研究のために「音楽の基礎」を身に付ける
研究室の学生が音楽に関連する研究をしたいと直談判に来て,どのような研究がしたいのかを聞いたところ,これまで研究室で取り組んできた研究および学生自身が取り組んできた研究と接点がないわけでもないので,「やってみよう!」ということになった.
その研究では「音楽理論」を使うらしいので,指導教員として音楽理論をまったく知らないわけにはいかない.というわけで,音楽のことは何も知らず,楽器を弾くことがないばかりか,音楽を聴くこともあまりない私が勉強することにした.何から手を付けていいかすらわからない中,最初に手にしたのが本書「音楽の基礎」だ.
本書の最初の文は「音楽が存在するためには,まずある程度の静かな環境を必要とする」だ.そうに違いないが,これくらい基本から始めてもらえると,ド素人には有り難い.
本書は岩波新書なだけに,文章で音楽理論を理解できるのだろうかと心配していたが,多数の楽譜や図を用いて説明されていて,私でも読み進めることができた.ちなみに,最初の図は倍音の説明だ.
説明には有名作曲家の譜面も引用されているが,とても興味深かったのが,上下逆さまにしても読めて,逆向きの2人が同時にヴァイオリンを演奏するようになっているモーツァルトの楽譜だ.
これを実際の演奏した動画がある.
音階の説明では,その歴史や地域性についても説明されており,興味深かったのは,グィード・ダレッツォによる階名の発明だ.これがドレミファソラシドの元になった.16世紀にUtがDoになり,17世紀にSiが追加されたそうだ.
本書「音楽の基礎」を読むと,様々な音階,強弱,速度,リズムなどがあり,それらを表現するために,様々な記譜法が編み出され,現代の標準的な形式に収斂してきた歴史がわかる.途方もない数の速度記号や表情記号があることもわかる.カノンやフーガに多くの種類があることもわかる.そして,ショパンやベートーヴェンの天才ぶり,平均律音階を作り出し「フーガの技法」をまとめ「音楽の父」といわれるJ.S.バッハの凄さなどもわかる.
音楽ド素人にも読めるように,わかりやすく書かれているのは確かだ.それでも,本書の最終章「音楽の構成」で解説されている音程や和声は難しかった.さすがに,このような内容は,文章を読むだけではなく,音を聞きながら学ばないといけないのだろう.音楽理論を修得するには程遠いが,高校生以来30年以上ぶりに音楽の勉強をして,少し思い出してきた.
さて,音楽に関連する研究がしたいと直談判に来た学生には,新しい研究を始めるにあたって,本人の希望で,Native Instrumentsのキーボード,PreSonusのスピーカー,Abletonのソフトを用意することにした.これだけ揃えば良いそうだ.テンションアゲアゲで頑張って欲しい.
目次
Ⅰ 音楽の素材
1 静寂
2 音
Ⅱ 音楽の原則
1 記譜法
2 音名
3 音階
4 調性
Ⅲ 音楽の形成
1 リズム
2 旋律
3 速度と表情
Ⅳ 音楽の構成
1 音程
2 和声
3 対位法
4 形式
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