日本人が知らない! 中東・アラブ諸国のそれぞれの特徴と関係性
今回は、いつもの不動産のトピックではなく「中東・アラブ」の国がどんな国なのか概要を把握するするためのnoteです。日本で生活していると、中東で戦争をしているというニュースが流れますが、実際のところ世界のどこで起こっているのか、正確に答えられる人は多くないと思います。
不動産投資家にとって、地政学的な状況、政治的立場、治安、経済状況は、非常に重要なファクターです。今後、経済成長していく中東の前提知識として知っておきたい内容です。
中東ってどこのエリア?
「中東」と言っても定義は曖昧で、場合によって指している範囲が異なります。一般的には、アラビア半島を中心に、その周辺国が含まれます。
具体的には、下記のような国々です。
これらの中で主要な国をわかりやすく理解するため、エリア、ランキング、それぞれの国の特徴という順番で、整理していきます。
①地域による分類
中東地域で影響力が大きい国は、サウジアラビア、イラン、エジプト、トルコです。中東諸国をざっくりと区別すると、このような分類ができます。
アラビア湾岸諸国(湾岸協力会議/GCCメンバー国)
サウジアラビア、UAE、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン(スンニ派が中心)
レバント地域
シリア、ヨルダン、レバノン、イスラエル、パレスチナ
ペルシャ地域
イラン、イラク(シーア派が中心)
ヨーロッパ/アフリカとの中間地域
トルコ、エジプト
②トピック別TOP5ランキング
軍事力ランキング(Global Firepower(GFP)の2024年)
2023年の名目GDPランキング(IMF)(Billion USD)
国交数ランキング(各国が外交関係を樹立している国)
2024年の人口推計ランキング(2024)
③主要諸国のそれぞれの特徴
それぞれの国の、経済、国際関係、政治、地政学的リスク、社会課題 について概要を整理しています。
サウジアラビア(Saudi Arabia)
経済
世界最大級の石油埋蔵量を持ち、GDPの約40%、輸出の約70%が石油関連。
「ビジョン2030」計画に基づき、石油依存からの脱却を目指す。
観光業: NEOM都市(未来都市)や紅海沿岸観光プロジェクト。
エンターテインメント: 国際的イベント(F1レース、音楽祭)を誘致。
製造業: 石油化学や鉱業などの非石油分野を拡大。
国際関係
アメリカ: 長年の盟友関係。ただし、近年の石油価格政策や人権問題(ジャマル・カショギ事件)で摩擦が発生。
中国: 最大の石油輸出先であり、経済協力が拡大中。「石油を人民元で取引する可能性」も示唆。
イラン: 歴史的な宗派対立(スンニ派対シーア派)が続く。特にイエメン紛争や湾岸地域での影響力争いが激化。
政治
国内政治: 王政だが、ムハンマド皇太子(MBS)主導の改革(ビジョン2030)で経済と社会の近代化を推進中。
湾岸協力会議(GCC): 他の湾岸諸国と連携を深めるが、カタールとの対立(2017~2021年)が残る。
地政学的リスク
イエメン内戦: イラン支持のフーシ派とサウジ支持の政府派との代理戦争が長期化。
石油輸送ルート: ペルシャ湾からの石油輸送が国際紛争の標的になりやすい。
課題
経済多様化が進む中、民間セクターの競争力が未成熟。厳しい国家財政の状態が続いている。
若年層の高い失業率(約11.3%)が社会問題。
アラブ首長国連邦(UAE)
経済の特徴
アブダビ(石油)とドバイ(観光・金融)が二本柱。
アブダビは石油資源で国富を築き、持続可能な投資(太陽光発電、水素プロジェクト)を進める。
ドバイは観光、貿易、金融を基盤とした自由貿易地帯を運営。
Jebel Ali Free Zone(JAFZA)など、外国企業誘致に成功。
国際関係
アメリカ: 安全保障やテロ対策で強力な協力関係を維持。
イスラエル: 2020年の「アブラハム合意」で国交正常化を実現。経済協力が加速。
中国: 一帯一路構想の一環として投資が進み、デジタル分野でも協力を強化。
政治関係
