読書感想:月灯館殺人事件 (星海FICTIONS) 著 北山猛邦
【白の牢獄と化した孤館で、謎と真相に誰が殺されるのか?】
天神人が統べる月灯館に集う作家達を襲う謎の狂気に挑む物語。
所謂、ミステリーにはお約束のような展開が用意されている。
その定型に則った上で、意外性やどんでん返しを塩梅とするのだ。
七つの大罪をモチーフにした連続殺人が巻き起こる中、誰が何故、どうやって殺されるのかを考察していく。
その中で明かされるは、いっそ清々しい程の絢爛豪華な物理トリック。
自虐や皮肉の中に、読者に伝えたいメッセージが隠れている。
雪の中のクローズドサークル。
見立ての七つの大罪。10人の滞在者、連続殺人、密室殺人、首切り入れ替えと古典満載のそして誰もいなくなったストーリー。
デビュー作以降作品を書けなくなった孤木雨論。
編集者の薦めに従い、大御所作家の館に住む事になる。
そこは俗世から切り離された世界で、存分に執筆に取り組める。
しかし、ある夕食会の場で、ここに集まった作家連中を全員殺害すると予告した音声が流される。
そして一人ずつ密室で首を切られて殺されていく。
誰が一体どうやって、何の為に殺人を行うのか、残された物的証拠と手がかりを頼りに、細い糸を繋ぎ合わせるように考察していく。
殺害されるのが傲慢、怠惰、無知、濫造、倒錯、強欲、嫉妬の大罪を犯したミステリ作家というのが何とも皮肉が効いていて、風刺的であった。
若手の本格ミステリ作家たちを育成する為、天神は部屋を貸し出す。
冬至の夜の食事会で、作家たちの罪を告発するカセットテープの声を皮切りに連続殺人が幕を開ける。
雪に閉ざされた舘、密室殺人、首無し死体。
古き良き王道ミステリーを踏襲しながらも、読者の予想と期待を大きく裏切る様な仕掛けと伏線が、鮮烈に際立っている。
天人を始めとする複数のミステリー作家を館に住み込ませて、著書の執筆にあてさせる。
それは、かつての漫画界のレジェンド達が集ったトキワ荘の様な物で。
しかし、その本質は何かが違う。
月灯館には言葉で言い知れぬ、不気味な深い闇が横たわる。
雪に閉ざされた陸の孤島で、白い闇に包まれて、閉塞感と冬季鬱症に悩まされながら、不気味な吹雪の唸りの中で、不気味な怨念が館に住まう作家の精神にどの様な影響を及ぼすのか?
もしかしたら、その精神を侵す闇こそが、創作の質を高める秘密が隠されているのかも知れない。
その闇を受け入れた時に、ミステリー作家としての真骨頂を否応なく味わい尽くす。