#12 夏への扉(ロバート・A・ハインライン)
書評
こんな良書があることを知らなかった。1956年出版で、いわゆる「時をかける」物語の源流。タイムトラベラーとか時をかける少女を生み出す契機になったのではないかと想像するだけでトランス状態に。
オーソドックスな展開
友人らに裏切られ、最愛のリッキー、ピートと離れ離れになったまま、「凍結睡眠」に入り、30年後の世界で生きるダニー。ひょんなことから30年前の世界に戻り、様々な人々の協力のもと、リセットを完了し、30年後の世界に戻って、リッキーとピートとの再会を果たす。今となっては既視感の強い展開だが、これが1956年の作品というところに味わいがある。
共感を得た主張
過去と現在の往復ものに付き纏うパラレルワールド説。人生のリセットは現在にどのような影響を与えるのか、同時代に同じ人間が複数存在している現象はどう捉えるべきなのか、といった難問に対して著者は最後に「パラドックスはない」と主張する。理論的に立証不可能な説であるが、「そうあって欲しい」と願う読者の本音と一致している。また、「過去を懐かしがる気取り屋(スノッブ)」への警鐘を鳴らし、現在・未来への期待を高揚させる。このあたりも強い共感を得た証左だろう。
始めと終わりの情景
冬になると夏への扉を探し続ける飼い猫ピート。この描写で始まりこの描写で終わる。過去ではなく未来への可能性を試し続ける情景の余韻が爽やかに残り続ける。扉絵がまさにそれ。