湾岸協力会議(GCC): 他の湾岸諸国との連携強化。ただし、カタールとの過去の対立の影響が一部残る。
国内政治: 首長国の集合体だが、アブダビが主導権を握る。
地政学的リスク
ホルムズ海峡: 世界の石油輸送の要所で、イランとの緊張が高まる可能性。
地域紛争: イエメンやリビアなどの紛争で関与。
課題
石油以外の収益を拡大しているが、世界経済の変動に脆弱。
不動産バブルのリスク。
カタール(Qatar)
経済の特徴
世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国。収益の大部分を占める。
インフラ整備: サッカーワールドカップ(2022年)に向けた巨額投資でインフラを整備。
カタール投資庁(QIA): 世界的な投資ファンドで影響力を持つ。
国際関係
湾岸諸国: 2017年にサウジアラビア、UAE、バーレーンがカタールと断交。2021年に和解。
イラン: 経済的には友好的で、天然ガス田の共有で協力。
アメリカ: 中東最大の米軍基地が存在し、安全保障面で重要な役割を果たす。
政治関係
独自路線: サウジ主導のGCCに従わず、トルコやイランとの関係を強化。
地政学的リスク
断交の影響: 和解後も湾岸諸国との信頼関係が完全には修復されていない。
天然ガス輸送: LNG輸送路が封鎖されるリスク。
課題
LNG価格の変動が直接的に経済を揺るがす。
地域的孤立(サウジアラビアとの緊張が緩和したが、潜在リスクあり)。
エジプト(Egypt)
経済の特徴
中東最大の人口(1億人以上)を背景にした国内市場。
スエズ運河による年間50億ドル以上の収益が外貨獲得の柱。
製造業、農業、観光が主力だが、観光はパンデミックで大打撃を受けた。
国際関係
アメリカ: 年間13億ドル以上の軍事支援を受けており、安全保障面で依存。
湾岸諸国: サウジやUAEからの財政支援が経済安定のカギ。
イスラエル: 1979年の平和条約以来、協力関係を維持。
政治関係
国内政治: アル=シーシ政権は権威主義的だが、経済改革を進める。
アフリカとの関係: スーダンやエチオピアとナイル川水資源問題で対立。
地政学的リスク
スエズ運河: 世界の貿易の要所であり、国際紛争や海賊の標的になる可能性。
課題
高インフレ率(約35%)や外貨不足が深刻化。
軍部が政治に与える影響力が大きい。
若年層の雇用問題が政治的安定を脅かす。
クウェート(Kuwait)
経済の特徴
石油輸出がGDPの90%を占める典型的な石油依存経済。
クウェート投資庁(KIA)は世界最古のソブリン・ウェルス・ファンドとして、外貨準備の安定化を図る。
国際関係
アメリカ: 湾岸戦争以降、安全保障をアメリカに依存。
湾岸諸国: GCCの一員であり、調停役としての役割を果たす。
政治関係
国内政治: 比較的開かれた議会制度が存在するが、石油収益に依存。
湾岸内での影響力: 中立的な立場を取る。
地政学的リスク
地政学的位置: イラクとイランに挟まれており、地域紛争の影響を受けやすい。
課題
石油収益以外の産業が脆弱。
政治的不安定が経済政策の遅延を招く。
バーレーン(Bahrain)
経済の特徴
地域内で最も小さな経済規模だが、金融セクターが発展。イスラム金融(シャリア準拠の金融商品)で重要な役割を果たす。
原油依存は比較的小さいが、価格変動の影響は避けられない。
国際関係
アメリカ: 長年の経済制裁が続き、対立関係。
中国・ロシア: 西側制裁を回避するため、これらの国と関係を強化。
中東諸国: サウジアラビアやイスラエルと緊張関係が続く。
政治関係
宗派対立: シーア派の中心的存在として、スンニ派諸国と競争。
国内政治: 保守派と改革派の対立が経済政策にも影響。
地政学的リスク
ホルムズ海峡: 石油輸送の戦略的要所。
核問題: 核開発が国際社会との摩擦を引き起こす。
課題
財政赤字と公的債務の増大が続いている。
インフラ整備が進むが、サウジアラビアからの援助依存度が高い。
オマーン(Oman)
経済の特徴
石油と天然ガスが主要輸出品だが、他の湾岸諸国に比べて埋蔵量が少ない。
「Vision 2040」により観光業、製造業、漁業の振興を目指している。
