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谷崎潤一郎「台所太平記」

小説家の作品を全集として初めて購入したのが谷崎潤一郎でした。
30歳前後の頃だったと思います。
生家が神保町に近く良くフラフラしていました。
当時、谷崎の作品が好きでたまたま目について、価格も手ごろだったので買ったものと思います。
全作品を読んだかどうかは記憶にありません。

谷崎版の「源氏物語」に幾度か挑戦して、第二帖「帚木」の雨夜の品定めあたりで必ず挫折していました。
どうしても継続して読めません。
原文対比の解釈本を手にして、分からないながらも原文を読んで逆に源氏物語の面白さに気づきました。
そして8か月くらいかかって読了した経緯があります。
若い頃には谷崎の作品を読んではいたのですが、晩年の作の「鍵」や「瘋癲老人日記」はあまり馴染みませんでした。

本書ははじめて読みましたが、大変に読みやすく谷崎も肩の力を抜いて楽しむように書いているように思われます。
本書の内容は、戦前から戦後にかけて谷崎の家に仕えた女中さんを描いています。
ただ、エッセイではありません。
小説として書かれていますので谷崎自身も仮名となっています。
はじめに断りがあるように、事実に基づいてはいますが多少の脚色もあるようです。
本書に登場する、初、梅、駒、鈴、銀、百合、定の女中さんたちの性格描写が、さすがに大谷崎らしく見事というしかありません。
「細雪」の姉妹たちの描写を彷彿とさせるものがあります。

率直に言って、最近読んだ小説のなかでは随一に面白く読みました。


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