映画「生きててごめんなさい」
2023年4月20日 前橋シネマハウス 16:40上演の回を鑑賞。
【グロ注意】残酷な現実を描いた恋愛映画
ハッピーエンドの恋愛映画しか許せない!と言う方には、正直オススメ出来ない。
あまりにもグロテスクで残酷な描写は、現実的過ぎて辛い。
あるカップルのお話。すれ違い・嫉妬・焦燥・諦観・悲哀・憤怒。気付いたら2人の間に広がってた溝。取り返しの付かない所まで行って気付く、恋人の偉大さ。
恋人を言葉の暴力で傷付けるグロテスクさが、この作品はキレキレで、フラッと映画館に立ち寄ったことを後悔するほどショッキングな内容。
人間の至らなさ・しょうもなさ。
理不尽で繊細さの無い社会。
努力は報われない事の方が多い。
真面目な人ほど馬鹿を見る。
好きと才能は違う。
恋人はいつか自分の側を離れるかもしれない。
普通とは?
生きてるだけでは駄目なのか。
夢を持たないと駄目なのか。
自分が大切にしてたモノを踏みにじられた時、人間は立ち直れるのか。
素敵じゃない世界を生きる覚悟はあるか。
現実に目を背けたい方には刺激が強すぎるのでオススメ出来ない。わざわざ観て、傷付かなくていいと思う。
だけど、僕は、この作品が大好きだ。
この作品を観る為に、数多くの駄作を鑑賞してきたと言ってもいい。
輝かしい大傑作。
映画「生きててよかった」に出逢えてよかった。
平凡な人間・修一が抱える焦燥と諦観。怠慢な人間・莉奈の孤独と生きづらさ。
・主人公・修一は出版社の編集部で働きながらも、小説家になる夢を諦め切れてない。多忙な仕事をこなしつつも、空いた時間で小説を執筆してる。
映画を観る限りだと、修一には小説家としての才能は無い。ただ、少しばかり他者より文章を書くことに秀でてしまい、自分でその才能をアタリだと思ってしまってる。その為、小説家の夢を捨てきれず努力を惜しまないが、まとまった時間を取れず、中途半端な作品しか創れない。
小説家になれないまま人生が終わるかもしれない焦り。
同居してる恋人・莉奈のように夢を追わず、仕事もせず自由気ままに生きる事さえできない、真面目な性格。
修一はどこにでもいる平凡な人間だ。何者かになる為に辛い思いをして足掻いてるが、何者にもなれず終わる、平凡な人間が送るありがちで退屈な人生。
・ヒロイン・莉奈は幾つものアルバイトをクビになり、修一と同居してる部屋に引きこもってる。
不器用で普通に生きる事が下手。修一以外に頼れる人間が居らず友達もいない。夢も無く、ただただ毎日をこなしてるだけ。修一から見れば、莉奈は部屋に置いてあるインテリア同様、いつでもそこにあるモノという感じ。
それでも、捨てられた犬を引き取って育てようとする優しい心や、修一に対して嫉妬や不満を持つことはあっても、修一を傷付けようという言葉は吐かないこと。そして、自身のTwitterのアカウントがバズるほどの隠れた文才があること。
普通になれない辛さ。どこにも吐き出せない孤独。何者にもなろうとしない無欲な生き方を良しとしない社会通念。自分勝手に思われてしまう衝動的な行動。自身の生き方を否定される事が多いなか、生きなくてはいけない、生きづらさ。
・僕は映画を観てて、莉奈の方に共感する事が多かった。
普通の人には出来る事が、自分にはなぜか出来ない。
出来る人間は、出来ない人間の気持ちが分からない。だから寄り添ってくれない。
他者には見下され、自信をなくし、自分を卑下してなんとか取り繕ってる。
なぜ、向上心を持たないといけないのか。頑張らないといけないのか。生きてるだけで尊いのに、なぜそれ以上を要求されるのか。
それでも、変わりたい自分もいる。
いや、変わりたい。
けど、変われない。
永遠の悩みかもしれないし、簡単な悩みかもしれない。莉奈のように環境が変わってコロッと人生が好転してくかもしれない。
こればかりは、全くわからない。
わからない怖さが付き纏ってるから、不安になる。
修一と莉奈の立場が逆転してくグロさ
夢を追い、多忙な日々を過ごしながら努力を重ねた修一に待ってる結末は残酷だ。出版社をクビになり、小説家になる夢も破れる。莉奈からも捨てられる。
