするためだ。
幸いにも海の上は魔術の使いやすい環境だ。水の精霊も風の精霊も、手助けをしてくれる。
消毒の薬草を塗り直し丁寧に魔術を施せば、海水が滲みない程度に治療を完了することができた。
鯨も嬉しそうに鳴き声を返してくれるようになる。ボクはほっと方を撫で下ろした。
引き抜いた槍を綺麗にして改めて観察をしてみ
【Her Odyssey】26日目
『ハートの8』
鯨は賢い生き物だから、船が彼らに衝突することないのだと聞いている。
背に降り立ったボクは、深く突き立った槍の一本に気がついた。この鯨がどこか動揺している様相なのもこれが原因か。
「まずいな。すぐ治療しよう……」
船が来るまでにできることといえば応急処置と痛み止めくらいだろうが、ボクは集中して作業に取りかかる。
一生懸命行った。焦りすぎていて何が何だかわからないくらい。
【Her Odyssey】25日目
『ダイヤのジャック』
ボクは今、海の上にいる。
この連絡船は風の精霊の力を借りて進んでいるようで、海面を滑るように穏やかに進んでいることだろう。 潮の香りのする風が顔にあたって気持ちが良い。
ボクの腕の中で、キィ君も嬉しそうに鳴いていた。
自分の足で歩かなくて良い旅路は、少し不思議な感じがする。
穏やかな時間はしばらく続いた。
やがて、がやがやと人の声がするのを聞く。
話を聞けば
【Her Odyssey】24日目
『クローバーの3』
廃墟の探索ばかりしているわけにもいかない。
ボクは渋々ながら旅に戻ることにする。
調べた感じ、子供の病気の手がかりになるとも思いにくかった。これは今後の課題にしておくのがいいかもしれないと思う。
キィ君となだらかな道を歩く。途中、ふいに声を掛けられた。
声の主はどうやらボクと同じ旅人であるらしく、怪我をしてしまって動けなくなっているようだった。
彼は「薬を少し分
【Her Odyssey】23日目
『ハートの3』
ボクは階段をずっと登り続ける。階段に終わりは来ない。永遠とも思える、長い長い階段だった。
やがてへとへとになって座り込む。もう一歩も動けない。
仕方が無いから、そこで少し眠ることにした。夜なのかどうなのかもわからない。
とても困ってしまった。塔でも登っている訳でもなければ、この距離感は絶対におかしい。
睡眠をとって、ボクは微睡みからゆっくりと起床をする。頭の中がまだは
【Her Odyssey】22日目
『ハートの7』
「あいたたたた……」
打った腰をさすりながら、ボクはよろよろと立ち上がる。身体はなんとか無事のようで、多少の切り傷はあれど問題はなさそうだ。
落ちた先はかなり広い空間だった。足下の瓦礫を除けば、基本的には障害物はなく歩きやすい。
周囲に気をつけながらとりあえず進むと、壁に突き当たる。今度は壁を伝って、さらに歩き続ける。
すると、装飾が綿密に施された大きな扉を見つけた。両扉
【Her Odyssey】21日目
『ダイヤのクイーン』
引き続き今日も廃墟の探索をすることにした。
城らしき建造物の壁などを触れ、指先で装飾をなぞる。そうしてわかる施された紋様は、だいぶ古いもののようだ。一体いつ頃に作られたものなのだろう。
そうしていると足下がぐらりと不安定になり、ボクは大きく体勢を崩した。
杖を片手によくよく気をつけていたはずなのだけど、ボクの乗った重さで老朽化した床が崩れたのだろうか。一気に崩れ、
【Her Odyssey】20日目
『スペードのジャック』
道を外れ、ボクは雑木林に足を踏み入れた。しばらく行くと開けた場所に出る。
ぽつぽつと建造物があるようだったが、触れてみるとそのどれもが朽ちている。集落跡というには狭いが、廃屋という感じではない。多分、城のようなものがあったのだろうと思った。
不思議な空気だった。ボクは周囲を調べながら、城の奥へと入ってみる。
その時だ。ふと、語りかけてくる声を聞いてボクは足を止め
【Her Odyssey】19日目
『ダイヤの6』
田園地帯を抜けて暫し。ボクの感覚でも歩きやすい道が続いている。
集落という程ではないが、ちらほらと人も住んでいるようで話し相手にも事欠かなかった。泊まる場所を借りたりしながら、ボクたちはのどかな旅を続けていく。
やがて、一つの小屋のある場所に出た。話を聞くと、どうやら子供が病に伏しているという。
ボクは医者ではないが、魔術師ではある。何か役に立てることはないかと、少しだけ
【Her Odyssey】18日目
『ハートの2』
山道をしばらく行くと、様相は一変した。
道が歩きやすくなったのだ。石畳などで舗装されているわけではないが、それでも明らかに人の手が入っている。
気になって確認してみると、道の両端には広く田園が作られているようだった。
そうしてさらに歩いて行くと、人の気配も感じるようになる。
「やあ、旅人さんかい? 珍しいね」
「こんにちは。ええ、ちょっと砂漠の方から」
優しげな声に
【Her Odyssey】16日目
『クローバーのジャック』
長く歩いた末に、ボクはついにオアシスの街に辿り着いた。街はただ『オアシスの街』と呼ばれているようだ。
岩の壁がぐるりと取り囲むように設置されており、それが砂避けになっているのだろう。前に会った男の言っていたとおり、手形がなければ中に入ることはできないらしい。
彼に貰った手形を見せると、無事に中へと通して貰えた。
何にせよ、ボクは久しぶりに水浴びとまともなご飯、ベ
【Her Odyssey】15日目
『クローバーの8』
ようやく風が落ち着いた頃には、すっかり夜になっていた。周囲が暗くなっている様子はボクにはわからないが、穏やかな砂の匂いと急激に冷えてきた気温でそれがわかる。
夜通し歩くにせよ休憩は必要だ。身体もどんどん冷えてきた。寝袋布を広げて風よけを立て、ボクはキィ君を抱えて座り込む。火を起こせばなんとか点いてくれたので、それで暖を取ることにした。
「魔術が通ればもうちょっとまともに
【Her Odyssey】14日目
『クローバーの10』
風が強くなってきた。顔にあたる砂が痛い。
ボクは目を隠している布を広げ、巻き直した。見た目は最悪だが、耳や口に砂が入らないだけでも少し楽にはなるだろう。
「しかし、ここで竜巻かあ……。ついてないな」
できれば隠れてやり過ごしたいところだが、ここは砂漠である。闇雲に歩き続け、少しでも遮蔽になるものがあれば……というところだが。キィ君を抱え上げ服の中に入れ、ボクは溜息交じ
【Her Odyssey】13日目
『スペードの4』
悪戯精霊たちを振り切ったボクは今、砂漠地帯を歩いている。
殊に魔術師の間では、砂漠は『大地の死骸』と呼ばれる。つまるところ、精霊の加護を失った地ということだ。
精霊のいないここでは魔術があまり効果を発揮しない。強い陽射しによってじりじり焼かれた砂は熱くて歩きにくいし、水源が見つけにくいことも良くなかった。
荷物を幾つか捨てて歩きたいくらいだが、精霊の加護がないと言うこと