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映画感想文【ルックバック】

2024年製作
監督:押山清高、原作:藤本タツキ
出演:河合優実、吉田美月喜

<あらすじ>
学年新聞で4コマ漫画を連載する小学4年生の藤野。周囲からの評判は、かなり良い。ある日先生から、不登校の同級生・京本にその内の一枠を譲ってほしいと相談される。自分ほどに出来るものかと高を括っていた藤野だったが、次の学年新聞、自分の4コマ漫画の隣に載った京本の秀逸な絵に打ちのめされる。



1時間にも満たない、簡潔な作品。
最近は結構な長編を観ることが多かったので新鮮。短いがしかしストーリーはきちんとまとまっていて、不足はない。観終わってやや物足りないくらいが、もっともっと、それからどうなったのだろう、という余韻に浸れて多分ちょうど良い。

『ジャンプ+』で掲載された漫画の映画化だが、原作は読んでいない。
同作者のファイアパンチを読んだ時の印象は強烈だった。なんだこれはと衝撃を受けた。
ファイアパンチは超ざっくり言うと、氷河期時代に入り文明が崩壊した世界で、残された人々が人外な奇跡、不死の肉体や発火能力などを与えられどーにかこーにか生きる物語である。
「そうはならんやろ」を至極真面目にやらかすストーリーはやや崩壊気味で、特に最初は残酷で救いがなくて、読むには相当気合がいる。

なのでこの作品、漫画に対する二つの才能のぶつかりあい、という点のみを事前知識として鑑賞に臨んだ時、さぞかしグロテスクで容赦がなくて、成長過程における剥き出しの感情が爆発しているのだろうな、と過分なほど身構えていた。
しかし、それほどではなかった。
ストーリーの流れは予想からそう逸れてはいないと思う。予想通り二つの才能がぶつかりあって、だがそれは美しく必要で純粋な、新星誕生の場だった。

もちろん序盤、周囲から作品を褒められ有頂天だった藤野が、存在すら知らない引きこもり、スクールカーストで言えば最底辺であったろう京本の才能に鼻っ柱を叩き折られるシーンや、それから猛烈な怒りを原動力として絵の特訓をし、であるにも関わらずある瞬間に「やーめた」してしまうシーンなど、生々しくて身に迫る。

漫画に限らずスポーツ、勉強、仕事、何においても他者と比較し、絶望し、努力し、でも実らず。限界を思って心が折れてしまう。
そんな経験をした人は少なくないだろう。
青春時代に限った話ではない。世の中にあふれる才能に横っ面を引っ叩かれて、いっそ死んでしまいたくなるほどの羞恥と絶望。
才能の差に怒りを覚え立ち向かっていける藤野はむしろとんでもなくすごい。幼さゆえだとしても、その熱意こそ才能だろう。

藤野の怒りは正しく昇華され、費やした時間と努力に見合うものを手にする。報われてホッとするが、その背景に京本との出会いがあったことは疑いようがない。
二つの優れた才能が出会った時、争いではなく調和と発展、相乗効果がもたらされたことに喜びと羨ましさを感じた。

藤野すごい。
藤野良かったね。

ストーリーが進み、二人の進路も分かたれた時。そして更に痛ましい事件が起こった時。
藤野の悲しみが我が事のように周囲に伝播し、映画館にはすすり泣く声が満ちた。幸運にも、藤野はそこから一片の救いを見つけることが出来て、再び歩きだす。

”漫画は大変。考えるのも描くのも大変過ぎる、下手に描くもんじゃない”

京本と出会い長い作品を書き上げた経験から、藤野はそう扱き下ろす。
藤野の描く漫画の一番のファンである京本は当然問う。

”じゃあ藤野ちゃんはなんで漫画を描くの?”


そんなの、京本がいたからじゃん!
 

映画では、答えは描かれなかった。原作にはもしかしたらとも思うが、あとに続く描写で十分だと思った。

藤野良かったね。京本に会えて。


入場者特典、ネーム丸々1冊とは豪華。
猛烈な怒りや喜びのダンスの描写など、実にリアルで良かった。
その後の生みの苦しみなども秀逸。これは映像で観るべき。


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