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Pet Shop Boys – Battleship Potemkin (2005)

 東西のイデオロギーを超越した1925年のソ連映画『戦艦ポチョムキン(原題:Броненосец Потемкин)』は、2005年にベルリンの映画祭において作曲家エトムント・マイゼルの音楽を付けて再び上映された。それまではショスタコーヴィチの交響曲も伴奏音楽としてある程度の馴染みがあったが、マイゼルのオリジナル・スコアは初期映画音楽の決定版として特に広く認知され、後にソフト化された際にも使用されている。
 その前年のイギリスでも印象的なイベントが行われていた。たびたびイギリスの政治の舞台にもなったロンドンのトラファルガー広場において『戦艦ポチョムキン』の上映イベントが開かれ、その際に新たな音楽スコアを製作したのがPet Shop BoysのNeil TennantとChris Loweであった。かつてアルバム『Behaviour』を作った彼らが、本作でオーケストラを大々的にフィーチャーしたという事実は驚くに値しないが、テクノとクラシカルが程よくブレンドされた本作にはPet Shop Boysの名ではなくTennant/Loweという連名がクレジットされている。
 それぞれのトラックは本編のチャプターと並列して収録された。甲板での緊迫したドラマ「Nyet」や「The Squadron」の強力なビートは、80年前の映像に新たな躍動感の解釈をもたらしている。劇中で最も名高いオデッサの階段シーンで流れる「After All (The Odessa Staircase)」などでは、やや本編から乖離した内容の示唆的なボーカルも入った。さらに大団円となる黒海艦隊との合流シーン「For Freedom」では、同胞への愛と解放を重厚なオーケストレーションとともに歌い上げている。
 ロンドンのイベントは2万人を超える成功をおさめた。古典映画が現代のポップ・ミュージックを大きくインスパイアしたGiorgio Moroder以来の好例である。