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連載小説『かさぶたの王国』 #1

バランス感覚のとれた人間。


それが、自分の理想の人間像なのだということを、最近ようやく自覚した。


幼い頃から、周りの人間と同じことをしたがらない性格だった。

小学校のみんなが持っていた流行りのゲームは、絶対にやらなかった。

みんながゲームの話で毎日のように盛り上がっているのを横で聞き、なんだか楽しそうでうらやましいという気持ちがよぎっても、自分も親に頼んで買ってもらおうなどとは意地でも考えないようにしていた。

また、授業や学級会では、必ず多数派の意見に反対するようにしていた。

たとえクラスの過半数がレクリエーションでバスケをやりたがったとしても、体育の授業でも散々やっている上にドリブルやシュートが苦手で楽しくない子も一定数いるのだからドッジボールの方が全員で楽しめるはずだと主張した。

自分の意見が客観的に正しいかどうかは問題ではない。

ただ周りと「違う」ということが重要だった。

実際、一方がまったく正しくて、もう一方がまったく間違っているなどということは、現実においてほとんど起こり得ないということが、大人になるにつれて少しずつだけれどわかってきた。


そうやって、多いものに巻かれることを嫌悪し、多数派から距離を置く姿勢を貫いたことで、クラスメイトとの距離は次第に遠くなっていき、やがて一人ぼっちになった。


そんな矢先、父が死んだ。


私が小学六年生の時である。


父は歯科医で、小さなクリニックを経営していた。

「まちの歯医者さん」みたいなささやかなクリニックだったが、患者に寄り添う優しい歯科医がいると評判だった。

大人だけでなく子どもの虫歯治療や矯正治療なども行っており、地元の小中学校の歯科検診も請け負っていた。

私は生まれた時から、そんな父によって歯をしっかりと管理されたので、少なくとも歯の問題で悩まされたことは一度もない。

父は温厚な人ではあったが、子を持つ歯科医の多くがそうであるように、我が子の口腔事情に対してはめっぽう厳しかった。

おかげで、スナック菓子や炭酸飲料を口にすることも滅多にさせてもらえなかった。

だが不思議なことに、「どうして自分は歯医者の息子に生まれてしまったのか」と自らの境遇を嘆いたことはなかった。

患者に信頼されている父のことを心から尊敬していたし、自分も将来は歯科医師になってやがて父のクリニックを継ぐものだと信じて疑わなかった。


母は、もともと父の患者の一人だった。

母は学生時代、サークルの友人数人とキャッチボールをした時にグローブでキャッチをし損ねて前歯にひびが入り、差し歯とすることを余儀なくされた。

その時に治療を担当したのが、まだ自身のクリニックを開院して間もない頃の父だった。

駆け出しの歯科医と患者として出会った二人は、治療のたびにちょっとした会話を交わす中で徐々に距離を縮め、一連の治療が終わったタイミングで正式に交際を始めた。

順調に付き合いを継続し、母の大学卒業を機に入籍、その一年後に私をもうけた。

出産後の母は、専業主婦として子育てにいそしみながら、クリニックが忙しい時は事務の手伝いをして父を支えた。

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