国際関係
アメリカ: 伝統的な友好関係を維持し、アメリカ軍がオマーン国内の港や空港を利用する協定を結んでいる。
イラン: 他の湾岸諸国と異なり、イランとの友好関係を維持。ホルムズ海峡の安定において重要な調停役を果たす。
湾岸諸国: GCCの一員だが、中立的な立場を貫き、地域紛争の仲裁に努めている。
イギリス: 歴史的に緊密な関係があり、防衛や経済協力で強い絆を持つ。
政治関係
国内政治: 立憲君主制で、スルタンが統治する国家。現在のスルタン、ハイサム・ビン・ターリクは穏健な改革を進めている。国民と政府間の関係は比較的安定しており、他の湾岸諸国と比べて社会的不満が少ない。
外交方針:「中立外交」を掲げ、地域紛争に直接関与せず、調停者としての役割を重視。
地政学的リスク
ホルムズ海峡: 石油輸送の戦略的要所であり、地域の緊張が高まると直接的な影響を受ける。イランとアメリカの対立や、石油タンカー攻撃事件が安定に影響。
周辺国の影響: サウジアラビアやUAEが地域的影響力を拡大する中、独自の立場を維持するためのバランス外交が求められている。
課題
石油依存脱却に向けた改革が遅れ気味。
若年層の雇用機会不足。
イラン(Iran)
経済の特徴
世界第2位の天然ガス埋蔵量、石油も豊富。
自給自足型経済を目指し、国内産業が発展(自動車産業、石油化学など)。
西側制裁の影響で国際経済との連携が限定的。
国際関係
アメリカ: 長年の経済制裁が続き、対立関係。
中国・ロシア: 西側制裁を回避するため、これらの国と関係を強化。
中東諸国: サウジアラビアやイスラエルと緊張関係が続く。
政治関係
宗派対立: シーア派の中心的存在として、スンニ派諸国と競争。
国内政治: 保守派と改革派の対立が経済政策にも影響。
地政学的リスク
ホルムズ海峡: 石油輸送の戦略的要所。
核問題: 核開発が国際社会との摩擦を引き起こす。
課題
経済制裁による輸出制限が深刻。
インフレ率の急上昇(約40%)が購買力を低下させている。
トルコ(Turkey)
経済の特徴
製造業(自動車、家電)、農業、観光が主力。
地政学的位置を活かした物流ハブとしての役割が重要。
国際関係
EU: 加盟を目指すが、人権問題などで関係が停滞。
中東諸国: サウジやUAEと競争する一方、カタールと緊密。
ロシア: 地域紛争(シリアやリビア)で協力と対立が混在。
政治関係
国内政治: エルドアン政権は強権的で、民主主義の後退が懸念される。
クルド問題: 国内外のクルド人問題が安全保障を脅かす。
地政学的リスク
シリア内戦: トルコの国境地域に波及。
ロシアとの関係: エネルギー依存が高い一方、NATO内で微妙な立場。
課題
高インフレ率(約50%以上)と通貨リラの急落。
貿易赤字が慢性的に拡大。
イスラエル(Israel)
経済の特徴
中東唯一の高度技術産業が中心の経済。
スタートアップエコシステムが発展。
軍事技術が民間技術(AI、サイバーセキュリティ)に転用。
一人当たりGDPが中東トップクラス。
国際関係
アメリカ: 最大の支援国。年間30億ドル以上の軍事援助を受ける。
アラブ諸国: アブラハム合意以降、UAEやバーレーンとの関係改善が進む。
イラン: 最大の敵対国で、核開発問題を巡り緊張が続く。
政治関係
国内政治: 連立政権が多く、政治の不安定さが課題。
中東全体での影響力: 高度な技術力で地域経済の中心を目指す。
地政学的リスク
パレスチナ問題: ガザ地区やヨルダン川西岸の情勢が国際問題化。
イランとの対立: 軍事衝突の可能性。
課題
政治的緊張が外資投資に影響を与える可能性。
貧富の差が拡大。
以上、日本人には馴染みがない中東について、整理してきました。ニュースでは中東とまとめられていますが、それぞれの国の特徴や関係性は非常に複雑です。
今後の世界経済の成長を支える中東エリアについて、投資家は知っておく必要があります。
弊社は、不動産のみならず、中東へのビジネス進出、輸入販売なども手掛けております。ご相談は、公式LINEでご連絡ください。
【付録】スンニ派とシーア派は何が違うのか?
