読書感想:呪われて、純愛。 (電撃文庫) 著 二丸修一
【呪われし記憶を紐解くは、純粋な狂気への入口】
記憶を失った少年が、二人の少女と呪われし関係を紐解く物語。
自分自身が歩んできた記憶とは、その人の人格を形成する上で重要なファクターとなる。
その記憶を失ってしまった廻は、己の基盤が大きく揺れ動きながらも、恋人を名乗る白雪と魔子に関わっていく。
自分の知らない事を彼女達だけが知っている。
罪悪感と純愛で繋がった彼女達との記憶を掘り下げるごとに目を覆いたくなる真実が顕になる。
純粋無垢な狂気へと踏み出す先、そこにあるのは楽園か地獄か。
果たして、記憶が失われた期間にいったい何があったのか。
不明瞭な記憶の枝葉を手繰り寄せる中で、不気味な真実がつまびらかとなる。
少しずつ、明らかになってゆく白雪との間に育まれていた絆。
そして彼を振り回す魔子との間にあった何とも苦い過去。
それぞれがかけがえのない相手だからこそ、はたから見れば歪な関係だとしても縋り付く他にない。
ちぐはぐな記憶の断片と彼女達の証言に、何を信じれば良いのか、大きく揺さぶられる廻の心。
穴だらけだった記憶が全て繋がった時、その恋は揺るぎなき、呪いとなる。
純愛である筈なのに、重い過去が罪悪感と背徳感を呼び起こし、心を容赦なく傷付ける。
表紙に描かれている齧りかけの林檎は、楽園追放という聖書に描かれている事を示唆している。
蛇に唆され知恵の実である林檎を食べてしまったアダムとイヴは楽園を追放され、人間として生きなければならぬ業を背負った。
楽園を追放された先で向かうのが未開の荒野であるのなら。
その向かう先は、狂おしいまでの甘美な地獄。
廻と白雪と魔子は共犯者として共に堕ちていく。
蘇る記憶をほおばり、毒々しい愛を噛み締めながら。