ベトナム女性と家父長制―映画『第三婦人と髪飾り』を見て
この映画は、19世紀のベトナムの農村に住む女性が裕福な家に第三婦人として嫁ぎ、家父長制社会に翻弄されながら適応していこうとする姿が描かれている映画です。この映画を見て、かつての女性の生き方について考えたことを書きたいと思います。
映画の基本情報
あらすじ
主人公メイは14歳の時に裕福な家に第三婦人として嫁ぎ、その家では跡継ぎとしてさらなる男児の誕生が望まれていました。19世紀ベトナムの農村における家父長制社会に生きる女性たちの姿が、主人公メイや第一夫人、第二夫人の生きざまとともに描かれています。
監督:アッシュ・メイフェア
制作国:ベトナム
東南アジアにおける家父長制
アジア圏での家父長制というと日本の明治時代の家制度のようなものがイメージされると思います。東南アジアでも中国の影響を強く受けたベトナムや、マレーシアやシンガポールの華僑の間でも父権的な家族関係をみることができます。(東南アジアでは華僑以外の民族では父権的ではない家族関係もあるそうです。)
この映画でも、主人公の女性は裕福な家に第三婦人として迎え入れられ、跡継ぎの男子を生むことが期待されています。当時の女性たちが、結婚し跡継ぎの男子を産むことでようやく嫁ぎ先での地位を安定的なものとすることが出来ることが示されています。
(以下はネタバレを含んでいます)作中で第一夫人の息子が見合い結婚をしますが、妻との関係が上手くいかず、嫁いできた妻は嫁ぎ先で不安定な立場に置かれます。その上、妻は自分の実家からは出戻りを拒絶され行き場をなくしてしまいます。
当時、結婚という賭けに失敗した女性が自ら安定的な地位を築くことの困難を描いたこの場面は非常に痛切に感じられました。
一夫多妻制と性の二重規範
この映画でも一夫多妻制が描かれています。一夫多妻制というとイスラムの慣習を思い浮かべる人も多いかと思いますが、日本でもその昔、夫が妻以外に複数の妾を迎えることが許されていた時期がありました。
作中でも主人公は第三婦人として迎え入れられ、夫が複数の妻を持つことは公に認められています。
一方で、これもまたネタバレになってしまいますが、婦人の1人が夫以外の男性と密通してしまいますが、この関係性については決して公にしてはならないこととして描かれています。
男性が複数のパートナーを持つことに対しては寛容である一方で女性には貞操観念が求められる、これは男女で異なる性規範が適用される性の二重規範(性のダブルスタンダード)とも関連すると思いました。
感想
この映画はベトナムの伝統的な父権社会を描いていますが、日本の昔の家制度とも似通った部分があり、日本人も共感できる部分も多いかと思います。
結婚という制度で安定的な地位を築いていく、あるいは結婚の失敗により立場が揺らぐ女性たちの生き様は考えさせられることも多いです。
現代社会においても、女性の社会進出が進んで来ていますが、女性にとっては結婚というセーフティネットが安定的な地位を築くという考え方を未だに持っている人は多いかもしれないですね。
そして、内容的な部分からは離れますが、この映画はベトナムの世界遺産、チャンアンで撮影されており、非常に美しく幻想的な映像世界を堪能することができます。
海外に行けない今、この映画を見て海外の風景を堪能しながら、かつての女性たちの生き様について考えてみるのはいかがでしょうか。