読書感想:隣の席の中二病が、俺のことを『闇を生きる者よ』と呼んでくる (角川スニーカー文庫) 著 海山 蒼介
【同じ闇を持つからこそ惹かれ合う、この世界で生きる同志に巡り合う】
暗殺者と厨二病少女が邂逅する物語。
認識の齟齬とは、時として思いもよらぬ相乗効果を生む。
極秘任務の為に一般高校に潜入した暗殺者、猫丸はただならぬオーラを放つ紅音に眼を奪われ驚愕した。
互いを互いで誤解した故に起こるすれ違い。
しかし、それは悲しい物では無く、距離が何処と無く近付いてしまう滑稽なすれ違い。
暗殺者も厨二病も、心の底に秘めたる闇は似た者同士。
勘違いから繋がった彼らの初々しい縁。
そもそもが、厨二病は精神的に未成熟な思春期に発症する物であり、大人になれば大概が黒歴史になるような、世間一般で言う所の痛い部類になる物だ。
義理の父親である寅彦に「紅竜」と呼ばれる正体不明の最強の殺し屋がとある高校にいると知らされ、任務の元にその高校へと転入した。
転校初日の早々、自己紹介をちょっとミスした猫丸に、紅音は嬉々とした様子で話しかけてくる。
普通だったら、特に興味もなく聞き流していただろう。
だが、ここで発生するのは致命的なアンジャッシュ。
紅音が即興でつけたあだ名が奇しくも猫丸のコードネームと同じだった事により。
彼女こそが「紅竜」であると猫丸が勘違いしてしまったのである。
致命的なアンジャッシュ。
しかし、それを正す者も咎める者も残念ながらいなくて。
暗殺すべきかと思案して、対応を決めあぐねる猫丸とそんな闇の挙動に惹かれていく紅音。
彼女の親友である九十九を巻き込み、生暖かい視線で見守る周囲の者達に囲まれながらも。
呟いた寝言を警戒したり、一緒にテスト勉強をしようかと思ったら、何故か学校に侵入する事になったり。
共に昼食を取ったり、二人で出かけたりする中で。
意外にこんな青春も悪くはないと思い始めたタイミングで。
ふとした切っ掛けから気づいた、猫丸の抱える本物の闇。
そこに紅音は惹かれ始め、猫丸は相変わらず誤解を深めていく。
色々な偶然が重なった結果、片方は相手の事を自分と同じ裏社会の人間だと思い込み、もう片方は相手の事を自分と同じ空想を愛する者だと思い込んでしまう。
何故なら、独特の世界観を抱え持って、他人と相容れぬ闇の匂いが感じ取れるから。
空想に耽る紅音は、周りに妄想を愛する者がおらず孤立していた。
しかし、本物の闇の世界で生きる猫丸が転校してきて、同志を見つけた喜びで、次第に恋心を抱いていく。
空想を恥ずべき物だとは思わず、むしろ、誇りにすら感じる二人は、互いの生き様にシンパシーを感じていく。
普通なら厨二病的言動は意味不明だと一蹴されがちだが、自分も似た物を抱えているので、驚くほどに理解力が早い。
互いを最強だとリスペクトしつつ、抱え持つ闇を交換し合う中で、好意の矢印が次第に芽生える。
空想に耽る紅音は、周りに妄想を愛する者がおらず孤立していた。
実は本物の主人公が転校してきて、同志を見つけ喜び次第に恋心を抱いていく。
それでも、紅音の取る勘違いを加速させる意味深な厨二病的ムーブが、ことごとく猫丸の勘違いを生んでいき、猫丸にとっての脅威度が跳ね上がっていく様は、本人が真剣だからこそ、はたから見ればそのどことなく間抜けさが、失笑を誘う。
ただ、猫丸と仲良くなりたいという紅音の素直な部分があるのも本当で、その行動を深読みして、裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう猫丸のシュールさが際立っていた。
しかし、心から信じられる者がある彼らはピュアな心を持ち得ていて。
だからこそ、前途多難な道行きの中で互いの誤解を解いて、真に分かり合える日は訪れるのだろうか?