その逆に莉奈は自堕落な生活を過ごしながらも、ひょんなことから人気コメンテーターにハマって、自身のTwitterアカウント「イキゴメ」のツイートをまとめた書籍化にも成功する。運と才能だけでのし上がったサクセスストーリーは、修一と対比するとグロい。
序盤の修一が莉奈を支える立場から、終盤には修一の遥か遠い存在として莉奈が出現する。
小説家になる為に人生を捧げてたにもかかわらず書籍化を叶えられなかった修一。片手間でベットの上で呟いてたツイートが書籍化された莉奈。
人生は残酷だ。
こんなの10代の時に観てたら、泣いてる。
努力は報われない。けど、努力しなくても報われるかもしれない。
そんな世界を僕達は生きてる。
人間は変われるのか
この映画のテーマの1つとして「人間は変われるのか」ということを投げかけてる。
修一と莉奈は、人間として変われたのか。
環境や立場は変わっても、中身の部分は変わらないのではないか。表面的には変わってたとしても、コアな部分は変わらないのではないか。
修一は、映画中盤辺りから、変わり始めようとする莉奈の足を引っ張る発言ばかりしてる。
その発言は、莉奈に発してるわけであるが、自分自身にも言ってる気がする。そっくりそのまま莉奈が修一に言ってもおかしく無い発言ばかり。
自分が変われないのに、相手が変わってくのは悔しい。そんな気持ちが垣間見えて、自分勝手なのはいったいどっちなのか。
僕個人的には、修一と莉奈は映画を通して変われなかったと思う。成長もしてない。
ラストの居酒屋でのシーン。修一のプライドの高さが垣間見えてうざい。素直になればいいだけなのに、見栄を張ってしまう感じが情けない。
でも、仕方ない気もする。
仕方なくて愛おしい。
最後まで自分勝手で、莉奈の気持ちに鈍感で、馬鹿な修一が愛しくて仕方ない。
雑感
・居酒屋で始まって、居酒屋で終わるラストが最高。踏み切りは渡ったのか、どうか。
・居酒屋のシーン。修一と莉奈がどっちに座ってるのか注目。序盤のカップルが座ってた位置から考えると…。
・修一が莉奈に散々酷い事を言ったあと、本当は思ってないよ、みたいな事を言うけど、思ってなかったらそんな事言えねーだろ。
・そんな事言わなくていいのに、と分かってても言っちゃうのが人間の習性なのかな。
・2人がキスとか性的行為をするシーンがいっさいないのにお互い愛し合ってる依存し合ってるのが分かるほどの演技力、演出が良かった。
・冨手麻妙って元AKB研究生だけど、実力派女優としての地位・安定感が半端ない。AKBでは芽が出なかったのに、女優として成り上がったの凄すぎる。
・黒羽麻璃央の犬っぽさ。演技も上手いし、顔は美しいし、めちゃくちゃ好きになりました。
・修一が自己啓発本の事を「くだらない」と言ってたのよかった。
・莉奈の常識の無さ。挨拶も礼儀も、マジで最低限しか知らない感じ。社会不適合者の人なんだ!って一瞬で分からせる説得力が素晴らしい。
・穂志もえかが可愛い。今泉力哉監督の作品でしか、穂志もえかって見ないイメージだったけど、改めて良い女優だなと思った。
・この映画を観てると、パワハラやブラック企業は余裕で未だにありますよー。当たり前に存在してますよー。と分からせてくれる。
・公正世界仮説の定義が曖昧だけど、この作品はそうなんじゃないか。修一の多忙振りで、人生成功しなそうなのしんどすぎる。
・最後チョロっと出てくる梅田彩佳を見て「あっ、うめちゃん元気にやってんだー」と元AKBヲタとして歓喜した。
・山口健人監のファンになった。
・藤井道人さすが。
・「生きてるだけで、愛」「猿楽町で会いましょう」も好きだし、その系統の作品だけど、また違ったアプローチを見せてくれる作品。めちゃくちゃ大好き。
最後に
何もかもが自分好みで、最高に面白い作品に出会えたことに感謝。
色々、考えさせられて、悲しくてなって、辛くなって、でも最後には頑張る活力を貰える不思議な映画体験。
自分の人生を不器用に生きて行く事は、美しいと思えた。
悲しくて辛いかもしれないけど、なんとかなるような気がしてならない。
良い事が長く続かないように、悪い事も長く続かないし、この作品を観て、本当に頑張ろうと思えた。
「生きててごめんなさい」素晴らし過ぎた。
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