映画感想文【わが人生最悪の時】
1994年 製作
監督:林海象、出演:永瀬正敏、南原清隆、宍戸錠
<あらすじ>
横浜黄金町の映画館の2階で探偵事務所を営む濱マイク(本名)は、ある日行き付けの雀荘でボーイをする台湾人・楊海平と知り合う。楊の渡日目的は二人きりの兄の行方を探すこと。同じく妹と兄妹二人で育ったマイクは楊の姿に自分を重ねて、なにかと面倒を見てしまう。
情報屋・星野の協力を得ながら調査を進めるが、楊の兄が行方をくらました背景には台湾マフィアとアジア系外国人で構成されている黒狗会の闘争があることを知った。
昔TVドラマで観ていたが映画の存在は知らず、公開30周年を記念してリマスター上映されているとのことで、せっかくだからと劇場に足を運んだ。
そういえばTV版では毎回異なる監督を起用する、という面白い試みがなされていたことをなんとなく覚えている。永瀬演じる型破りの私立探偵濱マイクの黒いマニキュアがカッコよかった(気がする)。
今回の映画ではモノクロであったことも含めちょっとおとなしめだが、それでも濱マイクのトンチキさは健在で衣装もなかなかイカしている。
映画ではTV版の数年前という設定だそうで、だからだろう、一端の社会人ぶった皮に隠しきれない鑑別所上がりの凶悪さが見え隠れする様が初々しい、と言ったらご本人には牙をむかれそうだ。
映画が取り扱うのは台湾マフィアとアジア系外国人暴力団の抗争であり、貧困ゆえに暗部に生きるしかなかった男の苦しみである。
主人公、濱マイクも同じく苦難の道を歩んできており、事あるごとに「野良犬の目だ」などと表される。なんとかギリギリまっとうに探偵業を営むけれど、やり方がアウトロー過ぎる。だがそれが良い。地域に根ざしているとも言える。
時に手段を選ばない、しかしお人好し、という不器用なハードボイルドさは先日観た『探偵マーロウ』にも通じるか。
そういえば今回はじめて知ったのだが、『濱マイク』という名前はハードボイルド探偵小説『マイク・ハマー』シリーズをもじっているらしい。へぇー。
TV版のときもそうだった気がするが、すっきり謎解きや事件解決、というわけではなかった。今回などは親しくなった楊を助けようとして結局助けられず、やるせないことこの上ない。
強大すぎる台湾マフィアや暴力団相手に一介の野良犬、もとい私立探偵が出来ることなどたかが知れているだろうと、本人もわかっていながら、しかし大怪我を負いながらがむしゃらに走る。
己の無力さに打ちのめされながら、その上でせめて、と遺品を故郷・台湾の恋人に渡しに行く様子がなんとも人情派。衣装もどこか似通っていて「寅さんかよ…」と泣ける。
宍戸錠が渋かったので、第二作も是非観に行きたい。