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読書記録:ミモザの告白 (3) (ガガガ文庫) 著 八目 迷

【誰かを傷付ければ、それは必ず自分に返ってくる】


【あらすじ】

闘争と激情。火花散る第三巻。

文化祭を終えてから咲馬たちは平穏な学校生活を送っていた。
最初はクラスメイトに避けられがちだった汐も、今ではすっかり馴染んでいる。
汐がクラスの人気者に返り咲く日も近い――そう思った矢先。
咲馬たちの教室に、かつて汐が所属していた男子陸上部の能井風助が訪れる。

「勝負しろ。俺が勝ったら、男子陸上部に戻ってきてもらう」

長距離走者として汐のライバル的存在だった能井は、汐に勝負を挑む。
ブランクのある汐には不利な条件。
だが汐は、その勝負に乗ってしまう。


一方、クラスの問題児・西園アリサが、世良慈と衝突する。
挑発を繰り返す世良に、怒りを募らせる西園。
溜め込んだ鬱憤は理性を浸食し、やがて彼女は思いも寄らない凶行に走る。

「舐めんな、クズ野郎」

大切なものを守るために。あるいは何かを勝ち取るために。彼ら彼女らは、ぶつかり合う。

暴走する感情の行き着く先はーー。

あらすじ要約
登場人物紹介


陸上部の復帰をかけ、汐と風助が対決する中、慈に煽られてアリサの怒りが爆発する物語。


素質に恵まれた汐の復帰を望む風助。
他人には大した事が無くとも、当人には重大な悩みがある。
汐が走りたくても男子陸上部所属を拒否する理由。
それは走り込みをする事で脚が太くなる事を拒む女性的価値観。
それ故に汐を去った。
それを裏切られたと思う風助。
愛情は時として増悪に反転する。

そして、汐の件で孤立したアリサは、慈に挑発に乗る事で完全に居場所を失う。
汐は男子なのに、何故、女子の振る舞いをするのか。
男子だった頃の汐に実は好意を寄せていたアリサは裏切られた気持ちに苛まれる。
好意と笑顔の裏にはいつだって打算がある。
誰もが無傷ではいられず、痛みの青春に彩られる。

自身の尊厳を守る為に、汐と能井の対決、そしてアリサと慈の決闘が幕開ける。

青春とは時に苦い物であり、時に暴走する物である。
大人であれば制御できる感情が、若い彼らには制御できず、思わぬ形で発露してしまう事もある。
多くの女子達に受け入れられだした汐という存在。
しかし、まだそれを受け入れられない者も存在して。
かつての部活の仲間でありライバルでもあった風助との部活復帰を賭けた勝負が始まる。

汐のサポートに回り、共に研鑽しながら練習に励む咲馬。
一方で、「元」女王であるアリサは苦悩に直面していた。
自業自得とは言え、その横暴な振る舞いに周りから遠巻きにされる中で。
何故か執拗に、それこそ獲物をいたぶる猫のように絡んでくる慈。
彼の執拗な、けれど的を射た言葉にアリサの心は激情へと傾いていき。
遂には、暴力という最悪な形で発露してしまう。

慈に指摘された、自分の秘めた恋心をばらした存在。
それに該当しそうな人間を疑心暗鬼して、全てを疑うようになってしまって、どんどん孤立していく。

周囲から憐憫の眼差しで見られている事にさえ気づかず、犯人を捜して躍起になり、あまつさえ親友である冬花や凛を傷つけてしまう。
やっと、自分が犯した過ちと、自分が置かれた現状を知ったアリサに対して、慈は犯人なんて最初からいなかったと嘲笑う。
頭の中で、越えてはならない一線がプツリと切れたアリサは、更なる事件を巻き起こしてしまう。

人気者が余裕をなくし、その過激な振る舞いから梯子の外される。
やはり引き際も自分の過失を認めるのも、余裕を持たなければならない。
ただし、人として認められない物を前にして、平常心を保つのは大人でさえ難しい。

自分の感情が思うようにコントロール出来ない。
それが、後悔と葛藤の源となり、自分自身にさえ嫌気が差す。
どうしよもない行き場のない感情を、何とか逃れさせる為に他人にぶつける。
そこで、理解を得られる事もあるし、一線を越えて誤れば、修復されない関係もある。

果たして、弱さやコンプレックスを克服する為に、自分自身で定めた生き方が正しいのか?
自分の気持ちを思ったままに口に出して良い訳はない。
嘘は、人を傷付けもするし、人を救いもする。
時にはどっちつかずな曖昧な答えが必要になってくる場面もある。

いつも、正しい選択が出来る人間なんていない。
トライアンドエラーを繰り返して、選択を誤って人を傷付ける事もあるだろう。
その時は素直に謝れば良い。
そうやって繰り返す事でしか、コミュニケーション能力は上達しない。
関わっている人の欠点ばかりに注視して、減点方式で、他人の良し悪しを決めてばかりでは、孤立するしかなくなる。

自分にとって不都合だからこそ、過剰に反応してしまう。
汐が女の子として生きる事に強い抵抗を示した西園と能井が、それぞれの形で決着をつけていく。

やはり、人はそう簡単には理解し合えないし、その各々の考えを分かり合う事は難しいのかもしれないが、そう結論付けて終わらせてしまうのは非常にもったいない。
思春期真っ只中にある彼らはまだ、未熟で若くて、ここからいくらでも価値観を変えられる伸びしろを秘めている。
生き方は時間と共に変化していく物で。
価値観はどんどんと刷新されていく物だから。
それが「生きる」という事。

青春は輝かしいばかりではなく、時に心の柔らかい部分に刃を刺すような痛さと、眼を覆いたくなる苦さがある。
そして、他人を傷付けた言葉は自分自身にも返ってくる。

それでも、彼らにとっての一度きりの青春は、大人になったら体験出来ないような、濃密した時間が凝縮されていて、その青春で得られた教訓は、これからの人生を歩む上で、きっと糧になる。

減点方式でしか人と関われない不器用さを彼らは、どう乗り越えるのだろうか?










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