【Her Odyssey】15日目
『クローバーの8』
ようやく風が落ち着いた頃には、すっかり夜になっていた。周囲が暗くなっている様子はボクにはわからないが、穏やかな砂の匂いと急激に冷えてきた気温でそれがわかる。
夜通し歩くにせよ休憩は必要だ。身体もどんどん冷えてきた。寝袋布を広げて風よけを立て、ボクはキィ君を抱えて座り込む。火を起こせばなんとか点いてくれたので、それで暖を取ることにした。
「魔術が通ればもうちょっとまともに寒さも凌げたんだけどね」
「キィ!」
すり寄ってくるキィ君が温かくて、ボクは少しだけ安堵する。
やがて、肩周りが妙に冷えてきたのが気になって触れてみた。ぐっしょりと濡れていて驚いた。
「雪……か?」
大地の死骸に雨は降らない。もちろん、雪が降ることも珍しい。しかしそうであるなら、どうりで寒いはずだ。雪は降るのに音をまったくたてないらしい。
やれやれとボクは立ち上がり、キィ君にはそっと上着をかぶせた。
「火が消えちゃうかもしれないから、燃やせるもの探してくる。キィ君は待ってて」
「キィ……」
近くをうろうろして探してみたけど、砂以外には何も無いようで参った。
しばらくは根性で探したけど、最後には諦めてキィ君の元に戻ることになった。小さな火にあたりながら、ボクはキィ君を静かに抱え込んだ。