「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」その原因を探る
日本社会全体の出生率を動かすのは「大卒かつ大都市居住かつ大企業正社員か公務員」というキャリア女性ではない.非大卒であったり,地方在住であったり,中小企業勤務や非正規雇用であったりする女性が圧倒的多数であり,彼女らが置かれた状況や態度,意識などを中心に考えてこなかったため,日本の少子化対策は失敗してきた.
このように家族社会学者を名乗る著者は指摘する.
さらに,日本の少子化対策が失敗してきた原因として挙げられているのが,国民性が日本とはまったく異なる欧米各国の少子化対策を真似たからであるとも指摘されている.
欧米の国々に見られる特徴として,次の4つが指摘されている.
子は成人したら親から独立して生活するという慣習
仕事は女性の自己実現であるという意識
恋愛感情を重視する意識
子育ては成人したら完了という意識
日本では,未婚の若者は実家に住み,仕事に生き甲斐を求める女性は少なく,恋愛感情よりも人生設計や世間体を重視し,親は成人後の子の生活にも干渉する.このように,日本の恋愛観,結婚観,子育て観は欧米の国々のものとは大きく異なるので,欧州で成功したフランスやスウェーデンの少子化対策を真似ても効果はないのである.
スウェーデンと日本の違いを如実に明らかにしている調査結果が紹介されている.女性/妻の就業形態別に「夫は収入を得る責任を持つべきだ」と思うかどうかを尋ねた結果で,内閣府経済社会総合研究所のレポートに表が記載されている.
衝撃的なほど違う.家計の責任は夫にあると考える人が圧倒的に多い日本に対して,スウェーデンではまったくそうは考えられていない.これだけ意識が違う国に対して同じ施策が有効とはならないだろう.
日本で少子化を止めるためには,日本独自の特徴を考慮した対策を考えなければならない.少子化に影響しているであろう,日本の特徴として,次の3つが指摘されている.
将来の生活設計に関するリスク回避の意識
強い「世間体」意識
強い子育てプレッシャー
これが本書の結論であると,山田昌弘氏は述べている.
「世間並みの生活」を若者が期待できなくなってしまった日本.一億総中流は昔話で,親世代よりも良い生活はおろか,同等の生活すらも期待できなくなり,子育てどころか,結婚も,恋愛すらも控える若者が増えている.
交際相手がいるのは男女ともに少数派で,そのうち過半数は交際相手が欲しいとも思っていない.
未来を見通そうとするとき,その強力な根拠となるのが人口動態である.技術の進歩は速く,政治も不安定で,何が起こるかを予見するのは難しい.しかし,人間は毎年歳を取るし,親から生まれて,いずれ死ぬ.
「2050年の世界」(ヘイミシュ・マクレイ)で未来予測の根拠とされているのも人口動態である.そして,日本の凋落は確実視されている.
本書「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」を読んで,少子化の原因,日本の少子化対策が失敗してきた原因はよく理解できた.本書の最後で有効な少子化対策について検討がなされているが,もはやどうにもならないところまで来ているように思う.
なお,個人的には,日本では少子化を移民で埋め合わせるのは無理だと思っている.そういう国民性でない.
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