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#13 闇に香る嘘(下村敦史)

書評

複雑に入り組んだ人間関係、隙間なく張りめぐされた伏線、意図的に設定された認知的混乱、幸せな嘘、家族愛、そして誰も不幸にならない結末。まさに最高傑作!

著者のクセ

それはまさに『認知的混乱』。謎解きと強く関連するリアルな場面に読者を引き込むが、実はそこに様々なトリックが施されている。特に犯罪性を匂わされた人物の「いい人エピソード」や、主人公の「どんでん返し的エピソード」など、そこそこ想定済みのファンでさえも予想外に騙されてしまう。この物語では主人公への「まさかの双子設定」と「出生の転換設定」にまんまとやられた。さらに、結末は悲劇ではなく幸福で包まれる。これも想定済みなのだが、予想外の盛り上がりに癒されてしまう。

幸せな嘘

兄の出自を疑い、犯罪性を検証していた主人公・和彦の出自の秘密を守るために関係者が結託してつき続けた嘘が温かい。特に、生みの親ではなく育ての親であった母親、実の兄ではなかった竜彦の弟への想いが熱い。家族の出自を疑い続けていた和彦が自身の宿命を受け入れることができたのはすべて他人のおかげ。そして、母の死後、なりすまし詐欺を巧妙に使って、2人の兄、娘、孫と和彦は幸せな人生を送ることになる。

説明力の高さ

こういう複雑な伏線回収パターンは少々理解が困難でモヤモヤ感を残しがちなのだが、著者の手にかかるとすべて明確になる。それほどまでに、最終章での謎解き(伏線の再説明)がスマート。読み終わった後のスッキリ感が大きいのが最大の魅力かと。とにかく一読の価値あり!さすがは江戸川乱歩賞受賞作!

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