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第1章/第5話 白熊家は『武家』だった?-酒と煙草は男の嗜みか?-
私の父は大の酒好きでいわゆる[呑兵衛]である。
そして、愛煙家でもある。そのため、家族がいようがいまいが、家の中でもリビングで堂々とお構いなしに吸っていた。昭和初期の時代ならみかけた光景かもしれないが、私は幼い頃からタバコの匂いが大嫌いであった。
父親=煙草と酒。お酒に関しては、毎晩必ずビールを1杯呑み、その次は必ず芋焼酎を嗜む。
そして、必ず刺身等のおつまみが用意された。父の席に配膳される食べ物達はまるで殿様御膳の様だった。
父『母さん、今日の刺身は美味しいな、どこで買ってきたんだ?』
母『いつものスーパーで買ってきたものですよ、今日は給料日だから少し奮発して高い刺身を選びました。父さん、いつもありがとうね。』
焼酎コップ、灰皿達は自然の如く何もせずとも綺麗なものへと移り変わり、父の手と口を常に手持ち無沙汰にはさせまい。その気遣いと言えばいいのか、自動配膳機の役割をしているのは、母と私である。常に我々は父の動きを見張っている。機嫌を損なわぬように。酒が少なくなると自然と氷を追加し焼酎水割りを製造する。
灰皿が溜まってくるとスナックの様に気付かぬうちに灰皿が交換されていく。
こんな様子を横目で見て育った私は、将来絶対に煙草なんて吸うものかと思っていた。
しかし、自分の将来像とは裏腹になんと喫煙者となっていた。仕事のストレスから煙草と酒を嗜んでいた。当然、兄達も同様だ。親の遺伝というものはプログラムされており、似たもの同士になるものだ。
しかし、私は父や太志とは違い、心底タバコは愛せなかった。
とある日に私は家族や周囲の人達に禁煙を宣言し、禁煙生活を始めた。32歳の頃である。禁煙をスタートしてから2ヶ月がすぎる頃、実家に帰省し白熊家の恒例、飲んだくれ会がはじまっていた。
父『帰ってきたな、とりあえず誠も酒を飲め!』
白熊家では、すでに朝から飲み会がスタートしており、途中参加した私は、父に勧められるがままビールを注いでもらった。
私もお酒は好きだが、家族ができてからは、お酒を遠慮するようになっていた。(子供が体調不良になることが多い、そして夕食時に呑むなら、興味津々の3歳の息子はコップに手を伸ばしてくる始末だ)そんなこんなで、私はその日はどうにか酒は飲まずに帰宅しよう。と考えていた。
『今日は呑まずに帰ります。』
言った後、すごいことを言ってしまったと後悔した。
白熊家では、父から酒を断ることは、お殿様からの杯を断り、その場で斬り殺されてしまう無礼者の自殺行為なのである。
案の定、私が反逆者であるかのように裏切られたかのような目で見てくる。同時に今時の若者は付き合いが悪いみたいな雰囲気も出してくる。別に酒は嫌いではないが、ケースバイケースで嗜みたいものだ。
挙げ句の果てには、
父『お前は煙草も辞めたのか?』
誠『そうです。体にも良くないし、最近は喫煙者の肩身も狭いので、お金ももったいないと思い禁煙しています。酒も自宅ではあまり呑まなくなりました。子供が急な病気になれば運転できないのでね。』
父『おいおい(笑)、聞いたか太志?煙草も酒もやめられるって凄くないか?いやいや〜、煙草も酒も飲まないでやってられる仕事っていいものだな〜、そんな仕事就いてみたいもんだよな〜』と、
それをつまみに芋焼酎を呑みほし、小馬鹿にした様に語る父。
太志『ほんとだぜ、なんて楽チンな仕事だ!まぁ、お前のしてる仕事のクレーム対応なんて俺達のクレームレベルとは違って、内容も大した事ないしな。』
と、煙草を吹かしながら自分の仕事は自慢げに語り、他人の仕事を見下す太志。
父と太志は同業種の仕事をしており、仕事の話になると直ぐに結託して自分達の苦労話に花を咲かせ、誠の仕事や、正樹の仕事を見下してくるのだ。
さらに、
太志『まあ、お前らと違い、俺は手に職を持っているからお前らとは安定力も違うしな』
いつも仕事の話になると、必ず出てくる自慢のセリフだ。
そもそも、太志が手に職を持てたのは、専門学校に行ったからなのだが、私が三男の宿命で進学を諦めたから行けたのである。彼の成果ではない。と、いつも心の中は冷静にツッコミをいれるのだが、現実の私は適当に褒め流す。
正樹に至ってはなぜか、『さすがは、太志兄さん』と尊敬しているのだ。
全くもって尊敬する事に対し理解に苦しむのだ。
後日談
今なお、禁煙を行っており、3度目の挑戦だ。
あの匂いや他人が吸っている誘惑、どうにもなく吸いたくなる禁断症状からどうにか逃れるために、休日になるとここぞとばかりに好物の二郎系ラーメン屋の旅に出てストレス解消をする。
また、湯水のように使っていたタバコ代が抑えられると、グルメや小説を買ってみたり、資格取得費にあてたりと、ささやかな幸せを得ているのだ。
ほらみろ、身体にも金銭的にもいいことばかりではないか。白熊家では、酒とタバコを嗜まない者は、もはや男とみなされないのだ。
私は私。自分で道を切り開いていくのだ。
-第5話完-
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