読書感想:週末同じテント、先輩が近すぎて今夜も寝れない。 (GA文庫) 著 蒼機純
【初めてを楽しむ努力、知らない素顔で過ごす距離】
小樽のキャンプ場で、少年達が自分らしさを大切にする物語。
現代は様々な娯楽で溢れている。
一昔流行っていた物も、今では見向きもされず、若者達はインスタントな感動で満足している。
根っからのインドア派で、本や動画をこよなく愛する現代の申し子である香月は、学校の美人な先輩である文香に強引に誘われて、週末にキャンプをする。
同じテントで、同じ窯の飯を喰らいながら、沢山の初めてを経験する香月。
知らない事を教えてくれた文香の素顔を見る中で。
インドア派の香月が文香との出会いによりキャンプの魅力に取り憑かれていく。 作者自身が超インドア派だった所から、ふとしたきっかくなでキャンプの魅力を知っていく事になる。
今までの自分の中から外に出て行く視点が出来上がっていく様は、捉え方次第で世界が拡がるようなワクワク感があった。
ちょっとした事がキッカケで亀裂が生まれる事になっても、始まりとは逆に香月が文香の手を取り、走り出す展開がカタルシスがあった。
自分の核になる部分を大事にしつつも、その外側にある事にトライしてみると、意外な新しい世界が拓ける物で。
多感な思春期時代にそういう体験が出来るというのは、一生の宝物になるだろう。
食わず嫌いでやらないのは勿体ない。
文字通りやってみなければ分からない。
始めてみなければ、伝わらぬ。
彼女とタンデムで飛び出し、様々なスポットを巡って、二人で焚火を眺めて。
幾多の初めてを経験する内に、彼の心の中にキャンプという物への情熱が芽生えていく。
しかし、約束したキャンプがインフルエンザへの罹患で頓挫してしまう。
香月をキャンプに誘う事で新たな楽しみを見出していた文香の心は折れてしまい、一方的に突き放されそうになってしまう。
それでも、たった一度、何でもない関係でキャンプしただけかも知れないが。
人と外で苦楽を共にする面白さを知ってしまった。だから今度は自分から、勇気を出して。
願いを口に、思いを胸に。
今度は自分が、香月は文香の手を引きキャンプへと連れ出していく。
すれ違ってしまった文香ともう一度キャンプをする為に奔走する香月の努力に、離れ離れだった心はやがて繋がる。
何もかもが初めて。だからこそ、それを積み重ねる日々は面白い。
未知の感動を素直に楽しんで行くのだ。
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