中東諸国間の戦争、中東で起きている代理戦争の背景は非常に複雑です。その中でもイスラム教の中の大きな派閥(スンニ派、シーア派)について、なるべく理解することで、戦争・紛争の背景の理解につながります。
1. スンニ派とシーア派の分裂の起源
1-1. イスラム教の成立と指導者の継承問題
預言者ムハンマドの死(632年)
ムハンマドの死後、彼の後継者(指導者)を誰にするかがイスラム共同体(ウマ)の大きな争点となりました。スンニ派の主張
後継者はイスラム共同体が選ぶべきであり、ムハンマドの血縁ではなく、能力や実績のある者が適任と考えました。この結果、アブー・バクル(ムハンマドの親友で信奉者)が最初の指導者(カリフ)に選ばれました。シーア派の主張
ムハンマドの後継者は彼の血縁者であるべきと考え、アリー(ムハンマドの従兄弟かつ娘ファーティマの夫)を支持しました。アリーは第4代カリフになりましたが、その後の争いで暗殺されました。
1-2. カルバラーの悲劇(680年)
アリーの息子であるフサインがウマイヤ朝(スンニ派政権)に反旗を翻しましたが、カルバラーの戦いで惨敗し、フサインが殺害されました。この出来事は、シーア派にとって「殉教」として記憶され、現在でも重要な宗教的行事(アーシュラーの日)となっています。
2. スンニ派とシーア派の宗教的違い
2-1. 宗教指導者の位置づけ
スンニ派
共同体の合意を重視
宗教指導者(ウラマー)はムスリム共同体が選出し、啓典(クルアーン)と預言者の言行(ハディース)に基づく指導を行います。預言者以降の個人を神聖視しません。
シーア派
イマーム(指導者)の神聖性
ムハンマドの血統を継ぐイマームは、神から特別な知識と権威を授けられた存在と見なされます。特に12イマーム派(主流派)は、最後のイマーム(マフディー)は隠れており、最後の審判の日に再臨すると信じています。
2-2. 信仰と儀式の違い
スンニ派: 儀式や法解釈がよりシンプルで、啓典とハディースの解釈を重視。
シーア派: 預言者家系への敬意が強く、殉教者フサインの記憶を中心とした儀式(アーシュラー)が特に重要。
3. 政治的対立の深まり
スンニ派とシーア派の分裂は、宗教的な違いだけでなく、政治的な権力争いにより深刻化しました。
イラン革命(1979年)
イランでシーア派のホメイニが率いる革命が成功し、シーア派の指導力が国際的に高まりました。地域的な影響力争い
イラン(シーア派大国)とサウジアラビア(スンニ派大国)が中東の覇権を巡り対立。これがスンニ派とシーア派の地域的分裂を一層強化しました。
4. 地域別のスンニ派・シーア派の分布
スンニ派: 世界のムスリムの約85~90%を占め、サウジアラビア、エジプト、トルコなどが主要国。
シーア派: 世界のムスリムの約10~15%。特にイラン、イラク、レバノン、バーレーン、イエメン(フーシ派)に多い。
5. 中東での現代的対立の具体例
5-1. シリア内戦
イラン(シーア派)はアサド政権を支援。
サウジアラビア(スンニ派)は反政府勢力を支援。
5-2. イエメン紛争
イランはシーア派系フーシ派を支援。
サウジアラビアは政府軍を支援し、代理戦争の様相。
5-3. イラクの分裂
サダム・フセイン(スンニ派)が倒された後、シーア派が主導する政権が成立し、スンニ派との対立が深刻化。
お問い合わせ
🐪 ドバイの最新物件のご紹介&マーケットを解説!不動産仲介、ビザ/法人設立サポート、貿易の3つのライセンスであなたのドバイ進出をお手伝いします。
ご質問、お問い合わせはLINEから!
LINEで問い合わせ 👉 友達登録はこちら
📅 30分の無料オンライン相談
客観的な立場から、投資の相談ができます。すでに物件を購入された方も大歓迎です。オンライン相談の予約はこちら 👇
https://calendly.com/0x_yasu/meeting-for-dubai-properties