映画感想文【ロスト・キング 500年越しの運命】
2022年 製作
出演:サリー・ホーキンス、スティーブ・クーガン、ハリー・ロイド
<あらすじ>
二人の息子を持つ主婦フィリッパ・ラングレーは夫とは別居中ながらそこそこ円満な生活を送っていたが、持病の筋痛性脳脊髄炎(EM)のため職場で正当な評価が得られず落胆する。
そんな中、シェイクスピアの舞台『リチャード三世』を鑑賞したフィリッパは、その悲劇の姿に強い感銘を受け……。
2012年、500年以上にわたって行方の知れなかった15世紀の英国王、リチャード三世の遺骨が一介のアマチュア歴史家の手によって発見されたというニュースをもとに作られた。製作はちょうど10年後ということになる。
その事実は知らなかったし、リチャード三世がどのような王様であったかもぼんやり、昔々世界史の教科書で読んだ程度のことしか知らなかったが、その程度で観てもわかりやすく問題はない。英国王朝の歴史が好きな人はもっと楽しめるだろう。
ストーリーは静かだし、カメラワークも淡々と大人しく、悪く言えば地味かもしれない。しかしロマンがある。失われた歴史の事実を自らの手で掘り当てるのだ、歴史愛好家、探求者にはたまらないだろう。
もちろん現実には多くの困難があり、映画では省略されているが実際にフィリッパが思い立ってから遺骨を発見するまでは8年の歳月がかかっているらしい。資金難による発掘中止もあったり、更に見事発掘された後も事後処理という難関が待ち構えている。
アマチュアによる歴史的発見は学術的権威にその名誉を奪われ、フィリッパの偉業は一旦奪われてしまいそうになる。発掘協力を依頼した時は渋々のシブチンだったくせに、掌返しどころか単なる手柄の横取りに観客はみな激しい憤りを感じるだろう。
しかしながら最終的にフィリッパは時の女王・エリザベス二世から大英帝国勲章第五位(MBE)を授かり、リチャード三世も彼女の希望通り王として紋章を掲げられきちんと再埋葬されたとのことなので、その辺りで溜飲を下げられるか。
古今色々なところで取り上げられる話題だが、学術的権威がなんぼのもんじゃい、と思わずにはいられない。
もちろんそれらが成し得てきた発見や功績も沢山あろうが、この物語のように素人の情熱や直感が思いもよらぬきっかけになることもまた多くあるだろう。それを素人の意見だからとすべて無下にすることは、それこそ歴史的損失につながるのではないだろうか。
映画は考古学、歴史学の現実と現実の夢が描かれている。
フィリッパとリチャード三世、二人の「周囲から誤解されている」という共通点がこの映画のテーマの一つであることは間違いない。
リチャード三世はシェイクスピアの史劇やチューダー朝のプロパガンダなどによってか、不具であり狡猾で残忍な王というイメージが定着してしまう。フィリッパもまたその持病のため周囲から距離を置かれる。
一度根づいた印象を払拭するのは非常に困難であり、また見方によっては事実な場合もある。火のない所に煙は立たぬ、もまた真実。
誤解を誤解に終わらせないためにはどうすべきか、映画を観る人は深く考えさせられることだろう。
地味な映画とは言ったが、108分、自分にとっては非常に面白い映画であった。
フィリッパを演じるサリー・ホーキンスの横顔が実に美しい。彼女の前に現れる幻影のリチャード三世、ハリー・ロイドもまた凛々しく立派な王様。彼が安易に「私の遺体はここだ」などと導いたりしないことも、幻覚らしく良かった。
ポピュラーな名前らしく、登場人物の誰も彼もが「リチャード」なので混乱するが、そこは愛嬌として受け取っておこう。英国にもキラキラネームのようなものが流行ったりしないのかな?
うーん、とにかく、ロマン!誰か邪馬台国とか発掘しない?
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