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#10 生還者(下村敦史)

書評

「失踪者」(下村敦史)を読んだら次は当然コレかなと思って安易に読んだら、めちゃくちゃ面白かった。登場人物の考察が目まぐるしく入れ替わる独特の展開には既視感があるが、それを忘れさせる展開にぞっこん😍

ネタバレなしよ

著者独特の面白さは「怪しすぎる登場人物」に人間味があり、「被害者」設定の登場人物が事件の鍵を握っていたという展開。未読の方の楽しみを奪わないよう言及させていただくと、主人公・増田の兄、高瀬、加賀谷、兄の婚約者・清水美月の4人の描き方が秀逸だった。

幸せすぎる結末

てっきり主人公・直志が風間葉子をふって、八木澤恵利奈とくっつくものだと思って読み進めていたら、「そう来たか!?」と思わせる結末。それまでの残酷な運命を忘れさせてくれる、誰も不幸にならない展開が素晴らしい。フィクションとは言え、直志と恵利奈の良識に救われた☺️

失踪者・生還者に通じるトピック

細かな説明は差し控えるが、次の3点がキモ。
①敗退
②高所順応
③サバイバーズ・ギルド

ホンモノのクライマーは登頂出来なかった山に必ず戻るという性質、事件の鍵となる高山病と戦うための通過儀礼、自分だけが生き残ってしまったという罪悪感が引き起こす悲劇、この辺りがこれら2作を際立たせているスパイスかと。

最後にもう2点

この作品に限っての魅力を挙げるとすると、「ビーコンのトリック」と「トラストフォール」の2点。謎解きの説得力と幸福感の増幅装置が各所に散りばめられ、最後に見事に回収される。こんなフィクション、よほど頭のいい人でないと書けないと思う。


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