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【第20回】満足感のある授業をつくる⑤ARCSモデルのその先へ

~教育学者から看護教員へ~

 前回、先生方から「学生が意欲的に取り組み、想定以上の成果を得られた」「教授活動をARCSモデルに当てはめて振り返ることで、教育的な意味を見出すことができた」「明確な目標設定の重要性を学び、評価基準を明確にしようとしている」「自分たちの意欲が高まったのは、このやりとりの中にARCSモデルが含まれていたからだろう」といった嬉しい声をいただきました。一方で、授業設計はどうすべきか、学習評価はどのようにすべきかという、まさに授業づくりの基盤となる部分、いわば本質に近づく問いもいただきました。

1.学習成果は目標に照らして測定し、授業改善成果は経年比較で確認する

 まず、「ARCSモデルを活用した授業の効果をどのように評価するか」という質問についてです。原則として、学習成果の評価は、基本的に目標に対する達成度を測定することが基本となります。例えば、「~を理解している」という目標あれば、理解度確認テストを行うことで成果を測定できます。また、「~ができる」という目標であれば、成果物を提出してもらい、それをルーブリックなどで評価することになります。ここで大事なことは、学習意欲そのものを評価しているわけではないということです。学習意欲が高まっていれば、授業の目標達成度も自ずと高くなるはずであると考えます。梅澤先生がご担当されている「医療安全」の学生の成績分布(全体成績でも期末テスト、期末レポート成績でも良い)を、ARCSモデルを学ぶ前と今回で比較してみてください。もちろん、年度によって受講生が違いますから、必ずしも正確な差を検証することはできませんが、学習成果が改善されたかどうかを確認する有効な方法の1つにはなります。

 また、学習意欲そのものを評価したいということであれば、目標の1つに「~に積極的に取り組める」「~について意欲的に考えられる」といった態度目標を掲げ、その目標達成度を何によって測るかを考える必要があります。例えば、授業を集中して聴いているかどうか、グループワークに積極的に関わっているかどうか、授業内外で質問をしているかどうかを観察によって評価する方法があります。あるいは梅澤先生は授業後に記述をさせているようなので、その記述されたものから意欲的かどうかを判断してもよいでしょう。その結果がARCSモデルによるもの、あるいは授業改善によるものかどうかを判断したい場合は、先に説明した通り過年度の同一授業の評価結果と比較することになるでしょう。過年度の「医療安全」の授業と比べて「グループワークおいて想定以上の良い意見」はより多く出ていたでしょうか。授業後のリフレクションシートへの記述の文字数は増えたでしょうか。もし、過年度の授業よりも出ていた、増えたということであれば、それは先生の授業改善成果である可能性が高いでしょう。同一科目の学習評価の結果を比較し、授業改善が功を奏しているかどうか確認できると良いですね。

2.授業設計とARCSモデルの関係

 「ARCSモデルを踏まえた授業設計について教えて下さい」とのご質問もいただきました。ここでARCSモデルとは、そもそも何なのかという原点に立ち返りましょう。ARCSモデルは、ジョン・M・ケラーが提唱した学習意欲を高めるための理論と実践を分類したものです。ケラーは、学習意欲についての心理学諸理論を分類したものと、学習意欲を引き出すことが上手な教育実践者の知恵を分類したものがARCSという4分類に重なることを発見し、理論と実践知の両方に支えられたモデルとして確立させました(市川尚・根本淳子編著,2016,インストラクショナルデザインの道具箱101,北大路書房)。すなわち、ARCSモデルとは、それそのもので授業を設計しようとするものではなく、授業を設計する際に、より魅力的な(学習意欲が高まる)授業にするためのヒントを与えてくれるモデルであるといえます。したがって、学生が意欲的に授業で学んでいれば、それはARCSモデルを踏まえられているという証拠でもあるのです。もし学習指導案のフォーマットレベルにARCSモデルを入れられるとすれば、フォーマットの最後にARCSチェックリストを掲載してはどうでしょうか。すべての項目にチェックが入る必要はありませんが、チェックが多く入るほど、学生は意欲的に授業に参加してくれる設計になっているといえます。チェックがほとんど入らなければ、学習指導案のどこを改善すればチェックを入れられるかと考えることもできるでしょう。

3.ARCS-Vモデルについて

 ARCS-Vモデルは、伝統的なARCSモデルを拡張したものです。伝統的なARCSモデルは、M(Motivation)に注目したものでした。このVは、Volition(意志)、すなわち「目標を達成するために努力し続けることに関連する行動と態度全般」を意味します。意欲があったとしても、意志がなければ実行できません。例えば、勉強する気持ちはあっても、ついついスマートフォンに目が行ってしまい、1時間たっても課題が終わらない…という学生はいないでしょうか。
 意志は、2つの段階で構成されるとされます。第一段階目は、コミットメントと活動前計画です。いつまでに、何を、どのようにやるぞ!という強く明確な意図と計画は、意志につながります。第2段階目は、活動制御と呼ばれるもので、コミットメントや活動前計画を実行するにあたって発生する障害を避け、やり遂げるための方略を指します。
 ただ、現段階ではVにつながる具体的な方法は模索段階にあり、現在進行形で研究が進められています。個人的には、「自己調整学習」という考え方が参考になるのではないかと思います。関心があれば、是非そちらも学んでみてください。

 ARCSモデルは、インストラクショナルデザインとして示される授業づくりについての有益な考え方の1つにすぎません。他にも、授業づくりの一連のシステムを明らかにした「ADDIEモデル」、授業設計の基礎を示した「メーガーの3つの質問」や「ガニエの9教授事象」、学習評価の全体設計に役立つ「カークパトリックの4段階評価法」など、参考になる知見が沢山あります。先生方のARCSモデルの学びと実践が、結果的にさらなる授業づくりの学習意欲を高められたことを非常に嬉しく思います。是非これからも、様々な授業づくりの理論や実践を、書籍や論文、セミナーや専門家への問いかけ、そして同僚同士の交流を通じて学び続け、ゆくゆくは先生方のご実践をモデル化して世に発表していっていただきたいと願っています。

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