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食とオーセンティシティ(真正性)
オーセンティシティと食の関係
オーセンティシティと食について、深谷(2021)は、ガストロポリティクスの説明の中で、「国家政治の中心要素となるナショナリズムは、当該の国家の文化に「真正性(authenticity)」という価値を見出すが、食もまた「真正性」を持つ要素の一つであり(Caldwell 2002)、ナショナル・アイデンティティを喚起する(Ichijo & Ranta 2016)。」と述べている。
つまり、ナショナリズムによって、オーセンティシティに価値が見出される。食は、オーセンティシティを持つ要素の一つでナショナル・アイデンティティを換起する。
本稿では、以下のことが事例としてあげられている。
Appadurai(1988)は、20世紀後半のインドを事例に、近代国家成立期における料理本の普及を通じて地方料理が集約・標準化され、都市中間層の女性たちによる実践を経て、ナショナリズムの所産として国民食が形成された過程を指摘した。
Caldwell (2002)は、社会主義崩壊後のロシア・モスクワを事例に、食品市場への政府の介入や輸入食品の宣伝を文化史的に分析し、自国の食を他国と区別し「真正化」することがガストロポリティクスにおいて重要であり、感覚的な経験の増加がその思想や嗜好の形成に寄与すると主張した。
タイの場合、ナショナリズムによって、タイ独自の文化に価値が見出され、食のオーセンティシティがナショナル・アイデンティティの喚起に利用された。詳しくは、下記記事参照。
観光とオーセンティシティ
そうしてオーセンティシティは哲学の用語に端を発し、ミュージアムにおける展示用の「モノ」にまつわる言葉として使われ、次第に観光券キュの用語として定着した。
日本
真正性という訳語も柄合われる。この言葉は特に観光において使われる。しかし、観光におけるオーセンティシティは固定した対象を指し示す定義はなく、文脈に依存する。多様なオーセンティシティが曖昧な定義のまま論じられている。オーセンティシティは、学説史として体系的には取り扱われず下火。
世界
観光文化研究において、オーセンティシティの構造や問題が明らかにできると考えられる。「演出されたオーセンティシティ」や「台頭するオーセンティシティ」といった近年注目される概念への展開。
台頭するオーセンティシティ:
「伝統の創造」のより広い現象に対する一つの明示として言及され、ある時点では演出された「観光者用の罠」としかみえなかった新規なからくりが,時代がたつにつれて適切な状況のもとに,地元文化の「真正な明示」として広く認識されるようになること。
私のオーセンティシティの規定
「トムヤムクンからみるタイ」の研究において扱うオーセンティシティについては、以下のように規定したい。
「トムヤムクンやタイ料理に対する、タイ人の認識」
タイ人が何がオーセンティックで何がオーセンティックでないと思っているかからトムヤムクンに何が必要で、何が必要でないのかを明らかにし、タイ料理の特徴を探る。
参照
中村純子 2009 「観光文化研究におけるオーセンティシティ論 : 内外先行研究の差異と「まなざし」の階層性」『横浜商大論集/横浜商科大学学術研究会編』43(1). 121-161.
深谷拓未 2021 「イタリアにおけるワイン生産と認証制度をめぐる現在―ガストロポリティクスから捉える文化人類学的食研究―」『会誌 食文化研究』17: 27-37.