心理学とタッグを組んだ経済学『フワッと、ふらっと、最強の学問・行動経済学』
『フワッと、ふらっと、最強の学問・行動経済学』
1. 行動経済学ブーム継続中?
心理学と経済学がタッグを組んで融合した研究分野が『行動経済学』です。
行動経済学を最強の学問と謳う書籍が10万部突破のベストセラーにもなっています。
行動経済学ブーム継続中といっていいことでしょう。
従来の経済学は、経済主体(消費者や企業)が常に合理的な判断を下し、自分の利潤を最大化すると仮定して理論を展開してきました。
しかし、実際の人間の行動は感情や心理的要因によって左右されることが多いため、この前提は必ずしも現実を反映していません。
人間は認知能力に限界があり、完全な合理性を持ちえない(限定合理性)ですし、
第一印象にとらわれ過ぎて合理的な判断ができなかったり(アンカリング効果)、
損することを過剰に気にして、実際の損得と心理的損得が一致せず、
同じ金額でも得るよりも、失うことの方が心理的に大きな影響を与え(プロスペクト理論)、
例えば、投資家が現在株価が上昇中であるのに、損することを恐れ、早めのタイミングで売ってしまうとか、
すでに投資したコスト(時間やお金)に執着して、非合理的な行動を続けてしまう(サンクコスト効果)
(例:使っていない衣類や書籍やガジェットを捨てられない。メルカリなどに出品すればお金になるけど、いつかやっぱり使うかも?と思い、それもできない等)
といったようなことがあります。
行動経済学は、これらの人間の心理的要因を考慮して、より現実的な経済モデルを作ることを目指していますが、そのためには心理学の成果を取り入れる必要があります。
よって、行動経済学は「人間の非合理性」を理解するために、心理学の知見を取り入れています。
2. 連言錯誤
連言錯誤という心理学用語があります。
連言錯誤とは、2つ以上の条件が同時に成り立つ確率が、個々の条件の成り立つ確率よりも低いにもかかわらず、それが逆であると錯覚してしまう認知バイアスです。
より理解しやすいようにわかりやすい具体例で考えてみます。以下の例をみてみましょう。
(以下、心理学者であるDaniel Kahneman&Amos Tverskyの1982年の共同研究上のリンダ問題を参考に作成いたしました)
「34歳になる玲子は、独身である。
ズバズバとした物言いをし、何に対しても積極的であり、また非常に聡明な女性である。
彼女は学生時代、社会学を専攻し、女性解放運動や平和等に関する社会問題にも大きな関心を寄せていた。
反原発デモにも、リーダー的役割で参加していた。」
玲子さんは今、以下うちどのような生活環境にあるでしょうか。
a)玲子は、今、民間福祉施設職員である。
b)玲子は、今、熱心な市民運動活動家である。
c)玲子は、今、民間福祉施設職員をする傍らで、熱心な市民運動活動家としても活躍している。
皆さんは、いかが考えたでしょうか?
Daniel Kahneman&Amos Tverskyの実験によれば、
上記c)に相当する選択肢(民間福祉施設職員も市民運動活動家も両方やっている)が、
他の選択肢よりも可能性が高いと答える者が多かったようです。
ですが、その答えは確率論的にいえば誤りです。
なぜなら、2つの事象が同時に起きる確率が、
1つの事象だけが起きる確率よりも高くなることなどないわけですから。
つまり、a)及びb)よりも、c)が高頻度で起きるということは確率論的にはありえないということです。
ではなぜ、c)が、高頻度で起きると判断してしまった人が、実験では多かったのかということですが、
例にあるような、玲子さんの積極的な性格からは、
民間福祉施設職員だけをしているようには思われないと思い込む人が多く、
その自分の思い込みをさらにもっともらしくするために、
「市民運動活動家をもしている」
ということをついつい付け加えてしまうという心理状態が原因と考えられます。
こういう現象を「連言錯誤」といったりします。
連言錯誤は、確率論的な判断の誤りによって起こる認知バイアスであり、直感に基づいて複雑な情報を処理しようとする際に起こりやすいものだといわれています。
3. 実際にマーケティングや政策立案等に応用されている行動経済学
従来の経済学では、人間は常に合理的に利益を最大化するために行動すると仮定されていました。
しかし、心理学の成果によって、連言錯誤のように人間は、必ずしも合理的に行動するわけではなく、むしろ感情や認知バイアスに影響されやすいことが示唆されました。
つまり、人々は必ずしも最適な選択をしていないと考えられ、従来の経済モデルでは説明しきれない現象が理解されるようになったわけです。
連言錯誤は、行動経済学で研究される「ヒューリスティックス(直感的な判断)」と密接に関わっています。
人間は日常生活で膨大な数の判断を下す必要があるため、論理的に考えるのではなく、
直感や簡単なルール(ヒューリスティックス;経験則)に頼る傾向があります。
連言錯誤もこのヒューリスティックスの一種で、具体的な情報やもっともらしいシナリオが与えられると、直感的にそのシナリオの確率が高いと感じてしまうわけです。
行動経済学は、人間がどのように非合理的な判断をするかを理解することで、ビジネスや政策に応用されます。
たとえば、マーケティングや広告で、複数の条件が揃った魅力的なシナリオを提示することで、消費者がそのシナリオの確率を高く見積もり、製品やサービスを選択するように誘導することがあります。
また、金融市場でも、投資家がリスクを過小評価し、直感的に「もっともらしい」選択肢に基づいて投資判断を行うことで、非合理的な市場の動きが生じることがあります。
行動経済学と心理学の関係はこのように非常に強く、行動経済学の基礎は多くの点で心理学に根ざしています。
心理学的な理論や実験手法を取り入れることで、行動経済学は人間がどのように意思決定を行い、
どのように非合理的な行動をとるのかを明らかにし、その知見は政策立案やマーケティング、金融市場など、さまざまな分野で実際に応用されています。
参考)