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ガストロノミーとトムヤムクン
ガストロノミーの規定
専攻研究でのガストロノミーへの言及
佐原秋生 2012 「ガストロノミの位置」トピックス&オピニオン
「ガストロノミという言葉は,日本語の中で未だ市民権を確立していないようである。一応の訳語である美食学と言い換えたところで,それが果して何なのか,理解を得るのはなかなか難しい。「食を楽しむ知識と方法の体系」と説明しても,事態はあまり変わらない。食を繞る言説のどの領域を指すのかが,明瞭に伝わらないのである。」
「考えや意見の論に対して学問は,「体系的な知識・方法」であって,食に関する人間の精神活動の産物につき,それぞれ固有の観点から知識・方法を体系的にまとめ上げたものが,家政学,民俗学,文化人類学などの諸学,となる。このうち楽しむを観点とするのがガストロノミであり,即ちガストロノミは食文化学の一分野である。」
尾家健生 2015 「美食都市とフードツーリズムの形成」
これらの基準項目から分かるように、ユネスコ食文化創造都市でのガストロノミーの意味は「美食術」よりも伝統料理とその食材やそれを支えるコミュニティ、飲食サービス業、料理人、食品加工業者などを総合した「食文化」に重点が置かれていることが分かる。
深谷拓未 2021 「イタリアにおけるワイン生産と認証制度をめぐる現在ーガストロポリティクスから捉える文化人類学的食研究ー」
「料理の「美味しさ」への価値の創造と追求であるガストロノミー(Gastronomy)の幕開けは19世紀フランスに遡るが(宇田川2021)〜」
Margaret L. Arnott. 1976. Gastronomy: The Anthropology of Food and Food Habits.
"The title, Gastronomy, defined as the intelligent examination of whatever concerns man's nourishment, was selected because it seemed to cover all aspects of the subject from studies of pre-historic food patterns as revealed in archaeological excavations, to studies of modern urban food habits and studies of textual terms limited to special areas, as well as studies of ceremonial or folkloristic approaches to food."
(訳:人間の栄養に関する全ての知的研究と定義されるガストロノミーというタイトルは、考古学的発掘において明らかにされた紀元前の食のパターンから近代都市の食習慣や特殊分野に限定されたテキスト用語、食への儀礼や民俗的手法の研究まで主題のすべての側面カバーすると思われるため、選出された。)
私のガストロノミーの規定
以上から、
「ガストロノミーは、フランスから始まった、美味しさや楽しさといった観点を持ち合わせた、総合的な食文化の探求」とする。
また、人類学的研究では、1976年に出版された、Gastronomy: The Anthropology of Food and Food Habits.でガストロノミーという言葉が登場しており、ガストロノミーは、人類学の研究対象である。
トムヤムクンの研究がなぜガストロノミーの研究なのか?
まず、トムヤムクンは、美味しさや楽しさの追求から生まれたタイの食文化である。タイ観光庁(TAT)のサイトでも「ご当地グルメ「ガストロノミー・ツーリズム」-地方色豊かな郷土料理に出会う」といったタイトルで様々なタイ料理が紹介されている(残念ながらトムヤムクンについては記載なし😢)。
また、トムヤムクンのUNESCO世界無形文化遺産申請ノミネーションドキュメントを見ると、トムヤムクンの説明に、以下のような点が挙げられている。
中央平原の川沿いのコミュニティの食の知恵であること。
そのコミュニティが農業を行い、仏教徒であることが反映されていること。
医療ハーブの知恵と結びついた美味しく健康的な料理であること。
モンスーンシーズンに、エネルギー源となる米の消費を促し、人々の幸福度を増加させること。
以上のことから、トムヤムクンの研究は、「美味しさや楽しさといった観点を持ち合わせた、総合的な食文化の探求」であり、ガストロノミーの研究である。
参照文献
佐原秋生 2012 「ガストロノミの位置」トピックス&オピニオン『日本調理学会誌』5: 386.
深谷拓未 2021 「イタリアにおけるワイン生産と認証制度をめぐる現在ーガストロポリティクスから捉える文化人類学的食研究ー」『会誌 食文化研究』17: 27-37.
尾家健生 2015 「美食都市とフードツーリズムの形成」『大阪観光大学紀要』15(15): 71-77.
Margaret L. Arnott. 1976. Gastronomy: The Anthropology of Food and Food Habits. World anthropology. Mouton Publishers.