読書感想:あおとさくら2 (GA文庫) 著 伊尾微
【移りゆく季節の中、変わらない居場所を君は与えてくれた】
イベントを経験する中で関係が変化する物語。
この世界で生きていく為には、自分の核となる物が必要で。
曖昧だった関係を続けてきた蒼と咲良は、それぞれに核となる物を模索し始める。
音楽が拠り所だった咲良は、再びその道を歩み出し、蒼も触発される様に人間関係を克服し始める。ずっと変わらない関係は無い。
季節の様に刻々と変わりゆく。
数々とイベントを共にして分かった事
変わりゆく無常の中で、互いが変わらぬ居場所を与え続ける彼ら。
互いが等身大の相手を認め合って、成長していける姿はまさに青春の醍醐味。
空虚だった心に、互いの存在が満たされていって、
今まで気付けなかった素敵な物に気づけるようになって、心象風景がカラフルに色づいていく。
目が眩むような青春。
無味乾燥な壁を作っているのはいつだって自分自身。
飛び込んでみれば、案外上手くいく時もある。
咲良と出会い、仲を深めることでそれに気づいた蒼。
そして蒼と出会ったことで幸せを取り戻そうと前に進むことを決心した咲良。
お互いに助け合いながら、蒼は友達作り、咲良は音楽への再会という目標に向け、日々を前進してゆく。
青春とは何なのであろうか?
一瞬しかない時間、その時にしか出来ない回り道、青くて若いからこそ出来る、無茶無謀。
その答えの数はきっと、星の数ほどある。
図書館での出会いから早くも半年。
別離の危機と少しの踏み出しを経て、少しずつ変わり出していく蒼。
咲良との出会いがあったからこそ見つけられたもの、やってみたい夢に向かって少しずつ歩き出す。
今まで色々な物を取りこぼしてきてしまったから、その歩みは遅いけれど。
何もかもが手探りではあるけれども。
自分の目標に向かって堅実に進み出す。
何かを始めるのに遅すぎるという事はない。
自分にとっての表現する為の武器を見つけたから、きっともう止まらない。
咲良にとっての音楽がそうであるように、自分にとっては小説がそれである。
そう気付けたのだから。
自分の存在意義を見いだす事が、この広い世界で出来るという事は奇跡のように素敵な事である。
徐々に変わりつつある蒼。
音楽への情熱を改めて見出した咲良に、それはまるで追いつこうとするかのように。
変わり始めたのなら、その足は留まる事を知らぬ。新しい世界を見てみたいと、徐々に歩き出す先で世界は変わっていく。
当然行く先は別の修学旅行、だが一部日程が被っているところもあると知り、同じ場所へ向かう為に、一歩踏み出して。
関わり合いも薄い相手に、グループに入れてほしいと勇気を出してお願いして。
今までは好まず避けてきた集団行動。
だが、皆で行動する事で見えてくる物だってある。少しずつ知って欲しいと行動する事で、彼の人となりは知られていく。
自分から積極的に動く事で、世界がどんどん広がっていく。
知らなかった事を知っていく充足感。
知らないだけで大切なものはすぐそばにあった。
彼女との出会いが気付かせてくれた、そこにあるものに手を伸ばすことの大切さを。
踏み出した彼に周りの者達は優しくて。
咲良の元へ行くために抜け出したいと言う彼の背を、快く送り出す。
知った思いは、輝きは彼女が教えてくれた物。
彼女との時間は、もうかけがえのない物。
だからこそもっと、もっとと知りたいと願う。
変化に揺れてもそれを受け入れ、その中で変わらぬものを見つけたいと求めていく。
元から持っていた物に気付いていく、当たり前の帰結。
されど、それが一番大切な物。
自分だけの世界に彼女の居場所が出来た、それを受け入れられた。
一人が二人になって、手を繋ぐ。
それが即ち青春の息吹、等身大の輝き。
変わっていく季節の中で、変わらない物を掴んだ。
蒼は小説、咲良はヴァイオリン。
共に成長していける向上心を手にした彼らを阻む物は何一つない。