読書記録:この△ラブコメは幸せになる義務がある。3 (電撃文庫) 著 榛名 千紘
【勇気を出して想いを形に変えた、記憶に残る夏が始まる】
夏合宿で恋の嵐が巻き起こる物語。
燻った想いをそのままで終わらすのか、形に変えて放出するかは本人次第。
今の関係を維持しながらも更なる発展も望みたい。昂ぶった想いの丈をそのままぶつけた麗良と動揺しつつも受け入れる天馬。
そんな二人の姿を密かに見てしまった凛華。
ぎくしゃくした一学期が終わり、待ちに待った夏休みが到来する中、麗良の提案で夏合宿へと繰り出す。
彼らを取り巻く愉快な仲間達との無礼講な夏休みを満喫する中。
若き青春の衝動は自分では中々、コントロール出来ない。
それ故に、その行動は天馬の鈍感も相まって、危ういバランスの上で築かれていた関係を容易く壊す材料となってしまうのである。
麗良のキスを目撃してしまった凜華、その心の中にあるのは、妄想の中で温めてきた麗良を奪い返す光景ではなく。
想像以上に膨れ上がった喪失感。
鈍感な天馬も、渚に相談した物の、呆れられて。
否が応でも理解する、凜華の恋心。
天馬の悪魔の囁きで麗良への愛を思い出した凛華の暴走っぷり。
その感情が、心に焼き付いた想いが。
今まで凜華一筋で駆動してきた凜華を狂わせない訳もなく。
色恋を知らない天馬の心を揺らさない訳もなく。
気が付けばやってきた定期考査の中で二人と共に燦々たる成績を叩きだしてしまい、更には凜華は彼らから距離を取ろうと、どこかよそよそしく疎遠になってしまう。
天馬が願うのは、三人で過ごす何気ない日常を取り戻すと言う物で。
しかし、逃げ続ける凜華を前にその糸口を捉える事は出来ず。
足踏みの日々が続く中、突然二人を呼び出した麗良は一方的に夏合宿を開催すると宣言し。
訳も目的も分からぬまま、合宿といういかにも学生らしいイベントが幕を開ける。
それは、凜華と天馬にとっては必要であった時間。ある意味、志を同じくする同志であり、共犯者でもある二人が、もう一度お互いの想いを見つめ直し。その上で自分の大切な時間を取り戻していく為に必要な時間。
非日常的な日々の中、麗良を愛する、ある種、変態的な自分のパーソナリティを取り戻していく中。
醸成されていく凜華自身の思い。
自分を否定する訳でもなく、何気なくもずっと傍に居てくれる彼への思いは高まって。
ふとした瞬間、建前と変態の仮面の裏に隠れた彼女自身の思いが明かされる。
その思いの結実として、一体この先、どうなってしまうのか。
そろそろ、天馬自身も求められているのかもしれない。
彼女達の為に、何かを決断するという事を。
この恋に決着がついてしまえば、今までの関係は続かないという、どうしよもない現実。
それでも、凛華が天馬へに向けた想いをはっきり自覚して、天馬も「最も幸せな三角関係」に向けて決意を新たにしていく、今までの感情の総決算としての清算は清々しい青さがあった。
自分の気持ちにちゃんと向き合い、想いを形にした彼女はまばゆいばかりの輝きを放つ。
恋の嵐はそれぞれの意識が変わる余波を残して過ぎ去った。
何にせよ、関係を仕切り直すきっかけになる記憶に残る夏となった。
ここから関係をどう立て直し、正念場となる分岐点を乗り切れるのか。
果たして、凛華の天馬への真剣な勇気と行動がどのような波乱を齎すのだろうか?