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【Her Odyssey】23日目

『ハートの3』

 ボクは階段をずっと登り続ける。階段に終わりは来ない。永遠とも思える、長い長い階段だった。
 やがてへとへとになって座り込む。もう一歩も動けない。
 仕方が無いから、そこで少し眠ることにした。夜なのかどうなのかもわからない。
 とても困ってしまった。塔でも登っている訳でもなければ、この距離感は絶対におかしい。

 睡眠をとって、ボクは微睡みからゆっくりと起床をする。頭の中がまだはっきりしないうちに、鳴き声が聞こえた。
 わんわんと、どこか楽しげに吠える声。それは聞き慣れた、それでいてもう聞くことはないであろう声だ。
「……クロ?」

 かつて生活を共にしていた友人の吠え声は、階段の下方から聞こえていた。
 ボクは周囲に気をつけながら、階段を下る方へ足を運ぶ。
 ここにクロがいるはずはない。ないのだけど、なんとなく彼がボクを助けようとしてくれているような、そんな気がしたから。
 あんなに登ってきたはずの階段は、何故かすぐに平らな道になった。

「……キィ!」

 聞き慣れた、高い音がした。すぐにふわふわの毛玉がボクに飛び込んでくる。
 どうやら戻って来れた……のか? 流石に狐に化かされたようで、ボクは周囲を逡巡する。
 まるで何事もなかったかのように、優しい風が吹き抜けていった。