#8 ホテル・ピーベリー(近藤史恵)
ライトな書評
いわゆるライトノベル。4時間ほどでざっくり読み通せるミステリー。
最大の魅力は
ホテル・ピーズリーの立地。ハワイ島の外れにある街「ヒロ」の描写が秀逸。時の流れを忘れさせる空間に癒される。物語の前半部、特別な事件が起こるわけではないため、現世の苦悩から解き放たれた仮想バカンスの感覚を楽しめる。
物語の焦点は
登場人物全員が嘘をついていること。特に主人公・木崎淳平の嘘のインパクトが強い。何気にバカンスを楽しむふりをして、実は小学校教諭時代に教え子の小4と真剣交際しかけたことで教職を追放されている。小児性愛を否定するかのようにホテルの管理人と不倫に走る歪んだ精神性も異質。ある意味、謎解きよりも秀逸。当然、管理人・瀬尾和美の魅力に木崎がはまっていく過程とそれほどエロくない官能的な描写も秀逸。
ゆえに
その他の登場人物の嘘のインパクトは低い。それなりに訳アリではあるが、桑島、佐奇森、蒲生のエピソードは弱く、事件の本質に絡みそうな雰囲気がまったくなく、「コイツらは関係ないな」と予測できてしまうところが少し残念😢
謎解きレベル
残念ながら「おぉー!」とはならない。物語に急展開はなく、終盤に「実は」形式で真相が語られることに起因しているためである。物語のフォーカスが謎解きではなく、淳平と和美の煮えきれない関係に当てられていることを考えるとやむを得ない。そういう意味で、この物語はガチのミステリーではなく、ライトミステリーであり、4〜5時間を潰すには最適の物語である。